愛を拒否する仮面の騎士2
アレンバイル家としては、血の濃さと世継ぎに関して問題がなければリリアスの事は大歓迎のようで、反対し続けるデュランの意思を無視して、彼の部屋の隣にリリアスの部屋を用意した。
多少、屋敷が荒れていてもさすがに辺境伯邸。シャルファ達の控え部屋もすぐに整えられ、陰の護衛たちの補佐となる兵士まで揃えられていく。
「───何で、姫さんが辺境守備隊の訓練に参加しているんだ……」
鍛錬も兼ねて兵舎に向かうと、楽しげに兵に混じって素振りを繰り返すリリアスが居た。
わざわざ女性用の防具まで持参してきたようで、気まぐれにしては随分と向き合う姿勢も整っている。
「……あ、デュラン殿。わざわざボクを心配して、ここまで見に来てくれたのかい?」
「早く帰れと言ったのに、守備隊の兵士に馴染んでるのはどういう戦略だ?」
リリアスとのやり取りを茶化してきた守備隊を軽くあしらい、バツが悪そうにデュランは装備を整える。
「戦略も何もないよ……。ボクは、剣を振るうのが大好きなんだ。小さい時からルイに鍛えて貰っているんだけど、まだ及第点には届いていない……。出来れば、陰の護衛さんたちと互角に戦えるくらいになりたいんだけど、ね」
リリアスによれば、陰の護衛は常に二人ずつ付いていて、領地には全部で五人引き連れているらしい。周囲を見回しても人影すら見当たらず、本当に護衛が付いているのか不思議で仕方なかった。
「王のための陰の護衛って、アンタに危害を加えない限り姿を見せないんだったか……。参考までに、試してもいいか?」
「うん、別にデュラン殿たちに見られても問題ないよ」
試しだから無礼討ちはしないでくれと告げてから、デュランは木剣をリリアスの顔に向けて撃ち込む。剣の軌道が髪を掠めるより早く、デュランの手は叩き落とされ、木剣が地面に落ちる前に陰の護衛は姿を消した。
「デュラン殿……!」
「一人が剣を押さえて、一人が先回りしてオレを打ち据えたのか……」
手の甲から流れ落ちる血をリリアスが拭き取るが、すぐに癒えるような浅いものでもなかった。
更に斬りつけた際に背中も蹴り上げ、腹に膝蹴りまで加えられていた。これが試しではなく刺客によるものなら、考える暇もなく切り捨てられていただろう。
「大変だ、血が止まらないよ! 早く治さなくちゃ!!」
リリアスに手を引かれ、木陰へと引っ張り込まれる。控えていたシャルファが濡れ布巾と包帯を宿舎から持ち出し、デュランは妙に手慣れた手付きで、リリアスの手当てを受けることとなった。
「──その、試しとはいえ、姫さんに剣を向けて悪かったな……」
「気にしないでいいよ。でも、出来たら今度はデュラン殿と打ち合いもしたいな」
手当てを終えたリリアスは、どこに陰の護衛が潜んでいるのかを理解しているらしく、試しだから斬りつけちゃダメだよと二人に向けて注意をしていた。その方向を隈無く探しても、二人の護衛が隠れているようには見えない。向こうも何かの会話をしているらしく、聞いたこともないような言葉が僅かに聞こえてくる。
「……これは、相当やられたな」
安堵すると腹と背中の痛みが酷くなってきて、防具を外してみれば何度打ち付けたのか、どちらも打撲して真っ赤になっていた。
(………王女に剣を向けたら、まあこうなるよな)
長年の付き合いによるものはあるが、こちらが全く見えない護衛の気配を感じ取れるリリアスも、それなりに実力を持つのだろう。
「やれやれ……。オレがアンタに帰ってくれというのは、王女に対する辺境の地での危険さを回避するためでもあったんだが……。この強さじゃ、心配も杞憂だったか」
「そう、だったの? 心配してくれてありがとうデュラン殿!」
「デュランでいい、殿は不要だ……」
詫びのつもりでそう伝えると、リリアスは嬉しげに名を呼んで抱きついてきた。打撲の痛みが酷くなったが、何とかうめき声を出さずに耐えるしかない。
「じゃあ、心配も解消されたし……。デュランはボクと一緒に旧居城に来てくれるよね?」
「行かない。姫さんたちだけで旧居城に帰ってくれ」




