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小林少女と銀色探偵団 時の端の赤とんぼ  作者: ちみあくた


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(5)の2



 達樹の車に乗り、染子が引き込まれたキャンピングワゴンを追ってドライブする事、一時間余り。


 後部座席に座った星は、テザリングでスマホとネット接続されているノートパソコンのアプリ上、移動する光点を目で追っている。


 キャンピングワゴン車内の状況は不明。


 しかし、北関東自動車道から常陸那珂有料道へ抜け、茨城の険しい海岸線が見えてきた時点で、珠恵は目的地を推測していた。






「染子さんの徘徊を目撃した人が近在に居ない事から、車で遠隔地へ移動した可能性は考慮していたけれど……レッドバロンが最初の動画を撮った場所、吾師ヶ浦海岸へ向っているみたいね」


「動画の撮影場所? そんなの、もうつかんでいたんですか?」


「レッドバロンのものだけじゃなく、老害撲滅委員会が投稿した物も含め、何処で撮ったか大体判明しています。沢山の人の力を借りて」


「……沢山の人?」


 珠恵は例の如く笑ってごまかす。


 でも、最初の動画が吾師ヶ浦海岸で撮影された事だけは星にも想像がついていた。そこは染子の故郷であり、弘也との思い出の舞台でもある特別な場所だ。


 星は染子と一緒に海岸沿いの町を訪れた経験があり、その時の出来事について良太に話した記憶も有る。


 あれがまずかったのかな? アイツに変な知恵、付けちゃった?


 確かに可能性は否めない。


 良太と思われるブログの主=レッドバロンの動画を初めて見た時、星は奇妙なデジャブを感じていた。


 すぐピンと来なかったものの、歩く老婆の背後に映る海岸や街並みに、うっすら見覚えがあったのだ。


 そして、今も良太は、染子をその思い出の地へ連れ出そうとしている。祖母の憧れの人に扮し、危険な動画を撮影して、笑い者にしようとしている。


 考える度、星は胸が締めつけられる痛みを覚えた。


 変わってしまった良太を責め、それを止められない自分を責め、やりきれず深いため息をつく。


「星ちゃん、あまり考え込まない方が良いわ」


 隣席の珠恵が少女を気遣った。


「でも、もしこのまま良太がお婆ちゃんを危ない目に合わせたら、ボク」


「意外と、危ないのは染子さんじゃないかも」


「え?」


「私がレッドバロンの正体を良太君だと考えた理由、まだ教えてなかったわね。そろそろ見当が付いたかしら?」


「……いえ」


「まず、レッドバロンという名前について言うと、星ちゃん、子供の頃、スヌーピーのぬいぐるみが好きだったんでしょう?」


「今も好きですけど」


「スヌーピーの原作はチャールズ・M・シュルツの『ピーナッツ』というコミック。子供のみならず、大人の心にも響く凄い作品なんだけどね。そこに『レッドバロン』という名前が登場するのよ」


「えぇっ!?」


 負傷を押してハンドルを握っていた達樹が、二人のやり取りにマニアックな興味を刺激されたらしく、運転席から話へ割り込んでくる。


「あ、ソレ、僕も知ってます。第一次世界大戦で活躍したドイツ軍のエース、マンフレート・フォン・リヒトホーフェン男爵の事ですよね」


「……つまり、レッドバロンって、ホントにいた人なんだ?」


「真っ赤に塗った三翼の戦闘機・フォッカーDr.Iを駆り、圧倒的な機動力で無敵を誇った撃墜王ですよ」


「真っ赤に塗った飛行機?」


「一説によると、某有名アニメの人気キャラ『赤い彗星』のモデルになったそうで、逸話を辿るとそれはもうキリが無いほど……」


「津村君、話を脱線させないで! あなたは前を見て、ちゃんと運転して下さい」


 興が乗り、運転席から振り返りそうな勢いの達樹へ、有無を言わさぬ珠恵のクールな声が飛ぶ。


 叱られ慣れている分、達樹の反応は素早い。背筋を伸ばしてハンドル捌きに集中し、珠恵がやれやれと肩を竦める間、星の脳裏を過るものがあった。


 彼女が登校カバンの端にストラップで括り付け、歩く度に可愛く揺れるスヌーピーのマスコット。


 十二才の誕生日に良太からもらったプレゼントだ。






 あの日、星のクラスメートが開いてくれたお誕生日会に良太は遅れた。いや、遅れるどころか、お開き近くになって、ドタバタ駆け込んで来る始末だった。


 おまけに何が気にいらないのか、ふくれっ面で星からソッポを向いたまま、ろくに口もきかない。


 何しにきたのよ、コイツ。


 ひたすら友達へ愛想を振りまいていた星も、この時の良太にはどう接したら良いかわからなかった。


「お、オイ、コレを……」


 友達が帰り始めた矢先、誰もいない頃合いを見計らって、良太は可愛いリボンが付いた小さな包みを差し出す。


「コレ、何?」


「何って……決まってんだろ、ホレ」


 プレゼントなら皆と一緒に渡すタイミングがあったのに、今更どういうつもりだろ?


 そんな戸惑いで、受け取るか、突っ返すか、迷う星の目に包みを両手に持つ少年の指先が映った。


 小さく震え、ソッポを向いたままの顔も真っ赤に染まっていて……


「そ~か、リョーちゃん、キンチョーしてるんだ?」


「だ、誰が、お前なんかに! そっちこそさ、何か貰う時は、もっと喜べ、素直じゃない奴!」


 星の手にプレゼントを押し付け、来た時と同様、ドタバタ良太は外へ飛び出して行き、そのまま戻ってこない。


 全くもう、素直じゃないのはどっちよ?


 呟きながら、リボンをほどき、包みを開けて中を覗く。その一瞬で、星は両の瞳を輝かせた。


 大好きなスヌーピーが赤い犬小屋の屋根にまたがり、紐の長いパイロット帽とゴーグルを身に付けている。


 プラスチックとソフビ製の精巧なマスコットで、笑い顔ではなく、前を向いて真剣な面持ちのスヌーピーが却って可愛い。その横顔と、ソッポを向いた良太のふくれっ面の印象が重なり、星は微笑んだ。


 すぐお気に入りのカバンに付ける。そうせずにいられなかった。同じ日にもらった友達からのプレゼントの中でも、一番嬉しかった品である。


 その場ですぐ『ありがとう』と伝えられなかったのは心残りだが、すぐに言う機会があると思った。


 まさか、それから3年経ち、中学を卒業しても、まともに向き合うチャンスが得られないままだなんて、彼女は想像もしていなかったのだ。


読んで頂き、ありがとうございます。

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