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『老害撲滅委員会』を名乗る若者達は、各々が激しい敵意を剥き出しにし、警棒や鎖を振り回して威嚇を繰り返した。
「甘い顔してりゃ、つけあがりやがって!」
「ヘッ、ガキと年寄りじゃ相手にもならねぇ」
「ボコボコにするとこ、一応、ドローンで撮っとけや。編集したら、後で使えるかも知れないだろ?」
日名子だけが妙に冷静で、後の連中はひたすらクレージー。気勢を上げる度、自分の声で興奮しているようだ。
対する紀一は怯えっぱなしの染子と星を庇わねばならず、潤二はいつもの及び腰。良太は危うく溺れかけたショックで座り込んだまま。
おまけに背後は堤防で逃げる場も無い。
誰がどう見ても劣勢……と言うより、絶体絶命も良い所なのに、珠恵は悪戯っ子さながらの楽しげな微笑を浮べ、
「あら、私達だけと誰が言った?」
嘯くと同時に、服の袂から青くて丸い何かを取り出した。
「あ、それはっ!?」
星は身を乗り出し、叫ぶ。ここ数日、彼女の好奇心をくすぐってきた謎の物体……その正体は『GD』と文字を刻み込んだ金属のバッジだ。
色々と仕掛けが組み込まれているらしく、縁にある縁色のスイッチを押すと、発信音と共に『GD』の周囲でLEDが輝く。
ちょっとオモチャっぽい外見だが、掲げる珠恵は大真面目である。
「オイ、何だ、それ!?」
「君達、江戸川乱歩先生の傑作、『少年探偵団』シリーズを読んだ事、有るかしら?」
「知るか、んなモン」
「あ~ら、残念。小学校の図書館なら何処にでもある定番よ」
「だから、それが何だっての!?」
「少年探偵団はみんなBD……ボーイズ・ディティクティブ・バッジを持っていて、メンバーの一人が犯人を捕まえる時、仲間へ救援信号を出すと、それを手に町中から集まってくる」
嬉々として語る珠恵の饒舌は、文字通りの立て板に水。日名子達は毒気を抜かれ、襲うに襲えない。
一方、星と良太は、ただポカンと見ているだけ。紀一と潤二の方は「又、始まった」と言わんばかりの呆れ顔だ。
珠恵は明らかにノリノリで、前に紀一が口にした「所々、オロカ」とは、彼女のこういう人騒がせな趣味を指すのかもしれない。
「子供の頃、私、BDバッジが凄く欲しくてね。銀色探偵団の構想を練っていた時、達樹君に無理言って、コレ作って貰っちゃった」
「……コレ?」
「私達のGDバッジ! シルバーの『S』じゃなく銀色の『G』なのは、ちょっとした拘りよ」
「そんなん、死ぬ程、ド~でも良いわ!」
流石に焦れて再び珠恵へ迫ろうとする日名子だが、その動きは途中で止まった。
何かしら、妙な気配を感じたらしい。眉をひそめ、路地に佇んだまま耳を澄ませていると……
ひたひた、ひたひた。
何処か不規則なリズムの足音が迫ってくる。あまり人気の無い場所なのに、幹線道路の両側から、多くの人影が集う。
五人……十人……いや、それ以上。
全員がかなりの高齢者で、その上、片手に珠恵と同じLEDが光る青いバッジを握り締め、誇らしげに高く掲げていた。
夕日に照らされる其々の顔には深い皺の陰影が浮かび上がり、足元がおぼつかない者も混ざっているけれど、その歩みに迷いは無い。
気が付けば、『老害撲滅委員会』は彼らが敵視するオールドパワーの担い手達に取り囲まれ、逃走路を失っていた。
「どう? 皆さん、銀色探偵団の仲間で、あなた方の悪事の目撃者よ」
「う……嘘だろ!? シャレになんねぇ」
星や良太も、呆然として声が無い。
十重二重の包囲網、そのあちこちでチカチカ点滅するバッジの光にあからさまな敵意は感じられないが、その数と徐々に迫り来る感覚が、若者達には強いプレッシャーを与えている様だ。
日名子の額に冷や汗が滲み、苛立たし気に奥歯を噛み締める様子を確認して、満足げに珠恵は頷く。
「私、顔の広さが自慢なの。年齢制限無しで日本中のお友達にバッジを配り、探偵団の特別団員になってもらった」
「……もしかして、今のバカ話、こいつらが来るまでの時間稼ぎかよ?」
さあね、と珠恵は首を傾げて見せた。
先程、キャンピングワゴンで待機中の達樹へ携帯電話をかけ、最寄に住む「特別団員」達へ連絡を取らせてみたのだが、実際これだけ集まってくれるとは、彼女も思っていなかったらしい。
「ふふっ、君達の動画閲覧数が先日、急に増えたのも皆の協力を得た成果よ」
「ご、5000ヒット分、全部!?」
「そうねぇ、一人何クリックくらい増やしてくれたのかしら?」
「ヒマな年寄り、甘く見ると怖いぜ」
紀一、会心の藪睨みを喰らい、逆上の頂点に達した日名子は狂気じみた怒号を上げて、警棒を振り上げた。
「死に損ないども、ソッコーであの世へ送ってやらぁ!」
「ヘッ、やれるモンならやってみな!!」
星はハッとしたが、かわす紀一に余裕があり、高みの見物を気取る潤二など同情の眼差しを日名子へ向ける。
「馬~鹿ねぇ、元刑事に警棒使うとは……」
次の瞬間、警棒を逆手に取られた日名子は背負い投げで、フワリと宙に舞っていた。電光石火、悲鳴を上げる暇も無い。紀一は更に倒れた日名子の横っ面を踏みつけ、完全に身動きを封じる。
その迫力に呑まれ、他の三人の若者は逃げる気力さえ失った様だ。
「御用だ、悪党ども! 神妙に御縄を頂戴しろぃ!」
グッと見えを切る晴れ姿に、銀色探偵・特別団員の御歴々からヤンヤの歓声が飛んだ。これが舞台ならオヒネリの嵐に違いない。
「何~ンか、キ~さん、ノリノリねぇ」
潤二の言葉に微笑む珠恵の隣で、星はふと空を見上げた。操縦者を失い、尚、自動制御でドローンが浮遊している。
真っ赤なプロペラが夕日を受け、ユラユラ揺れ続ける様は、
「きれい……」
星は自然と呟いていた。
80年もの長い、長い時のギャップを飛び越え、祖母の思い出の竹とんぼが海の向こうから帰ってきたかに思えた。
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もうちょっとだけ、続きます……




