愛を拒否する仮面の騎士1
「わたしは、ノッデ・リリアスフィールト・オーファルゴートと申します。デュラン殿。どうか、この婚姻を受け入れて貰えないでしょうか?」
「───帰ってくれ」
リリアスの一方的すぎる愛は、騎士学校を卒業した仮面の騎士デュランによる当然の拒絶で打ち砕かれた。
別派閥に満ちた御前試合で優勝したのに王家は褒賞の宝剣も奨励金も渡さず、おまけに飛び入りの第三王女は乱入して暴れ、顔を隠した相手に唐突な結婚の申し込みをしたまま簀巻きにされて連行されたと思ったら、面倒な卒業式を終えて屋敷に帰ると従者を引き連れて押しかけていた。これで、どう考えたら好意を持つと言うのか?
「話を聞く限りでは、リエッタ王国の中年王子との結婚を嫌がって、適当に見つけたオレを盾にしたとしか思えない」
「別に、ボクはそんなつもりは……」
侍女のメイリが気を利かせてお茶を運び、平行線の二人は向かい合ってソファーに腰掛けた。
デュランは顔をほとんどベールで隠しているが、その表情が不機嫌だったのは明らかだ。
「だいたい、アンタと……。第三王女殿下とオレとでは家格こそ釣り合っているが、血が濃すぎて謀反を疑われる。だから、そもそもオレだけではなく、アレンバイル家の人間と王家の者が結ばれる事はない」
「血が、濃すぎる……? だって、ボクとデュラン殿は再従兄弟で、そこまで近い親戚でも……」
あまり口にしたくない話なのか、一瞬悩んでからデュランは告げる。
「亡くなったオレの母上は、断絶したヘイヴェン侯爵家の者だ……。その血筋の者だと知ったのは、随分後の話にはなるが、王族の外戚だ」
「かの侯爵家に連なる者でしたら、ルイ様が許可を出すのも、納得です……」
ヘイヴェン侯爵家は従僕を教育する役割を持つ移民の貴族だ。政変の騒動で断絶したと思われていたが、確か幼い子供だけが罪を許され、還俗した従僕と連れ添ったと微かに記憶している。
明確な系図までは追えないが、デュランとルイは従兄弟程度の親戚となるだろう。これでは、もし仮に二人の間に子供が出来たとしたら、現行の王家を無視して即、新たなる王になれる。だが、そこまで知っていた上でルイが旧居城で暮らす許可を出す理由は、何だろうか……。
「───ヘイヴェン侯爵家は従僕の、血筋。デュラン様は、ルイ様とも血が繋がって……?」
「あ、デュラン殿。それは大丈夫だよ、従僕は王の愛妾でもあるから、子供を作ってもいいんだ」
リズレアが頭を悩ませていると、ふと思いついたリリアスが明るい笑顔で問題の正解を告げた。
亡き辺境伯夫人が従僕を父に持つとすれば、デュランとその弟は従僕の一族だ。つまり、旧居城の決まりが適用され、王族との間に子供が出来ても王家の意思とは関係なく育てられる。
「…………だとしても、だ。オレは王宮に入るのを良しとしないし、王女殿下に媚を売ったり、野心を持つ気もない。この地の領主となって、辺境伯になる。それが、ここの決まりだ……」
「でも、騎士学校に通っていたくらいだから、デュラン殿は、本当は騎士を目指して居たんだろ?」
長男が騎士学校で、次男が幼年学校ならば、辺境伯を望まれているのは次男トートスの方だろう。顔を隠す理由までは分からないが、姿を見せないまま辺境伯となるのは難しすぎる。
それなら弟を支えるための参謀となるか、顔を隠せる騎士として出仕するしか道がない。
「…………そんな気持ちも、確かにあったが。あのような場所ではな……」
準備期間のないまま幼く即位した女王、貴族院から選出された王配によって、二院制は大きく崩れている。伝統や決まりを守る元老院、政治や治世を守る貴族院。
そのバランスが大きく崩れた例が、御前試合のように貴族院派を優先した騎士選定。
「だったら、デュラン殿にはボクの騎士さまになりたいと思わせてみせるよ。そもそも、第三王女なんて呼ばれているけど、名ばかりの存在だからね……。ただのリリアスと、共にありたいと君に誓わせるから、覚悟してね」
「いや、迷惑だから帰ってくれ」




