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小林少女と銀色探偵団 時の端の赤とんぼ  作者: ちみあくた


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 それから先の数週間、星にとって慌しい毎日が続いた。


 四月六日の入学式でスタートを切った高校生活に加え、時々ふっと姿を消す祖母の捜索にも駆り出される。


 「お兄ちゃんの赤とんぼ」を初めて見た日から一週間後、染子は再び家を抜出し、日を追う毎に徘徊の頻度が増していった。


 医師の助言に従い、誰かが家に留まって、時折り染子の部屋を覗く事も心がけているが、それでも徘徊を防げない。


 家族の僅かな隙をついて抜け出し、夜が更ける前には素知らぬ顔で戻ってくる。

 

「星、お前にも迷惑をかけるな」


 四月半ばのある日、夕食を終え、染子が自分の部屋へ戻った後に敦が話し掛けてきて、両親が認知症患者の完全介護を謳う施設を探している事実を知った。


「やはり、家でみるのは無理だったんだ。高校生活が始まったばかりなのに、これでは勉強に集中できないだろう」


「いや、ボク、ど~せ勉強は……」


 苦手だし、やりたくないし。


 そう言葉を続けようとして、食卓の右隣にいる知美が唇を噛み締め、嗚咽を堪えているのに気付く。


「可哀想にね、おばあちゃん」


「うん」


「もし普通の状態だったら、あなたに迷惑をかけるのを一番嫌がる人ですもんね」


「……うん」


 このままじゃ施設入所は時間の問題だ。

 

 どの家庭にも有り得る問題だとわかっていて尚、割り切れなかった。


 いつも膝の上で甘えさせてくれた幼い日の記憶が疼き、できるだけ長く染子と暮らしたいと思った。かと言って、具体的な手段も何一つ頭に浮かばなかったのだが。






 迷いを払拭し、プロの「探偵」へ相談する決意をしたきっかけは、入学式から二週間が過ぎ、同じ一年D組の友人・木崎麻耶から或るネット上の投稿動画を見せられた事だ。


「ど~よ、このバーちゃん、スゴくね?」


 星の目前に掲げられたスマホの画面上、両手を広げ、ブ~ンと小さく声を上げて、見知らぬ街を行く老婆の姿が映っていた。


「何……何なの、コレ!?」


 老婆が歩いているのは車の交通量が多い郊外の国道、路側帯ギリギリ。


 一歩間違えば車道へ出そうな雰囲気で、老婆の足元がふらつく度、すぐ側を凄いスピードで大型トラックが通過していく。

 

「……ひどい」


「あ~、そんな、マジに見なくて良いよぉ。たかがネットの動画じゃん」


「だってコレ、危な過ぎ! 撮った奴、何考えてんだろ。面白がるより早く、お婆ちゃん、助けなきゃ」


「あのさ~、アカリ、ヤラセよ、ヤラセ。ホ~ラ、動画の続き、見てみ」


 歩く老婆の足元から、カメラが切替わり、動画が暗転した。


 次の瞬間、背中を向けたまま老婆は軽やかにステップ、歩道横の芝生で逆立ちし、ブレイクダンスを決めて見せる。


 ピースサインする老婆の首から下だけ停止画になり、『老害撲滅委員会・制作』との人を食ったテロップで動画終了だ。


「ね、どう?」


 麻耶は悪戯っぽく笑った。


「ど、どうって……ワケ、わかんない」


「よ~するにさ、この動画のバ~ちゃん、若い奴が化けてんのよ。始めから最後まで」


「……そうかな」


「若い世代の邪魔するウザったい年寄り、派手に笑い飛ばそうってネタなンよ。これなんか可愛いモン。もっとヤバ~い奴がネットに流れてる」


「じゃ、老害撲滅委員会ってのが、他の動画も作ってるのかな?」


「ん~、ど~だろ? あたし、よくわかんないけど、アカリもそんな事言ってると、時代に取り残されちゃうよ」


「時代?」


「これからはあたしらの世代と、出しゃばる老害が戦う時代になるって、動画のコメント欄に出てた」


「ボク……何か、いやだ。そういう考え」


 白けた表情で動画の表示を消そうとする麻耶の手から、星はスマホを取って最初から見直した。






 動画を撮影するカメラの位置は、老婆の背後へ据えられている。


 老婆本人についてはラスト寸前まで後姿しか見えず、そのラストシーンでも首から下しか映っていないが、星はその衣装に見覚えがあった。

 

 と言うか、見慣れている。染子が日頃愛用する着物の柄とそっくりで、歩く姿の体格まで瓜二つ。

 

 そしてラストの踊る部分だけ他の誰か、若い男性と入れ替えて撮影したように思える。AIが作成したフェイク動画かも知れない。

 

 例えば祖母が徘徊中、誰かの目に留まり、面白半分に撮影された映像が前半ネタ元の可能性は無いだろうか?


 麻耶から動画サイトのアドレスを聞き、星も自分のスマホでチェックしたが、どうやらそれは小林家近辺で撮られてはいない。


 そして一瞬、老婆がこちらを振返る場面があり、顔はボカシの画像処理がされているものの、胸に小さなペンダントが揺れているのが確認できた。

 

 始めて「赤い竹とんぼ」を染子が見た日、握りしめていたガラスの欠片と、色や模様が酷似した品だ。

 

 

 

 

 

 帰宅後、星は染子の部屋へそ~っと忍び入り、ペンダントを探してみたが、そんなものは部屋の何処にも見当たらない。

 

 やっぱり他人の空似だろうか?

 

 だが、あれ程大事に握っていたガラスの欠片を捨てたと思えず、動画が祖母を撮影したものだと言う疑惑も消えない。


 悩みに悩んだ末、星は重い足取りを探偵事務所へ向けたと言う訳なのだが……


読んで頂き、ありがとうございます。

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