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小林少女と銀色探偵団 時の端の赤とんぼ  作者: ちみあくた


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かの有名な少年探偵団とは真逆、ヘンな探偵団と体育会系少女が「時をかける老婆」の謎に挑みます。



『千葉県輩堂市・高齢者人材派遣センター連合会協賛 銀色探偵事務所』


 厳めしい文字でそう書かれた木板を玄関引き戸の横に掛け、須藤珠恵は軽やかに一歩飛び退いた。


 後ろに束ねる長髪が揺れ、穏やかな春の陽射しを拡散して、仄かな照り返しを放つ。漆黒の髪が年を経、その黒を失う代り、新たにまとった白銀の装いだ。


 ふむ、と小首を傾げる。


 150センチに満たない小さな体を緋の単衣に包み、66才の年を感じさせない良く光る瞳で看板を見つめて、一言。


 う~ん、やっぱり新しい奴、一から作る方が良かったかしら?


 今度は板の端を少し持ち上げ、裏を覗いてみる。すると『ラーメン亭 麺呑』の文字が覗き、鳥脂の匂いまでした。






 まぁ、それも至極当然。


 こいつは元々ラーメン屋の看板で、本日新規オープンを謳う事務所の方も潰れた店舗の再利用だ。サッシを通し、垣間見えるカウンター席の向う側には、古い調理器具まで一通り残されていた。


 縁起の良い物件とは到底言えない。輩堂市役所から徒歩三分という恵まれたロケーションなのに、これまで大手のラーメンチェーンが出店する度、物の見事に客が来ず、潰れ続けた曰くつき。


 五軒連続で潰れるまで三年かからなかった事から、居抜きで開業にトライする業者も消え失せ、放置されていた代物なのだ。


 だが珠恵は旧知の不動産屋から住所を聞いた瞬間、一発で気に入り、その日の内に賃貸契約書へサインしていた。


 輩堂市 塀下刈 2ー23番地。


 一見何ら変哲のない住所だから、たいていの人が何のこっちゃと思う筈。


 でも根っからのミステリー・マニアで自ら推理小説を執筆、雑誌に掲載された経験さえある珠恵には格別の意味を持つ。


 かの名探偵シャーロック・ホームズの住所、『ベイカー街223番地B』とピッタリの語呂合わせなのだ。


 家賃もベラボウに安かった。悪いイメージがこびりつき、入居者のいない物件は朽ちていくだけだから、ただ同然で良いと不動産屋は言う。


 珠恵が長年温めていた壮大なプロジェクトを実行に移すのに、これ以上適した物件は他に有るまい。






 まさか、この年になってプロの探偵になる夢が叶うなんて。


 しばし感慨に耽り、うっすら頬を赤らめる珠恵だが、その左隣には心持ち斜に構え、シニカルに呟く男がいる。


「う~ん、僕的には何~ンか違和感あるのよね。板一杯に書かれた文字が暑苦しい上……」


 勿体ぶって言葉を留め、思案顔を作るこの男、名は等々力潤二という。


 ブランド物のポロシャツに淡い緑のジャケットを羽織り、栗色に染めた長髪を肩に垂らす外観は珠恵と同年にしては実に派手だ。


「やっぱり、何~ンか足ンないのよ。言わば画竜点睛を欠き、しかも何を欠くか、それすら見えてこないと言う……」


 潤二が珠恵の右隣にいる男へ語りかけると、即座にブッキラボウな答えが飛んできた。


「おい、トド、お前ぇ、俺の書いた字に文句あンのか!」


 上目遣いで藪睨み、ドングリ眼を底光りさせているこちらの男は田沼紀一。


 珠恵や潤二と同年だが、暗色系の地味なスーツを着込んだコワモテで、背は中位、ごつく寸胴な体型と天辺だけ綺麗に禿げた頭皮のテカリが目について仕方ない。






「あのな、現役の頃、ヤマが立ち上がる度、俺ぁ部長の指名で戒名書いてたんだぞ」


「いやいや、僕的にキ~さんの腕は文句無いけど、ここの環境に適さないンじゃないかと思いましてネ」


 潤二が背後を振り返ると、事務所に面した広い幹線道路をでっかい貨物トラックが通過していく。


 砂塵が三人の鼻先で舞い、ちょっとした地震なみの振動が、看板の木地をカタカタ振わせた。少々息苦しい感じもある。なだらかな斜面の中程に位置し、通過するどの車もエンジンをふかして、排気ガスを撒き散らす為だろう。


