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小林少女と銀色探偵団 時の端の赤とんぼ  作者: ちみあくた


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(5)の1


 スマホ越しに津村達樹の悲鳴が銀色探偵事務所へ響いた、およそ30分後……


 小林家近くの有料駐車場に珠恵、紀一、潤二、星が到着した時、達樹愛用のステーションワゴンはドアを半開きにした状態で停まっていた。


 昼下がりのこの時間帯、住宅地の路地に人通りは疎らだ。子供達が下校するより少し前の頃合いで、西へ傾いてきた太陽の日差しが、ドアの影をアスファルトへ長く伸ばしている。


 ヒンジが劣化しているのだろう。時折り風で揺れ、キイキイ軋むその音が、星には気味悪く思えた。


 『老害撲滅委員会』を名乗る連中は、既に何処かへ立ち去った後らしい。だが静寂に包まれた駐車場と放置された車両には見た感じ、不穏なムードしかない。


「ん~、どうやら犠牲者二名は車内へ置き去り、って感じですかねぇ」


 如何にも呑気な声で、潤二が物騒な言い方をする。


 星はビクッと反応し、


「ちょっ……ちょっと、ねぇ……止めて下さいよ。そんな言い方、怖いじゃないですか」


「最悪の可能性も想定しないと、ね。スマホの悲鳴、凄かったからねぇ」


「だからって、そんな……もしかして、ビビるボクを見て、等々力さん、楽しんでるだけじゃ?」


「あ、わかるぅ?」


「おい、トド、悪趣味も好い加減にしとけ」


 ニタァっと笑う潤二を、フンッと横目で睨み、紀一は少し腰を下げて用心しながらステーションワゴンへ歩み寄った。元刑事だけに、一度緊張感を漲らせたら、身にまとう迫力が一味違う。






「おう、大丈夫か?」


 紀一がドアの隙間から覗くと、助手席でグッタリしている史子を押しのけ、運転席の達樹がヒョッコリ顔を出した。


 ギョッとした星が思わず後ずさると、


「ど、ど~も」


 達樹は、いつもの緊張感に欠ける口調で笑って見せた。だが、争って乱れた衣服に乾いた土が付着しており、七三の髪型は千々に乱れたまま。唇の端にはうっすら血が滲んでいる。


 珠恵は微かに眉をしかめた。


「あら、怪我してるのね。すぐ、お医者さんに行く?」


「お母さん、聞いて! 大変だったのよぉ! タッちゃん、ヘマして奴らに見つかっちゃって」


 母の姿を見てホッとしたらしく、元気を取り戻した史子は、達樹の頬の青あざを指先でつつき、ぼやいた。


「あ、痛い! ど~ぞ、もう少し優しく……」


「あら、傷は大したことなさそうね」


「ええ、何とか、まぁ……」


「何があったか、教えてくれる?」


「珠恵さんと携帯電話で話した後、僕、真っ赤なドローンの動きを追う為、自前の白いドローンを操縦しながら、車を降りたんです」


 達樹の言葉が途切れると、すぐ史子が話に割り込んできた。


「二人でしばらく尾行したら、路地の裏手に箱型の大きな車、え~と……キャンピングワゴンっての? そいつが停まっててね。ヤンキーっぽい連中が染子さんを車へ引き込むのが見えたンよ」


「……何か起きても近づくなって、私、あなた方に念を押しましたよね?」


「ハイ」


「一定の距離を保てって、ハッキリと」


「ハイ」


 たしなめる珠恵に冷たい視線を向けられ、二人は同時に身を固くする。


 その動きが正確にシンクロし、怒られ慣れしてるなぁ、と星が内心呆れた時、達樹はささやかな言い訳を始めた。


「僕、スマホのカメラで奴らの顔を撮ろうと思ったんですよね。犯人を特定するチャンスだったから」


「あなたのドローンにも、カメラは積まれてるでしょ?」


「敵の奴と違って、僕のは良い望遠レンズを搭載していない。空撮だと位置が高い分、表情の見分けが付きにくいんです」


「なるほど。で、距離を詰め、逆に見つかっちゃった、と」


「ハイ……咄嗟にドローンのコントローラーを史子さんに渡しました。僕しか気付かれてなかったし、最低限の使い方は教えてあったので」


「渡した? ビビッてタッちゃんが落した機械、あたしが拾っただけじゃん」


「いや、その……史子さんが逃げられるよう、僕が囮に」


「はぁ!? 転んで悲鳴あげた分、タッちゃんがあいつらを引きつけたのよね? 後はコテンパのやられ放題。あたし、物陰に隠れて見てたけど」


「……ショ~もなくて、ゴメンナサイ」


「幸い、連中もあたし達の事、胡散臭いと思っただけみたい。嬲るだけ嬲ったら、車で何処か行っちゃった」


「それ位で済んで良かったわ」


「い~え、全然っ良くない。あたしの彼なら、もう少しカッコ良いトコ、見せてくれなきゃ! 敢えて言おう、カスである、と!」


 車中で脱力するほど心配させられた反動だろうか、自分の彼氏に対し、史子の台詞は仮借ない。


「……そこまで言うあなたが、私は時々わからなくなります」


 かく言う珠恵や星のみならず、紀一や潤二まで達樹を見る目に、そこはかとない憐れみが滲んだ。

 

「達樹、お前さ……反撃の一つもできなかったの?」


「無理ならトットと逃げて、要領良く何処かに隠れるとか、ねぇ」


 そんなもん、あなた方みたいに行きませんよ、と口には出さず、達樹は涙目で訴えた。


「でもまぁ、とにかく、やつらの顔写真撮影には成功しましたので」


「そう、撮影したわ。あたしが、ね」


 ラインストーンが散りばめられているスマホを史子が取り出し、『老害撲滅委員会』メンバーの画像を液晶画面へ表示する。


 ヒョイと覗き込み、その瞬間に星の全身が凍りついた。


 中央で日名子らしき腰パン男の側にいるのは、ドローンのコントローラーを抱える良太だ。しかも彼の首には、ガラスの欠片を銀で縁取ったネックレスが掛かっている。


 前に動画で確認した時より、ネックレスの形状は、はっきり判った。昔のベーゴマを素材とし、加工した品に間違いない。


 令和の日本には存在しない筈の、昭和の遺物。そして、染子婆ちゃんが忘れられない想い出の欠片である。






「やっぱり……」


「行こう、星ちゃん。染子さんの身柄を取り戻さないと」


「はい。でも、あいつらの車が何処へ行ったか判るんですか?」


「そりゃもう! 僕、珠恵さんから受けた最低限のミッションだけは、しっかり遂行しましたので」


「ミッション? 何です、それ?」


「僕の白いドローンは、小型で目立たないのがウリ。で、あいつらが気付かない内、キャンピングワゴンのルーフへそ~っと着陸させておいたんですよ」


「ホントはタッちゃんがカッコ悪~く逃げてる間に、あたしがやってあげたんだけどさ」


 又もや恋人から酷い言葉を浴びせられ、涙目継続の達樹が語る所によれば……


 日本に於ける現在の定義上、ドローンとは人が乗れない小型飛行機を意味し、GPS情報を使って遠隔操作、自動操縦が可能な物を言うらしい。

 

 達樹が所有している白いドローンにもGPS情報の発信機能があり、気付かれない限り、走るキャンピングワゴンの地図上の位置を正確に教えてくれる筈だ。


 後は、アプリへリアルタイム表示されるデータを頼りに、『老害撲滅委員会』のワゴンを追跡すれば良い。


読んで頂き、ありがとうございます。

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