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珠恵は達樹に指示し、もう一度動画の中盤、老婆が振向くシーンまで巻き戻させた。
「星ちゃん、この場面で揺れるペンダント、あなたが見たと言うガラスの欠片と同じかどうか、確認して下さい」
拡大処理され、造作が前より明確に判るペンダントのヘッド部分を珠恵が指さす。
「え~……イマイチ自信ありませんけど、多分、同じ物じゃないかなぁ?」
暫く沈黙し、珠恵は物思いに沈んだ。
「タマちゃん、そいつが何かわかるんですか?」
潤二の問いに無言のまま珠恵は肯く。
「勿体ぶらねぇで、教えてくれよ」
「もしかしたら……染子さんは本当に時を駆けていたかも」
「ええっ!?」
紀一と潤二は素っ頓狂な声を上げ、顔を見合わせた。珠恵までボケたのか、と恐ろしくなったらしい。
「キ~さん、トドさん、しっかり見て。私達の世代なら、見覚えあるでしょ」
達樹が気を利かせ、動画の一部を範囲指定して、更に限界まで拡大してみせる。
そのペンダントは、溶かした銀でガラスの欠けた部分を補い、丸く成型し直したトップを同色の銀鎖に繋いだ品らしい。
そして、その欠片はくすんだ緑色をしており、中央に厚みがあって、らせん状の渦の彫り込みが入っている。
「あ、これって、確か……」
「うん、ベーゴマだぜ、ガキの頃、俺も良くやった」
「べ~ごま? 何、それ?」
「昔の玩具だよ。裏のグルグルの所へ紐をひっかけ、投げて回す」
星は珍しそうに画面へ顔を寄せ、ペンダントを見つめた。確かにコマと言えばコマに見えない事も無い。
「それにしてもレアだねぇ、ガラス製とは」
「何しろ地面へ投げて、他の奴のコマとぶつけ合う遊びだからな。普通は鋳鉄製で滅多に壊れない造りなんだが」
「ん~、ガラス製じゃすぐ割れちゃうもんねぇ。商品として成り立たんだろうに」
「俺ぁ昔、ベーゴマを空き缶一杯集めた事もあった。でも、こんなのを見たのは初めてだぜ」
よほど懐かしかったか、紀一はベーゴマを投げる真似をした。
「ふふっ、お二人が珍しく思うのは無理ないわ。その玩具は私達より前の世代、戦時中にしか作られず、あまり出回らなかった品ですから」
珠恵の良く通る声が、未だオープンパーティ用の装飾が残る屋内に響く。
「そうか、戦争末期は鉄が足りず、鍋や釜をお上が徴収したって話だもんな」
「ガラスを代用にしたんですねぇ」
「ねぇ、星ちゃん。染子さんの憧れの人・弘也さんは子供達に手造りの玩具を渡していたそうだけど、青年学校で技術を学んだとして、ガラスの玩具なんて作れたかしら?」
「……そこまでは、おばあちゃんから聞いていません」
「でも、可能性はあるのね」
「多分」
「私の友人に古い玩具の収集家がいて、集めた品を見せて貰った事があります。その時、ガラスのベーゴマの話を聞きましたが、友人も実際の品を持っていなかった。
キ~さんが言った通り、壊れやすい品である為、殆ど現存していないそうです」
「ん~、それが現代に現れたって事は……」
「本当に、染子婆さんが80年の時を飛び越え、憧れの人に会ってきたって、か?」
珠恵は肩を竦めた。
「そういうのは、これから調べて解明すべき点。ですが私、この動画の中にね、他にも気になる点があるんです」
又、達樹に指示し、珠恵は動画を拡大したままスローモーションで動かしてみる。振り返る寸前の染子のクローズアップでポーズを掛け、
「この場面、変じゃありません?」
「何が?」と紀一、潤二、星が同時に声を出す。
「この動画、ずっと染子さんの背中から撮られてます。だったら、撮影者は染子さんの後ろをついてきている筈」
又、三人が同時に頷いた。
「でも、そう仮定した場合、撮影者の方を向く染子さんの顔の向きが変なんです。少し見上げてる感じ、しません?」
「あ、そう言えば……」
「なだらかな坂道を上るシーンですからね、後ろを向くと見下げる感じになる筈なのに」
確かに珠恵が指摘した通り、画面上、モザイクが掛かった染子の顔は斜め上を向いているように思える。
「まさか81年前の幽霊が、婆ちゃんの頭の上でフワフワ飛んでるなんて事!?」
潤二のツッコミに、オカルト嫌いの史子が悲鳴を上げ、隣の達樹へ抱きつく。
ラブラブじゃん。こんなに仲が良いのに、この人達、何でまだ結婚してないんだろ?
横目で見た星が首を傾げたのを余所に、珠恵は史子と達樹をチラリと睨み、ポーカーフェイスを崩さず言った。
「達樹君、染子さんらしき女性が映る全ての動画を検索して下さい。その投稿者についても、情報収集をお願いします」
未来の義母からポイントを稼ごうと思ったのだろう。達樹は気合を入れ、動画の検索を始める。
「じゃ、俺達は?」
「そりゃ、やっぱり調査の基本でしょうねぇ」
「つまり、聞き込みだな!」
紀一と潤二は今にも外へ駈け出しそうだ。入り過ぎた気合のガス抜きも兼ね、珠恵は二人に適当な指示を出した。
「そうね、小林さんの家を中心に話を聞いて下さい。あくまでも穏便にお願いしますよ」
「オウ!」
「染子さんが徘徊をした日、其々の時刻はわかっていますね、星ちゃん?」
「アバウトも良いトコですけど」
「徘徊の目撃者がいれば、染子さんが進んだ方角を推測できます。それに情報が集まった場合、コレが物を言うだろうし、ね」
懐から青い何かを出し、チラリと「G」マークを見せて珠恵は笑う。
「……あ、珠恵さん、忘れてた。仕事を依頼したら、その丸いのが何か、ボクに教えてくれる約束ですよね」
「あ~、そうだっけ?」
珠恵が勿体ぶっている間、紀一が出口へ向かって星の背中を押した。
「オイ、依頼人さんよぉ、今は余計な事、気にしてる場合じゃねぇぜ」
「キミの婆ちゃんが歩きそうな道筋を教えて頂戴。それにそって、聞き込み開始ね」
問答無用で外へ星は押し出され、聞き込みに同行する羽目となった。
張り合って先を急ぐ二人を追い、さっきまでの不安や後悔が胸をよぎったが、すぐ消える。
祖母を救いたい気持ちも然る事ながら、「銀色」と称する、この奇妙な探偵事務所に、星は強い好奇心を抱き始めていたのだ。
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