旧居城との別れ1
半年ほど旧居城で過ごしていると、女王を支持する貴族院がようやく事態の深刻さに気が付いたのか、主のルイに面会を求めた。
すぐにそれは拒否され、新女王への非難に繋がったものの即位を取り消される事もなく、貴族院達はリリアスに定期的な行事への参加だけを執拗に求め、彼女への謝罪や待遇改善を行おうとさえしない。
旧居城の見張りの兵は、従僕を支持する元老院派の者に入れ替えられ、リリアスの父。前第二王配の親族が他国から呼び戻される形で元老院の重鎮に収まり、まるで戦火の籠城のように旧居城は閉ざされる。
「これでもう、貴方を傷付ける者がここへ立ち入る事もない。
欲しいものや学びたいことがあれば、ボクが何でも用意してあげるよ……。この場所は代々の王が住まうための場所だからね、貴方のために出来ない事は何もない。情勢が落ち着くまでは旧居城に居てもらうけれど、すぐに王城にリリアスの部屋を用意させるよ」
「でも、ルイはここから出られないのでしょう?」
「ボクは、従僕の長だからね。元々、王のための召使いである従僕は居城から、例え命を落としたとしても出てはならなかったんだ……。墓はこの地に作られ、始祖神の許に旅立つ事もない。歴代の王のためにだけ尽くすのが、従僕の役割だ」
重なり並ぶ、とても小さな墓を見つめ、それからリリアスはルイの深い青の瞳を覗き込む。
長以外の従僕は外に出られるが、望まない限りは旧居城で暮らす。従僕の長は、生まれてからずっと、永遠に旧居城から出る事はない。例え命を落としても、ルイがそれを願ったとしても。
「わたしは、ここからは出ません。ずっと、ルイといっしょにいます」
「---それだけは、ダメだよ。旧居城の王は自由に出入りをするものだ。従僕は王のための、ただの召使いで貴方とは違う。いつかはここを出て、姫君としての役割を果たさなくてはならない。それは王族としての義務であり、ボクたちの願いなんだ……」
何度となくルイはリリアスに外に出るよう促すが、旧居城への依存は強まり、自身を否定し続けた王宮への嫌悪感は消えそうにもない。大扉に近づく事でさえも恐怖を覚え、味方となる派閥の元老院の者や、父方の親族であっても接する事が出来なくなっていく。
即位したばかりの女王による横暴の結果ではあったが、まだ幼い自分を捨てるように旧居城へ押し込んだ大人たちへの恐怖と、外の世界への不信感は強まるばかりだった。
そのうち予定されていた講師の代わりにルイが勉強を教えるようになり、すっかり自分が第三王女である事ですら忘れ始めた頃には旧居城が、完全な自分の居場所となり、ルイだけが愛すべき友であり家族となった。
彼以外の従僕が決まりによりリリアスに言葉を発しない事もあり、彼だけに心を囚われ、全ての外への欲を失ったまま二人だけの蜜月は数年間続いた。




