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この時、銀色探偵団の自称デジタル担当・津村達樹は、梅ヶ丘一丁目の有料駐車場に愛車のステーションワゴンを留め、小林家西側の電柱に備え付けた無線小型カメラの映像をノートパソコンで受信している。
助手席の須藤史子と二人きり。いつものイチャツキ&オチャラケをブレンドした能天気モードをかなぐり捨て、真顔で睨む液晶画面には、件の真紅のドローンが映し出されていた。
以前に墜落、破損した名残りなのだろう。遠目で見ても、機体に修理された痕跡が幾つか確認できるが、機能的な問題は特に無し。小林家の周囲でホバリングし、各窓から室内を覗ける位置へ移動を繰り返している様だ。
「ふむふむ……事前の予想通りですね。あのドローン、極めて動作音が静かなタイプなんで、窓へ近付いても気付かれるリスクは小さい。その利点を活かし、まず何処に家人がいるか、屋内を覗き、確認しています」
「意外とやり口が慎重ね」
「はい、ドローンのオペレーターが自身の違法性を自覚している点は、まず間違いありません」
達樹が携帯電話の向こう側、珠恵へ向けて状況説明する内、赤いドローンは、ある窓のガラスへコツコツと軽い接触を繰り返した。
そこが染子の部屋らしい。ヒョッコリ窓から顔を出す総白髪の老女が見え隠れし、それからドローンは家の周囲をゆっくり移動し始める。
染子の自室から廊下、廊下から出口の方へと、窓の間を伝う様に飛び、時折り窓のすぐ傍まで接近した。屋内から窓越しに自機が見えるポジションを意識し、染子が後を追って来る事まで意図しているらしい。
「これまで、染子さんが家を抜け出す際に誰も気付かなかったのは、家族の目につかないよう、ドローンが巧みに彼女を誘導した為でしょう」
「居間から玄関を見張っていた時、星ちゃんも、まんまと出し抜かれた訳か。凄いのね、今時の機械って……」
「ドローン自体の高性能もありますね。何せ、アレ、20万円以上する新型の駆動機関と望遠カメラを積んだタイプです。僕が持っているオンボロとは段違い。もう羨ましいったら、ありゃしない!」
「……で、今の染子さんの動きは?」
趣味に走りかけたマニアの叫びを珠恵はさり気なくスルー。その指示に従い、達樹と史子は気を引き締めて画面を注視する。
間も無く勝手口の方から染子が姿を現し、紅いドローンに導かれるまま門戸を抜けて、外の路地を歩き始めた。
「達樹君、気付かれない様に一定の距離を保ったまま、染子さんとドローンを尾行して欲しいんだけど、できますか?」
「了解です。こちらにもとっておきの秘密兵器がありますので」
達樹は車のダッシュボードからロッド・アンテナ付きのコントローラーを出し、起動ボタンを押す。
すると、ステーションワゴンの拡張されたトランク部が自動的に開き、白いドローンが下からせり出した。
「うわっ、まるでサンダーバードみたい!」
「あ~、史ちゃん……その例えだと、トシがばれちゃうよ」
慌てて口を塞ぐ史子の視線の先、車から飛び立つ白いドローンが一気に高度を上げ、染子の追跡を始めた。
「お~、やるじゃん。考えてみりゃタッちゃんだって、結構ドローンの操縦歴は長いのよね」
「経験値じゃ高校生には負けない。機体性能の違いが戦力の決定的な差では無い事、教えてやるよ」
「よしっ、頑張れ、達樹! オンボロはオンボロなりに、無駄なお金を注ぎ込んだドローンの力、思い知らせてやれっ!」
「あ~、史ちゃん……無駄とか言わなくて良くない?」
この前のデート、ケチって割り勘にした祟りかな、等と微妙に心を揺らせつつ、コントローラーを手に達樹は車外へ飛び出していく。
「さ~て、どうなるかしらね? ドローン対ドローン」
