ライア夫人との出会い1
「──まあ、貴方が負傷して帰ってくるなんて……。いったい、誰と戦って来たの?」
やや千鳥足のデュランと共に屋敷に戻ると、公務で不在の辺境伯の代わりに、離れからやってきたライア夫人が出迎えた。
優しい眼差しの栗色の髪をした父方の祖母だそうで、時折、屋敷の管理を任されているらしい。
「初めまして、ライア夫人。ノッデ・リリアスフィールド・オーファルゴートです。リリアスって呼んで下さい。デュランは、その……」
「別に言わなくてもいい、転んだだけだ」
強がって見せても、やはり痛いものは痛い。だが自分の不始末なので、わざわざ話すほどの事でもなかった。
「あら、そうなの………。挨拶が遅れたわね、デュランの祖母のライアです。話は息子から聞いております。リリアス様と、呼ばせて頂くわ。こんな可愛げのない孫を好いてくださって、本当に嬉しく思います。二人の結婚式のお衣装を決める際は、私も是非参加させてね」
「うん。頑張って、デュランを口説きます!」
「口説かなくていい……」
強がり続けていたデュランをソファーに座らせ、ライア夫人は熱い紅茶と菓子を並べた。
少し緊張しながらリリアスも隣に座り、甘い蜂蜜がたっぷり入ったお茶を美味しそうに飲んだ。
「リリアス様に頂戴した蜂蜜を、早速使ってみたの。息子は、ベノンは恐れ多くて瓶を手に震えてたのだけど、美味しいモノは早く食べた方がいいもの……」
これ一杯で金貨と同等では、さすがの父も気軽に飲めないだろうと思いつつ、デュランも蜂蜜入りの紅茶を口にするが、値段に見合った以上の芳醇さと甘さを感じとり少し目眩を覚えた。
「この子ったら、普段から仮面被って引き篭もっていて、婚約者になりたがる方以前に友人も少なくて……。でも、リリアス様に嫁いで王宮入りされるって聞かされて」
「ボクが勝手に想って、押しかけただけだよ。ライア夫人のご期待に沿えるかは、乙女の手腕次第になるのかな? デュランにどうしてもダメだって言われたら、素直に居城へ帰るだけなんだ」
「ダメだったら、ルイ様が何とかしますけどね」
控えていたシャルファが不穏な言葉を呟くが、本当に何とかしてしまえそうなのが怖いところである。
「あ、そういえばライア夫人に挨拶用の焼き菓子を用意してなかった……。もう、配り終えてしまったから、新しく買ってお渡ししてもご迷惑じゃないかな?」
かなりの数を準備したはずだが、不在だった者への土産までは残されてはいなかった。お茶を飲み干し、出掛けようとするリリアスをライア夫人は手を振って引き留める。
「お気になさらなくていいのよ、頂いた蜜だけで充分ですから……」
「ううん、市場でまた何か買い物したいと思っていたんだ。挨拶は大事って、教わってきたから用意させて下さい」
「そこまで言うなら……。デュラン、もちろん貴方がリリアス様を護衛なさいね」
「お祖母さまの手土産を買うために、わざわざ孫を引き連れるのか?」
あれ程の実力を持つ陰の護衛が居ては、騎士学校を出た程度の候補生では、盾役にもならないだろう。気が進まないデュランに向け、リリアスはついて来て欲しそうにピッタリとくっついて来た。
「王女さまをエスコートするのが、貴方のお役目でしょう? たとえまだ、自分がその気になれなくても、女の子の護衛が出来ない者は、辺境伯家に一人もいませんよ」
「分かった……。姫さんの買い出し護衛任務を、精一杯務めさせて頂きます」
恭しく礼をしてから、デュランはリリアスの手を取って敬意を示す。その動きがまだ痛みでぎこちないが、格好だけでは何とか及第点といえた。




