騎士学校の御前試合1
「───リエッタ王国の第二王子と結婚?」
「ええ、そうです。少々お歳は召しておりますが、王女としての役割を果たすには充分なお相手でしょう……。先方も、お前の姿絵を気に入ったみたいですし」
久しぶりに姉である元第一王女、現女王に茶会へと誘われ、明るい気持ちでやって来れば、リリアスが渡されたのは茶菓子ではなく、見合いの釣書と中年を随分と過ぎた第二王子とやらの姿絵だった。
リリアス出産時の病により数年で前女王はお隠れとなり、急遽第一王女が即位する事になった関係から、旧居城による従僕の庇護は続いても、王宮全体は彼女を虐げ続けてきた。
それを元老院が抑えようとも、女王に少しずつ権力を着けられてはどうにも出来ない。
「……女家庭教師も付けない、作法の先生以外は誰も用意しない、王女の居室に墓所を充てがう。そんな王家のために、ボクが政略結婚を受け入れるとでも、思っているの? 姉上って、本当にダメな女王陛下だね」
「お前が何を言おうとも、決まった話です。少しでも先方に気に入って頂けるために、まずは言葉遣いから矯正するよう、明日からは先生方にご指導して頂きましょう……」
話は終わりと一方的に女王は退出し、茶菓子どころかお茶の一杯も用意されないまま給仕係がテーブルを片付けていく。
政治を扱う出入り自由な貴族院、王位継承や伝統技術を扱う世襲制の元老院。オーファルゴートは、大地を作った始祖神が降り立ち王族が生まれたとされる二院制の国。
王宮や王族の大部分が貴族院派で占められる中、元老院派の第二王配を父に持つリリアスには、何処にも自由が無かった。
「それで、茶菓子の一つも渡さずに寄越してきた釣書と姿絵を暖炉の薪にして帰ってきたのですか……。あの女にティーカップの中身をかけて差し上げれば良かったのに」
王宮に戻っても身の回りの世話をする小間使いさえ与えられないと知っていた元老院とルイによって、自称超絶メイドさんのシャルファとリズレアの二人が従者に選抜され、小さな第三王女の住まいで一緒に暮らしている。
長い茶色の髪を揺らし、手先が器用で料理上手なのがシャルファ。灰色の髪を短く切り揃え、武術と戦略に長けているのがリズレア。世襲の関係で年配者が多い元老院の中でもかなり若い、二人組。
実のところ、ルイたち従僕の一族の手によって宝飾品や身の回りの物は最上級の品を用意されているのだが、リリアス自身が華美より武を好む性格だった事もあり、また婚姻を控えた第二王女からの嫉妬を避けるために、リリアスの居室や衣装でさえ最低限の物に留められていた。
「あぁ、こんな事なら明日の御前試合に隠れて参加申込しておくんだった。前日に呼び出されちゃ、紛れ込むことも出来ないよ」
「騎士学校の卒業前の記念試合、でしたっけ……王家の宝刀と栄誉を与えるとかの名目で優勝者や有力な騎士候補生を王宮に引き込むとか……」
シャルファが与えられなかったお茶の代りにクリームをたくさん乗せたシナモンティーを淹れ、リリアスは山のように積まれた砂糖菓子を無作法に手にしながら口に運んでいく。
「どうせ貴族院の出来レースだろうけどね、せっかくだから優勝者を倒して姉上たちに冷や汗をかかせようと思っていたのに…」
王女としての作法はルイから学んでおり、気品のある所作も行えるがそれをすると反感を買うため、公務の場以外でのリリアスは野蛮な振る舞いを常としていた。
最低限の行事への参加以外は、何をしても気にされる事もない。普段は旧居城に閉じこもり、ルイや従僕に甘やかされ、行事の際に第二王女や女王と接する際は横柄に振る舞う。
正しい作法をすれば嫉妬され、粗野に振る舞えば非難される。だったら、女王や貴族院の者たちは不要な存在と思って粗野に扱えばいい。
言葉遣いはルイの真似をするようになり、少年のような語り口調へと移り変わる。
旧居城ではルイや従僕に剣を学び、舞踏会や社交の場には必要最低限を除いて顔を出さない。
完全なる腫れ物のような扱いを受ける第三王女ではあったが、従僕の一族を束ねるルイの王で元老院の代表でもあったので、公的な罰や処分を与えられる者は誰も居なかった。