銀色探偵事務所の中では、珠恵が悪戯っぽく瞳を輝かせ、星は相変わらずレッドバロンの動画を反復再生し続けていた。
「あのぉ、赤いドローンを追う為、こちらもドローンを使うってのは、津村さんのアイデア? それとも珠恵さんが思いついたんですか?」
「あ、それ、私」
「却って面倒な気もしますけど……」
「そう? 目には目を、って言うじゃない」
「逆に相手にバレません?」
「市販されてるドローンの内蔵カメラって、大抵は下の方へレンズを向けた一つきりなんだそうよ。だからこちらは更に高い位置をキープし、上から見張れば気付かれない」
嬉々として語る珠恵の後ろでは、紀一と潤二が苦笑している。
やむを得ずドローンを使うというより、『そちらの方が面白そうだから』、という一点で珠恵は決断したに違いない。
「それにしても、赤いドローンが今日現れるってよくわかりましたね」
愛用の高齢者用スマホをテーブルに置き、珠恵は星の方へ向き直った。
「だって、津村さんと史子さんが事務所にいないのって、ほんの一週間くらい前から、でしょ?」
「ええ」
「その間も、ずっと張り込みしていた訳じゃないですよね。相手側の動きを、何かの方法で掴んだ、とか?」
すかさず潤二と紀一が口を挟む。
「ん~、それは少~し違うンよ」
「むしろ、おびき寄せたというのが正解だろうな」
「たっぷり餌、撒きましたからねぇ」
「……餌?」
珠恵がちょっと危ない笑みを見せ、星の疑問に答えた。
「実はね、老害撲滅委員会の動画視聴回数を思いっきり引き上げて、大勢のファンが新作を待ってる、と思い込ませたのよ」
「奴ら、仰天しただろうな」
「何せ一晩で動画の視聴回数が5000も増えたんですから」
「ご、5000!? それ、どうやって?」
「フフッ、どうだっけ?」
珠恵は、いつぞやの様に懐から「G」の文字を刻んだ青い何かを覗かせ、思わせぶりにすぐ隠してしまう。
「あ~、そ~言うの、もう勘弁して下さいよぉ」
「そ~言うの、って、何の事かしら?」
「焦らしすぎです、色々と。珠恵さんが良太をレッドバロンと見定めた理由も、その青い物の正体も、いい加減教えて下さい」
「ん~、そう簡単に教えたら、つまらないと思うけどなぁ」
不満そうに星が頬を膨らませ、紀一と潤二は珠恵の方へ肩を竦めて見せた。勿体ぶるのもいい加減にしろという意味らしい。
やむを得ず珠恵が教えようとすると、再びテーブル上の携帯電話が鳴り、振動でカタカタ揺れた。
受信するや否や、派手に聞こえてきたのは、達樹と史子の悲鳴だ。
オイ、お前ェら、何してやがる!?
そう激しく問い詰める男達の声がし、すぐ電話は切れた。後に続くは、重い静寂……おそらく二人は赤いドローンを操る奴らに見つかり、襲われたのだろう。
「あ、こりゃ、ヤバい」
「ん~、逃げ切れちゃいませんよねぇ……あの二人、トロいもん」
「キ~さん、トドさん、緊急出動!」
珠恵の鶴の一声で、紀一と潤二がドタバタと事務所の外へ飛び出していき、星もすかさず後に続く。
「待って、私も行きます!」
「タマちゃん、事務所で待っててくれねぇかな」
「危ないよぉ、今回はマジで」
「だからこそ、ウチのバカップルをほっとけませんっ!」
その声こそ緊張感と危機感に満ちていたが、追ってきた珠恵の足取りは軽い。微妙に踵が浮いている辺り、殆どスキップのノリに近い。
勿論、娘とその婚約者を心配はしているのだろうが、どちらかと言うと『面白くなってきた』というワクワク感の方が強そうだ。
又、紀一と潤二が顔を見合わせ、苦笑するのを星は感じた。
ささやかなデジャブ……今日、こういうのは何度目だろうか?
四人肩を並べて梅ヶ丘へ急ぐ道すがら、『やっぱ、この探偵社、ヘンな人ばっかり』、と星は胸の奥で呟いていた。
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