ライア夫人との出会い2
お忍び用の小さな馬車が用意され、シャルファが御者の代わりを務める事になった。
エスコート役を任されたデュランはリリアスを馬車に乗せ、不思議そうに辺りを見回す。
「姫さん、陰の護衛が付いているとは聞いたが……。普通の護衛やお付きの者は来ないのか?」
屋敷や部屋の警護をアレンバイル家の兵に任せても、さすがに王女の護衛役までは頼めない。デュランは、お忍び用に王家からお付きが用意されると思っていたらしく、こちらで準備出来なかった事を詫びた。
「陰以外のお付き? シャルファとリズレアの二人以外、ボクには誰も居ないよ。そもそも、ずっと旧居城に追いやられてたし、外に出るまではシャルファ達も含めて、誰一人付けられなかったからね……」
「お前、第三王女だろ? 誘拐とか外交とかの問題は無いのか……?」
居心地が悪そうにリリアスの向かい側にデュランが座ると、見事な手さばきで馬車は市場へと向かう。
「ボクもそう思うんだけど、姉上は……。今の女王陛下は、王の器ではないまま即位したから、子供っぽいというか、ちょっと常識がないんだよ。
二人の姉上は第一王配の娘で、ボクは第二王配の娘。父上は、姉上や第一王配たちとは異なる元老院派だったから、対立している相手を虐げても王の権威は落ちないんだろうね……。よく、わかんないよ」
「何となく、オレが心底嫌っていた王家が何だったのか理解出来た……。姫さん。いや、王女殿下に失礼な態度を取って、すまなかった」
騎士学校ではデュランが活躍するたびに、王家やその関係貴族から攻撃的な扱いや批判を受け続けていた。元老院派の筆頭であるアレンバイル家への圧力も兼ねてのものだろうが、辺境の領地では同調する派閥を作ることは難しく、まして素顔を隠しているデュランにそれをする事は困難だった。
もしかしたら、弟も幼年学校で同じ扱いを受けているかもしれない。そう思い返すと、デュランは更に腹立たしいものを感じる。
「王女殿下ではなく、リリアスと呼び捨てで呼んでくれると嬉しいな。一応これでも、ボクは君に好意を持ったから押しかけて来たんだし……」
「それなんだが……。こんな仮面を被った男の、どこに惹かれる要素が有るんだ?」
リリアスは楽しそうに笑いながら、狭い車内でくっつけ合っていたデュランの膝にそっと手を置く。
「剣は心を表しているって、ボクはルイに教わったんだよ……。ルイは、旧居城に押し込められたボクを助けてくれた、従僕の長でね……。ボクはとても、ルイを尊敬してるんだ」
「オレには、よくは分からないが。別に、想われるのは悪い気分じゃない。……ただ、この仮面を外すと相手に畏怖を与えるらしくて、あまり晒せないんだ」
「ボクは気にしないよ。デュランが見せたいと思った時に、外してくれればいいさ」
ちょうど馬車が止まり、小窓を開いてみれば最初に来た時と同じ市場の近くへと到着していた。
シャルファは馬の足並みを整えてからドアを開き、すぐにデュランが降りて手を差し伸べる。
「陰の護衛さんたちも、デュラン様を信用されるという事ね……」
以前はリリアスの手を二人で握っての奇妙な護衛だったのに、今日は完全に姿を隠しているらしくシャルファも気配さえ感じ取れなかった。
貴方さまが唯一の護衛なのだから、陰の方に盗られないようにしっかりと手を握って見守って下さいねと告げると、デュランは気恥ずかしそうにリリアスの手を握り返した。




