初めての挨拶をしました2
「ルイリントベル・オーファルゴート様、ご本人による許可です」
シャルファが補足のために伝える。いっそ、何も知らないで居たかったが、非常に聞き覚えのある高貴なお方の名を出されては曖昧な返答も出来ない。
歴代の王をこれまで支えてきたのが、従僕と呼ばれる王専用の小間使い。
ありとあらゆる知識と経験を積み、特別に育て上げられた王の血筋の一族。
王のための愛妾でもあり、王との間に子供を作って育てることさえ許された特権階級。王を守る陰の従僕でさえ、彼の意思で扱える、従僕の長がルイである。
「あ、これはルイから辺境伯へのお土産です。それから、こっちは挨拶の焼き菓子です」
完全に固まってしまったベノンに、焼き印と細工が施された蜂蜜瓶の入った木箱と焼き菓子を手渡し、ついでに、執事長のカウスやお茶を運んできた侍女メイリにも挨拶用の焼き菓子を渡していく。
「…………あ、あのう。この、蜂蜜は……」
木箱の刻印に手が震えてしまい、ベノンは力なく膝をついた。土産用にするだけあってかなりの大瓶が納められてあり、模倣品にしては出来が良すぎた。
「ルイが、辺境伯にお渡しして下さいって」
カウス執事長の手を借りて、木箱の蓋を開けていく。大瓶の蜂蜜は紛れもなく絶対のご禁制の蜜であり、小さな小瓶に収められたものでさえ、捨て値でも城が買えるくらい価値がある。この大きさでは領の収入の数年分か、それ以上だろう。
この蜜を作り出す蜂は、正しく育てれば極上の蜜を作り出すが、間違った育て方をすると人の感覚を狂わせる麻薬の蜜となる。少数部族だけが種蜂を持っており、国際的に養蜂が禁じられた蜂蜜。本の中で書かれているだけの知識が二人の大人たちに襲い掛かり、ベノンはカウスに休むよう伝えてから箱の蓋を閉じた。
「……パンに付けて食べると、とても美味しいですよ。たくさん有るから、気になさらず召し上がって下さい」
これだけの大きさを気軽に用意出来るという事は、間違った育て方の麻薬も……。
『王のためにだけ造られた従僕は、王の望みを何でも叶える事が出来る』
これは、第三王女を無碍に扱ったらどうなるかという脅しだろう。その気になれば貴族院の連中に麻薬を与えて意のままに操れる、他国に贈って国そのものを消す。それをあえて行わず、メリッサ女王の好きにさせているのは、リリアスを成長させるため。
「…………む、息子は。デュランは騎士学校の卒業を控えておりまして、戻り次第のお返事でもよろしいでしょうか? 向こうの意見を聞いてみませんと、現時点では何とも……。あぁ、お待ちの間は客室を用意させますので」
「もちろんです、そのようになさって下さい。お部屋のご用意も、ありがとうございます」
精一杯の言い訳は了承され、ベノンは出来るだけ遅れて来るように伝達を送る。
せめて在学中であれば猶予も出来るが、卒業してしまっては止める手立てもない。
母なる始祖神に『どうか、次男のトートスだけは良縁を』と願ってから、ベノン辺境伯は気力だけで第三王女一行を客室に案内した。




