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小林少女と銀色探偵団 時の端の赤とんぼ  作者: ちみあくた


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 事務所へ四人が入ると同時に、屋内にいた38才になる珠恵の娘・須藤史子と、一応その彼氏と言う事になっている四十過ぎの津村達樹がキョトンと星の方を見た。


 その正面、テーブル席を幾つかまとめた上に揚げ物やら、スナック菓子やら皿へ乗せて並べられ、ちょっとしたパーティの準備が整えられている。


 天井からは「祝 銀色探偵事務所開設!」の垂れ幕まで掛かっていたが、


「史子、お客さんよ。ちょっと、それ片づけて」


「えぇっ!?」


「お客さん? ホントに!?」


 仲良く声をそろえ、顔を見合わせた史子と達樹は、慌しくテーブル席を並べ直し、来客用のスペースを作る。


「揃いも揃って大層な。そんなに意外ですかね、ウチにお客さんが来たの?」


 若干冷めた声で珠恵が呟く。


 カウンター席へ置き直されたツマミ皿の横にはビールやワインのボトル、単独でカラオケできるハンディマイクまであった。


「……史子、宴会、やる気満々ね」


「お母さんの夢が叶う門出だもの。ど~せすぐ潰れるなら派手にやろうと思って」


「ど~せ?」


「一か月以内に依頼人が十人来なけりゃ、廃業するって連合会と約束したんでしょ。風前の灯って思ったもん」


「あなたね、そんな気持ちで手伝ってたんですか?」


「ど~せ、ダメ元。明るく行こう」


 肩を竦める珠恵に、痩せっぽちで分厚い眼鏡をかけ、如何にも草食っぽい感じの達樹がすかさずフォローを入れる。


「お母さん、責めないで。前向きにネガティブ、明るめの根暗というキャラが史子さんのチャームポイントじゃないですか」


「……そこを魅力というあなたが、時々わからなくなります」


 珠恵の冷めた視線を、史子と達樹が二ヒヒと笑って受け流す間、その背後に動く気配があった。


 星がそ~っと後ずさり、事務所を出ようとしていたのだ。


「あ、逃げないで!」


 さりげなく紀一と潤二が扉の前に立ち、星の行く手を遮る。


 NO WAY OUT。


 大きめの瞳がキラキラ光るボーイッシュな横顔に困惑と、ここへ来た事を後悔している微かな気配を漂わせ、星は「祝 探偵事務所開設!」とある垂れ幕を見上げた。


「……ここ、今日がオープンなんだ?」


「そ、あなたがお客様第一号」


「何か、その……ボクが考えてた探偵事務所とは全然違う」


「実際、巷に溢れる興信所とかと成り立ちからして違うぜ、ここは」


「何せ親方日の丸、窓口の一つは市役所で、社団法人・シルバー人材センター連合会が絡んでるんですもンねぇ」


「シルバー?」


 その名称は初耳らしく、首を傾げる星へ珠恵が説明を始めた。






 シルバー人材センター。


 それは職場の最前線からリタイアした高齢者の知識や経験を地域で活かす為、一定の仕事を請負・委任の形で行う団体だ。


 高年齢者雇用安定法に基づき、町、村といった小さな区分けで組織は作られる。


 各都道府県のシルバー人材センター連合会が上部組織として統括、公益法人の形で構成員が自主的に運営しており、地域によって構成も業務内容も多種多様。その実質はボランティアに近く、一応ギャラは支払われるものの世間の相場と見合うものではない。


 又、請け負う仕事の種類は、本来、短い期間で簡単に行え、危険性がないものに限定されている。


 最も一般的なのは庭木の剪定、公園の除草、福祉・家事援助サービスの類だから「探偵」なんて如何にも危なそうなジャンルはもっての外の筈なのだが……






「そこはそれ、抜け道というのは何処にでもあるものですよ。イザとなったら、やった者勝ち!」


 あくまで穏やかな笑顔を浮べつつ、意外に過激な物言いを珠恵はした。


「私、危険な要素を伴う探偵の業務は、極力避けるという建前で、連合会の人達を説得したの」


「じゃ、どんな仕事するんですか?」


「いなくなったペットの捜索、消息がわからない知人の居場所を調べるとか、色々」


 それじゃ探偵というより便利屋に近いよなぁ、と星は内心つらつら思う。


「私、これまで色んな高齢者のサークルに関わってきたから、顔だけは凄~く広いの。そこで培った人の輪を繋ぎ合わせ、ネットワークを最大限に活用する事で解決の道を探れる案件だけ、引き受ける建前にしたのよ」


「つまり、人探しをする時は、知り合いに片っ端から声を掛け、何処にいるか教えてもらう感じですか?」


「ふふっ。本当は私の狙いって、もう少しスケール大きいんだけど」


「スケール?」


「狙いというか、野望というか」


 珠恵の説明は星にはピンとこなかったが、探偵事務所にかける情熱だけは伝わってきた。 連合会のお偉方も、この熱意にほだされたのだろう。


 そして、プロの探偵だった潤二と、千葉県警捜査一課の元刑事という肩書を持つ紀一がメンバーに名を連ねる点も、銀色探偵事務所の大きな売りだ。単なるミステリー・マニアの御遊びではないとの印象を生み、認可を勝ち取る切り札となったらしい。


「私達は、シルバー人材センターの枠組みの中で出来る事しかしない建前」


 珠恵は建前という言葉を殊更強く発音し、本音とは若干違う、との含みを仄めかした。


「その分、仕事のギャラも、必要経費と実際に動いた人の日当だけというリーズナブルな設定にしたの」


「……市役所に張り出されたポスターにも、格安調査って書いてました」


「オトクでしょ? で、もし私達でダメだったら、普通のプロに頼めば良い。決してあなたに後悔はさせません」


 そう言い、珠恵は和服の袂から青くて丸い何かを覗かせた。『G』の文字が一瞬光った様だが、確認する前に素早く袂へ戻されてしまう。


「あ、それ、何っ!?」


「うふふ、私達の秘密のアイテム。正式に依頼してくれたら、教えてあげるわ」


 少しアブナイ匂いがした。悪戯っぽく笑う珠恵には、穏やかで上品な物腰と裏腹に、何処か人騒がせな気配を感じる。


 悩む星を見て、玄関側に腰を据える潤二と紀一がしゃしゃり出てきた。


「ちゃ~んと探偵業法にのっとった届を、僕が県の公安委員会に出して受理されてます。見た目最悪の割りにここ、意外としっかりしてンのよね」


「おう、この際、泥船にでも乗ったつもりでど~んと行こうや」


「そうそう、ダメ元、ダメ元!」


「うまくいったらメッケモン、これぞ我が事務所最大のセールスポイントですから」


 史子や達樹も前向きにネガティブな売り込み文句をポンポン投げつけてくる。


 NO WAY OUT。


 それにまだ高校生の女の子の依頼を、本気で引き受ける探偵事務所なんて他に無いだろう。覚悟を固め、深呼吸して、星はここ一月余り、小さな胸の奥で渦巻いた悩みを打ち明け始める。


読んで頂き、ありがとうございます。

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経験豊富な高齢者だからこそ、できる仕事がありそうですね! お年寄りの経験と人脈を活かせるシルバー人材センター!
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