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小林少女と銀色探偵団 時の端の赤とんぼ  作者: ちみあくた


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(4)の2



 元ラーメン屋の引戸を開け、飛び込んだ事務所の中は、オープン時とは一味違う活気と緊張感に溢れている。


「あら、星ちゃん、早いのね」


 奥のパソコン用デスクに座った珠恵が、振り向き様に言った。


「息切れてるけど、走ってきたの?」


「オウ、まさか授業サボったんじゃねぇだろうな」


 カウンターに陣取る潤二はにやけ、紀一は相変わらずの憎まれ口で星を迎える。


 二人は動きやすそうなジャンパーを身に着け、何時でも遠出できる準備を整えている様だ。


「午後の授業、先生が休みだったんです」


「そ~いう時って普通、自習じゃないの?」


 潤二のツッコミをさり気なくスルー。自習をパスした事には触れず、星は疑わしげに眉を寄せる珠恵へもう一度お辞儀して、手前のスツールに座った。


 達樹と史子の姿は無い。


「あぁ、あの二人には今、外の用事を頼んでいます。おかげでこれ、私が扱わなきゃいけないのよね」


 事務所を見回す星に告げて、珠恵はパソコンを起動させた。年代物の旧型で起動に手間取り、紀一達がもどかしげにその様子を眺める。


「え~、お二人がITに強いと私、助かるんですけれども」


「脳ミソがアナログ……いや、ゼンマイ仕掛けのキ~さんにそれ言うの、コクじゃない?」


「お前だって機械はカラッキシだろ」


「自分の事は棚に置く。これぞ、我が人生哲学でしてねぇ」


「……胸張って言うセリフじゃねぇな」


 二人の応酬を余所に、珠恵はマウスを慣れない手つきで操って、インターネットの動画サイトを画面へ表示させた。


「今日、星ちゃんに来てもらったのは、これを見せたかったからよ」


「でも、前にボクがスマホで見つけた動画と同じ奴ですよね?」


「勿論、それだけじゃない」


 珠代はブラウザのショートカットを使い、『老害撲滅委員会』名義で投稿された動画の窓を次々と開いていく。


「達樹君に探して貰ったら、全部で十二本も有ったわ。どれも悪趣味で、虐待紛いの代物ばかり」






 海辺の堤防らしい場所を、ふらつく足で老女が進む動画……


 鉄道の線路を老女が進み、すれすれを貨物列車が通過していく動画……


 わざと犬を老女へ吠え付かせ、逃げ惑う姿を追う動画……


 染子以外の老人も被写体になっていて、最後に若者が入れ替わり、虐待をごまかす演出まで共通している。


 最早、犯罪そのものだ。






 こみ上げる怒りを噛み殺す星に、珠恵はやるせない眼差しを向け、言った。


「こういうの、哀しいよね。世代と世代の間にある偏見を煽り立て、玩具にしてる」


「……見てるだけで辛いです」


「この老害撲滅委員会は、中でも極端な連中だろうけど」


「正体、わかったんですか?」


 珠恵は首を横に振った。


「三年近く活動を続けているのに実態不明。作る動画が悪質だから、投稿サイト運営者が自主的に削除するケースも有るみたい」


「そりゃVANされちゃいますよね……でも、あの……先週の奴らとは、何か関係あるんでしょうか?」


「あなたとキ~さん、トドさんが駅前であった不良達ね」


「自称・老害バスターズ」


「彼らと動画投稿した奴らとの関わりは、確かめられなかったわ。でも」


 珠恵はふと紀一の方を見、小首を傾げて発言を促す。


「俺、昔の県警のコネを使い、日名子って奴を調べてみた。学生時の補導歴が五度あり、ストーカーまがいの行動で逮捕された前科もある」


「ストーカー?」


「それに動画の投稿にはまっていてな。バイト先の飲食店で調理台に乗り、バカ騒ぎする動画を作って店主から訴えられてる」


「……また動画絡みって訳ね。何~ンか、いよいよ怪しさ全開って感じ」


「証拠は無ぇけどよ」


 紀一が呟くと、潤二もやれやれと肩を竦めて見せた。


「それからね、実は注目すべき動画が、もう一つ有るのよ」


 珠代のマウス操作で、ブラウザ画面は切り替わり、検索操作を経て、個人のSNSの画面が現れる。


「レッドバロンって人のSNS? 撲滅委員会の一味ですか?」


「それは、まだ調査中だけど」


 ページの一部に動画へのリンクが張り付けられており、珠恵はそちらをクリック。流れ始めたのは、老婆がある寂れた海岸線近くの坂道を軽やかに上る後姿だ。


「あ、これって!?」


「老害撲滅委員会が作った動画に似てるでしょ?」


「はい」


「被写体の顔をモザイクで隠すのではなく、初めから顔を撮らないスタイルだから、染子さんかどうかの確認はできない。

だから、アップされた日付で比べてみたの。老害撲滅委員会が作った動画は、今年の四月初めから半ばまでネットへ投稿された」


「丁度、お婆ちゃんの徘徊が激しかった頃です」


「それに対し、このレッドバロンの動画がブログで公開されたのは、三月の最終月曜日なのよ」


「それって、婆ちゃんが最初に消えた日の、翌日」


「だとすると、映っているのが染子さん自身である場合、このレッドバロンの動画こそ一番初めに彼女を撮影し、ネットへ投稿されたのも最初という事になります」


「……始まりの動画」


 星は息を呑み、何か事態の解明につながる証拠は無いかと目を凝らす。


 その内、映像へ見入る自分に気付いた。


 これまで見た他の動画と雰囲気が随分違う。老婆の足取りは軽く、楽しげで鼻歌でも口ずさむ様子に見える。


 撮影する側も、他の動画の様な対象を蔑む立ち位置ではなく、むしろある種の共感を覚えているのではないか、と思えた。


「ねぇ、星ちゃん、私、前に撲滅委員会の動画を見た時、指摘したでしょ。撮るカメラの角度が少し変だと」


「そう言えば、お婆ちゃんが振向いた時、顔が斜め上を向いてるって言いましたね」


「このレッドバロンの動画も同じ」


「えっ?」


「この動画に被写体のお婆さんが振返るシーンは無い。でも彼女の背中の映り具合で、やっぱり斜め上の角度から撮影している様に思えます」


「……つまり空から撮ってるって事?」


「答えは、この映像を最後まで見たらわかるわ」


 珠恵に促され、再び動画に目を凝らすと、問題の場面はすぐやってきた。


読んで頂き、ありがとうございます。

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