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小林少女と銀色探偵団 時の端の赤とんぼ  作者: ちみあくた


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 事務所のラーメン臭い卓の向うから、須藤珠恵は話を終えたばかりの小林星を見つめ、穏やかな笑みを浮かべた。


「そう、優しい子なのね、あなた」


 俯いたまま、星は首を横に振る。


 先程まで出口の前を塞いでいた紀一と潤二は、カウンター席のスツールへ腰を下し、話に耳を傾けていた。


「その気持ち、判らんでもない。でも、お嬢ちゃんの家、そこそこ金はあんだろ? 費用が負担できるなら、要介護の高齢者が生活しやすいよう、きっちり作られた施設が幾らでもある。安いトコの順番待ちしている人も多いし、入所先を選べるとしたら不幸とは言えねぇ」


「それはそうだと思いますけど……」


「何か、自分の中で納得できない所が有ンのか?」


「家族で決断する日が何時か来るかもしれません。でも、今のままじゃ……」


 不確かな自分の気持ちを確かめ、星はゆっくり言葉を選んだ。


「これじゃ、まるで厄介払いするみたい。そんな風におばあちゃんとさよならするの、嫌です、絶対!」


「ウン……わかりました。私達の事務所で、やれるだけの事はやらせてもらいます」


 星の肩を叩き、力強く珠恵は言った。


「ま、ウチへ来たのは正解だ。他のトコじゃそんなヨタ、門前払いだろ」


「キ~さん、そんな言い方無いっしょ」


「だってよ、タイムスリップったって詰まる所、お嬢ちゃんの思い込みだろが」


 潤二の窘めを無視し、刑事時代の取り調べの癖が出て、紀一は星を正面から藪睨みにした。


 睨まれてカチンと来たのだろう。コワモテのおっさんを見返し、星はテーブルへ身を乗り出して反論を始める。


「ネット投稿された動画の背景はウチの近所じゃありません。全然、見た覚えの無い景色ばっかり。変じゃないですか? どう考えても祖母よりボクの方が行動範囲は広いのに」


「……徘徊する内、婆ちゃん、思いがけず遠くへ行っちまったのかも」


「なら、どうやって祖母は帰って来たんですか?」


「歩いて、だろ?」


「そういう意味じゃなく……病気になる前から祖母は土地勘が鈍いんです」


「よ~するに、方向オンチ?」


「ええ、わりと……だから、知らない道に一人でいたら、ただ迷うだけ。戻ってなんか来られません」


「ん~、いつも夕方のほぼ同じ時間帯に帰宅したって話も、不思議っちゃ不思議だもンねぇ」


 首を捻って考える度、てかるオデコの赤みが増す紀一を、潤二が楽しそうに眺めてツッコむ。


「んじゃ、よぉ。婆ちゃんが一人じゃなかったって線はどう?」


 紀一の問いに、今度は星が首を傾げた。


「つまり、婆ちゃんが誰か悪い奴に騙され、連れ出されたんじゃねぇかって話よ」


「……他人が関わっている可能性、ボクも何度か考えたんです。でも、あんまりリアリティが感じられなくて」


「りありてぃ? 何だ、そりゃ」


「最初に祖母が姿を消した時も、徘徊を繰り返した時も、ポケットの小銭しか持っていなかったんです」


「ん~、当然、金目の物なんて他に一切無いよねぇ?」


「はい」


「……物取り目当てはあり得ない訳か」


「だからって、何~ンかの関与がないとも言えないよね~」


 紀一が宙を睨み、軽いノリで潤二が言う。


 二人の言葉を受け、あくまで冷静に珠恵が指摘した。


「あの動画を染子さんと仮定した場合、少なくとも動画を撮影した何者かがいる筈。その人物を突き止め、彼女を連れまわして何の得があるか解明するのが、最初のテーマになりそうだけど」






 静まり返った事務所で皆考え込む中、奥のパソコンデスクに座っていた達樹がいきなり立ち、歓喜の雄叫びを上げた。


「お義母さん、やりました! 動画にかかっていたモザイク、取れましたよ」


 液晶モニターの画面が、珠恵達の方へ向けられる。


「アマチュア御用達のショボいフィルターだったんで、除去は簡単でした」


 如何にも頼りなく見える達樹だが、最大の取柄はIT技術。大手のソフト開発会社で各企業ごとにカスタマイズされた管理システムの構築を任されていた時期もある。


 こんな時だけ頼りになるわね。


 そう思いつつ、珠恵は、老婆が振向いた場面で停止させている動画を凝視した。


「星ちゃん、これ、確かに染子さん?」


 顔部分のモザイクは綺麗に除去されていたが、動画の解像度が低い為、表情がはっきり判別できる訳ではない。それでも液晶画面のすぐ側まで顔を寄せ、凝視した星は即座に断言した。


「間違いありません。祖母です」


「グッジョブ、達樹君!」


 史子に肩を叩かれ、達樹は会心の笑みを浮かべるが、すぐ表情を翳らせた。


「それにしてもコイツ……えらく性質が悪い動画ですよ」


 達樹の操作により動画は早送りされ、ラスト寸前のブレイクダンスのシーンが映し出される。


「星ちゃんが推測した通り、最後の場面だけ別人です。衣装も似てるけど別物。何より体格が違っており、おそらくは男性。

歩道のガードレールは路面から80センチ高が一般的ですから、それとの対比で160センチ前後の身長ではないかと」


「祖母の身長は148センチです」


 画面を見つめ、星が言う。


「最後のトコだけ入れ替わるなんて、何故そんな面倒な真似したんでしょう?」


「今更の話だけど、動画は広告付きでサイトへ載せたら、アクセス数に応じた収入に繋がる。より刺激的に、面白く演出しようとするのは自然な流れよね」


「多分、それだけはありません」


 星の質問に珠恵が答え、達樹がすかさず補足した。


「ネット犯罪の増加に伴い、警察庁はサイバー犯罪課を立ち上げてネット上のコンテンツを監視しています。そこで犯罪性のある動画を見つけた場合、検挙に結びつくケースがあるんです」


「そう言えば、ペットの虐待動画を流した人が逮捕されたってニュースを見たわ」


「要するによぉ、仮に警察が問題視しても、若者が老人を演じる冗談だとごまかせるよう演出を加えたって事か?」


「その上、始めの歩く老婆にだけモザイクを掛け、ラストのダンスシーンではモザイクを使っていない」


「確かに、顔が画面外に出てるわね」


「演じる男がモザイク除去で特定されるリスクを考慮している訳で、即ち、撮影サイドは動画の悪辣さを自覚している」


「確信犯って訳か……」


読んで頂き、ありがとうございます。

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