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交互に飛び交う『老害撲滅委員会』の暴言が狂気の熱を高め合い、まるで事情が掴めないまま、染子が小さな悲鳴を上げた。
立ち竦んでいた良太が、その声で我に返る。
顔を寄せて笑う日名子を突き飛ばし、
「……わかったよ、アンタら、俺がここでオトシマエつけりゃ良いんだな!」
言うや否や、若者の一人が小脇に抱えていた薄手の着物を奪い取り、良太はコンクリートの小高い堤防へ駆け上がった。
肩に羽織った着物の柄を見ると、今、染子が来ているものと良く似ている。
投稿動画のラスト、老婆と入れ替わり、その恰好でブレイクダンスするコミカル・ショットを付け加える為、事前に用意した品であるらしい。
「ホラ、撮れ! 今日は過去イチ、ド派手に踊ってやンよ。で、俺が堤防を渡り切ったら、それでアンタらと縁切りだ」
「手前、何、勝手な事をほざいてやがる!?」
「ヘタレの、覗き魔が偉そうに」
激昂する若者達を制し、大物気取りの日名子が悠然と口を開いた。
「フフ、取りあえず渡ってみな、良太」
「日名子さん……」
「盛り上げるってんなら、お手並み拝見だよ。但し、ハンパは許さねぇぞ。もし動画のヒット数が前の奴を越えたら、そん時、相談にのってやらぁ」
歯を剥き出し、嘲笑を交えたその言葉は、約束と言うには余りにも冷たい。
だが、もう躊躇う余地は無かった。日名子の挑発を契機に、体操の平均台並みに細い堤防の上で、良太は踊り始める。
やんやと囃し立てる『老害撲滅委員会』の野次は、投稿動画の中にも収録されていた音声で、声が大きくなるにつれ、踊りのモーションも大きくなっていく。
今にも呑み込まれそうな波打ち際で、命がけの道化芝居が続く。
羽織った着物は、海の飛沫と良太の冷や汗で濡れ、徐々に重みを増していた。足に絡みつき、極めて動きにくい上、足元の滑りやすさも演者の精神を削る。
夕陽に映え、紅く染まる眼下の海面が底なしの深淵に思え、込み上げる恐怖に耐えて、良太は歯を食いしばった。
それは『老害撲滅委員会』のメンバーにとって、何度も繰り返された馴染みのルーティン。
不良グループにおける良太の役目は、染子を連れ出す事のみならず、踊る道化の役柄も初めから含んでいたのだろう。
リスクが増す程に大きく囃す日名子らの声に押され、側転を試みて、荒波が押し寄せる水面へ良太が危うく滑り落ちそうになった時、
「良ちゃん、もう止めて!」
どうにも見ていられず、星が物陰から飛び出してきた。それに続いて、珠恵、紀一、潤二も堤防へ駆け寄る。
「アカリ……お前、何でこんな所へ!?」
一旦は持ち堪えたのに、星の姿でたじろぎ、堤防上で足を滑らせた良太はあっさり海へ転落した。
「あ、良太っ!?」
「星ちゃん、あいつの事は僕に任せて」
60代半ばと思えない軽やかな身のこなしで潤二は堤防を飛び越し、テトラポットの方から海面へ接近していく。
星は潤二の後を追い、残る珠恵と紀一は不良達と対峙した。
「ありがたく思いなさい、ちょっとした小細工で、あなた達の動画ヒット数を上げたのは私です」
「年寄りなめると痛い目みるぞ」
これまた60代と思えない気骨と迫力で、紀一は自称・老害撲滅委員会を威圧する。
「日名子、お前、高校卒業後、働きもせずに後輩集めてプラプラしてたそうだな。市警の後輩から聞いたぜ」
「……お前、デカか?」
「元、刑事だ。それとお前、自分のグループへ中学生を何人か引込み、カツアゲさせた容疑も掛かってる。今、流行りのトクリュウっぽい手口で、な」
「へぇ、良く調べたじゃん」
「証拠不足で起訴できなかったが、陰湿ないじめ、制裁があったのは確かだと、後輩が悔しがってたよ」
堤防の方から水飛沫の音がした。潤二が良太を助け、星の力も借りて、テトラポットの上まで引き上げた様だ。
ホッと安堵のため息をつき、珠恵が紀一の追及を引き継ぐ。
「良太君の場合も学業の落ち込み、両親からのプレッシャーに悩んでいた隙をつき、グループへ勧誘したのよね?」
日名子は答える代わりに鼻で笑った。
「弄ばれ、利用された良太君は君達と距離を取り、一人で部屋に籠って、動画制作へ没頭する様になった。
日名子君、あなたも前からネット投稿していたけれど、評価が上る良太君に比べ、視聴者数はジリ貧。際どい路線に走った挙句、サイトでVANされまくり。
嫉妬した挙句、彼を仲間へ引き戻し、思い通り悪趣味な動画を作らせようとしたんでしょ。違う?」
「嫌なら断りゃ良いじゃん」
「断れませんよ、脅迫されたら」
珠恵の舌鋒は鋭さを増し、たじろぐ日名子の傍らへ、びしょ濡れの良太と潤二、それに星が戻ってきた。
「幼馴染みへの思いが捨てきれず、彼女の部屋をドローンで外から覗こうとした事。家を抜け出した染子さんを撮影し、ネットで公開してしまった事。
この良太君の、二つのあやまちに付けこみ、脅しの材料にした卑劣さは決して許されるレベルじゃありません」
「……オイ、クソババア、調子こくんじゃねぇぞ! 年寄り三人だけで、俺ら相手にする気か?」
逆上した日名子は仲間の一人が持っていた警棒を奪い、長く伸ばして身構える。他の奴らも目を血走らせ、幼稚な敵意剥き出しだ。
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