 おまけに道路を挟んだ正面に立つパチンコ屋の高層駐車場が、事務所の上まで長い影を落としている。まさに、陽の当たらない坂道。


 潤二は皮肉っぽい笑みを浮かべ、お手上げのポーズを取った。


「ホラ、車ばかりで人通りの無いこんな道、厳めしい看板構えた日にゃ、客なんか寄り付かないっしょ」


「そいつは俺のせいじゃねぇ」


「少なくともその字が、近寄り固さをMAXに高めているのは確かだネ。僕の経験から言うと、探偵業と言えどマーケティング戦略は重要で……」


 今度は紀一が唇を歪めて笑い、潤二の言葉に割り込んだ。


「へっ、お前がたった二年でアッサリ潰した事務所の経験か、おい」


「……悪い?」


「ヒヒ、ど~にも参考にならねぇや。反面教師程度が関の山じゃねぇの?」


 見るからに水と油の二人。


 売り言葉に買い言葉で互いの血圧を引き上げ、面突き合わせて睨み合う。






「……相変わらずね、お二人は」


 一瞬即発の雲行きになった所で、ヒョイと珠恵が割って入った。潤二と紀一へ交互に目を配り、朗らかな口調で窘める。


「ホントは仲良い癖に顔を合すと、すぐ口ケンカを始める所なんか、昔から全然変わらない」


「俺が仲良し? コイツと? 冗談だろ、オイ!」


「タマちゃん、僕も承服しかねます」


 尚も言い合いを続けようとする二人の顔がこわばり、少し赤くなった。


 珠恵がそれぞれの手を同時に強く握りしめたのだ。


「この町で五十年ぶりに再会したお友達、どちらが欠けても私の夢は叶わなかった」


 男どもはそわそわと落ち着かない様子だが、珠恵は握った手を離さない。


「それに看板がどうあれ、お客さんを呼ぶのは大変。何せこの、高齢者の、高齢者による、高齢者の為の探偵事務所って言うのは史上かつてない試みなんだから」


「タマちゃんにそう言われると」


 潤二は苦笑し、頭を掻いた。


「この看板に何が足りないのか? トドさんが感じた不満の正体は判らないけれど、何にせよ、補う道はきっと見つかるよ」


 つないだ手に力がこもり、珠恵の掌の熱を感じて二人の頬は、又、少し赤くなった。






 密かに恋敵だった五十年前まで一気に気持ちが遡る。


 当時の可憐な珠恵の面影が蘇って、今の笑顔にそれを重ねた時、背後から声がし、珠恵まで驚きで飛び上がった。


「あのぉ、銀色探偵事務所って、ここ、ですよね?」


 振り向くと、市役所へ通じる坂の途中に、出会った頃の珠恵と左程変わらない年恰好の少女が立っている。


 一瞬、まだ幻を見ているのかと潤二は思ったが、そうでは無い。


 昔の珠恵と大違いの170センチを超える長身で、ボーイッシュな短髪の少女はカバンにつけたスヌーピーのマスコットを揺らし、躊躇いがちに事務所へ近づいてきた。


「あのぉ……ホームページで調べてきたんですけど、高齢者の為の探偵って」


「おう、ここに違いねぇぜ」


 紀一が進み出、ギョロ目を向いた途端、少女は思わず三歩ほど後ずさる。


「あ、逃げないで!」


「このオヤジ、顔も性格も悪いけど、急に噛みついたりしないからさ」


 ムッとする紀一を制し、潤二が如何にも胡散臭い笑顔で手招きすると、少女の戸惑いは一層濃くなった。こりゃ任せておけないと、珠恵が慌てて二人の前へ飛び出す。


「あ、あなた、もしかしてお客様?」


「はい」


「……嘘だろ」


「マジでっ!?」


 この時ばかりは声をそろえ、紀一と潤二が顔を見合わせる。当分、客は来ないと決めつけていたから、余程意外だったのだろう。


 珠恵は苦笑し、少女の側まで歩み寄って、名前を訊ねた。


「ボク、小林星と言います。星と書いてアカリ」


「綺麗なお名前ね。私は須藤珠恵。この事務所の所長って事になってます」


「あの……実はボクのおばあちゃんについて、探偵さんにどうしても調べて貰いたい事があって」


 星と名乗った少女は珠恵に促されるまま、元ラーメン屋の引き戸を潜り、まだ目を丸くしたままのオッサン二人もノッソリ後からついていく。


読んで頂き、ありがとうございます。


今回は久々の長編。

連日ではなく、1,2日おきの更新にしていければ、と思います。

良かったら是非、最後まで御付き合い下さい。


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― 新着の感想 ―
上手いなぁ。。 細田守映画のような絵が見える。 連載の1話って、やっぱり絵が見えると強みだよなぁ。。 でも1話で4人出して絵を書き分けるって自分は苦手だなぁ。。 そもそも群像劇苦手だなぁ。。 情景描写…
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