第三王女リリアス1
葬儀を終えたノッデ・リリアスフィールト・オーファルゴートの朝は、墓所に備え付けられた粗末な小屋で目を覚ます事だった。
姉である第一王女が王位を継ぎ、先代の第二王配だった父が始祖神の御許に旅立つと、抵抗する間もなく押し込まれるように墓所に入れられ、王城への出入りさえ禁じられた。
ここは、かつて王の住まいとされた王宮内の墓所。正式には居城と呼ばれる場所に閉じ込められたまま、誰も第三王女の彼女を助けようともせず、声をかけられる事もなく、ただ知りもしない親族の墓所をぼんやりと眺めるだけの日々。
第二王配や母である前女王の墓所は城外に設けられており、見ることさえも許されない。
元々、王女続きだった王家に男子を求められたにも関わらず、第二王配との間に産まれた唯一の子はリリアスだけで、更に女王は産後の具合が悪く、半ば第一王女メリッサに即位を押し付けるような形で退位し、そのまま儚くなられた。
年若すぎる新女王が全ての元凶となるリリアスを快く思うはずもなく、墓守りという名の監禁を命じてからは会いに来たことさえない。
「…………わたしが、何をしたというの」
旧居城は入り口こそ狭いが奥行きが有り、広い墓所と小さな畑と庭園。それから鍵がかけられたいくつかの豪華な扉が設けられており、リリアスが自由に使えるのはアーガイル模様の廊下と、墓守りのための粗末な小屋だけだった。
食事は廊下の先、入り口である大扉の手前に外から入れられる戸棚が備え付けてあり、一日に二回だけ硬いパンと果実が置かれた。水は井戸から自分で汲むしかなく、他の物が食べたければ田畑を耕さなくてはならない。
大扉の向こうの兵士は声をかける事もなく、誰かを呼んでくれることもない。ただ出来る事といえば、簡素な寝台で身を曲げて丸くなり、泣き崩れる日々を送るだけ。
助けを求めるには思い付く相手さえおらず、第二王配だった父の親族は遠い異国で手紙を送ることさえ叶わない。
「…………こんな所に追いやられるなんて、君はどんな罪を犯したんだい?」
涙を流すだけの日々が続き、すっかり目元が腫れ上がった頃、粗末な小屋に珍しい銀髪を持つ青年が姿を見せた。
短く切り揃えられた髪には宝石細工が彩られ、人と呼ぶより妖精か精霊のような、貴い存在にさえ感じられる。
「ボクは、ルイ。この旧居城を管理している主だ……。ここは、子供が入ってくるような場所ではない、長い歴史のある罪深い所なんだ。それはわかるね?」
「ごめんなさい、わたしは、リリアスフィールト。あねうえに『はかもり』を命じられて、ここに来ました………」
なんとか涙を拭い、リリアスは精一杯の淑女としての礼と挨拶を返す。少し考えてからルイは素性を察したのか、頭を抱えて怒りを露わにした。
「…………リリアスフィールト。名前からして、貴方は第三王女だね。姉上というのは名ばかりの現女王の事かな、それが貴方に『墓守り』を命じたんだね?」
確かめるようにリリアスの手を握り、目線を合わせルイは腰をかがめる。
「はい。わたしは王家にふようだからこの地の『りょうしゅ』を命じられ、『はかもり』をするようへいかに言われました。ここからはけっして出てはいけないそうです……」
「この場所は、国王陛下とその伴侶以外の立ち入りを禁じられた、王のためだけに造られた小さな城なんだ。今は墓所としての役割に変わっているけれど、王であっても自由に出来るような場所ではない。その意味は、分かるね?」
幼い女王は、許されない禁足地を牢屋か何かのように考え、リリアスをここに追いやったのか、それとも知っていた上で押し込んだのか。どちらにしても王としては随分な行いであり、到底許される事ではないだろう。
「……ごめんなさい、わたしは入ってはならないところに、来てしまったのね」
「君に、怒っているわけではないよ。それに仮の女王とはいえ、王命で下した行いを取り消す事は出来ない。だからリリアスは、この旧居城の領主で王だ。貴方はボクたちを自由に扱えるし、そんな境遇に追いやった名ばかりの女王を決して許す事はないよ……。おいで、中を案内しよう」




