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事故物件404号室  作者: ゆずさくら


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事故物件

 カゲトキからの全ての荷物が届くと、二人は物件に入る日時を連絡した。

 いよいよ物件の部屋に入る時が来た。

 カゲトキは監視カメラを確認している。

 二人は通信で指示を受けながら、物件に入る。

 住人に出会わないようにするのだ。

「ガスマスクつけて」

 カゲトキからの指示で、ノリとヒナは大きなバッグからガスマスクを取り出す。

 密着させる必要があるため、ヒナが装着するのをノリが、ノリが装着する時はヒナが手伝った。

 薄暗い廊下を進み、目標の404号室の前に着く。

「カード」

 声がくぐもってしまい、はっきり聞き取れない。

 ノリはもう一度言った。

「カード」

 ヒナは大きなバッグから必死にカードを探す。

 ドアレバー付近に取り出したカードを当てると、電子音と共に小さなグリーンのランプがついた。

 軽い解錠音がすると、ノリがレバーを倒す。

「急げ」

 ヒナを押し込むように入れた後、ノリも素早く部屋に入って扉を閉める。

 真っ暗な玄関。

 ぼんやりと明かりをつけるスイッチが光っている。

 ノリがゆっくりと手を伸ばす。

 触れた瞬間。

 パッと部屋の明かりが付き、清潔で平凡な白い壁紙や、掃除され絨毯をしいた廊下が見えた。

「……」

 それは最初に二人が思っていたイメージと全く異なるものだった。

 事故物件というと、ガランとした『内見』時のままの部屋で、照明器具なども外れているような想像をしていた。

 二人は靴底の汚れを丁寧に拭き取ると、靴のまま部屋に上がった。

 すぐに逃げられるようにというカゲトキの指示だった。

 進む先の明かりのスイッチはしっかり動作し、朔夜が持ち込んだと思われる生活用品や資材などもあり、二人は押し入った泥棒のような気持ちになった。

「今にも朔夜が帰ってきそうだ」

「ほんとだね」

 ノリとヒナが安心した声を出すと、カゲトキが言う。

「気を抜くな」

 大きな家具はないが、生活する上で最低限のものはあった。

 小さいテーブル。座椅子。寝具。コップ等々の食器。

「喉渇いた…… って、水は飲んじゃいけないんだっけ」

「指示があった通り、部屋の水は飲めないぞ。そもそもこれを外したらいけないんだから」

 ヒナは以前調べた時のことを思い出した。

 ノリは朔夜のノートPCに触れた。

「電源が入ったままだ」

 しかし、ノートPCにはパスワード、あるいは生体認証でのロック解除が必要になっていた。

 タブレットでカゲトキに問う。

「SSDに暗号化かけてなければ、直接ドライブを取り出せば内容は観れるのだが、朔夜なら暗号化してるだろうな」

 すると、カゲトキから画像ファイルが送られてきた。

 開いてみると、朔夜の顔画像だった。

「えっ? まさかこれで顔認証を突破しようという」

「立体に見えるように、タブレットを上手に動かせば『誤認』するかもな」

 ノリはタブレットの画面全面に朔夜の顔を表示させ、ノートPCの画面上部にあるカメラに向ける。

 少し立体に見えるようにタブレットそのものを、弧を描くように動かしていく。

「あっ、いけた」

 ノリはすぐに表示された画面を確認する。

 表示させているのは、編集中の動画ファイルを置くフォルダのようだ。

 ファイルを選択してプレビューを見る。

 どれも朔夜の正面顔から始まっていた。

 最終的にこの場所から配信をしようとしていたのだろうか。

「おい、そこで見てないでこっちに転送しろ」

 ノリはカゲトキから指示された場所にファイルをコピーしていく。

 パソコンの置いてある、小さなテーブルから立ち上がると、ノリは部屋の中の配置が変なことに気づく。

 確かに部屋の中央にポツンとテーブルを置くよりは壁際につけたほうが落ち着くが……

「!」

 ノリは驚いて転んでしまった。

「何!」

「それは俺のセリフだ!」

 どうやら、ノリはヒナが声をかけようと肩を叩いた時にびっくりして転んだようだった。

「イテテテ……」

 ヒナがノリの方を真剣な顔で見つめている。

 ノリは打ちつけた場所をさすっていると、その視線に気づいた。

「なんだよ」

「……」

「ヒナ、なんだよ、痛いんだから仕方ないだろ」

 ノリはヒナの反応に違和感を覚える。

 俺を見ているわけじゃないのか。

 周囲を見回すと、ヒナの視線の意味がわかった。

「ここ?」

 ノリが転んだ時に敷き詰めていたタイル式のカーペットが少しズレていた。

 ここは通常はフローリングなのではないか?

 ノリは建物の間取りに書かれた内容を思い出す。

 思わず口に出していた。

「誰かがカーペットをしいたんだ」

「何かを隠すため、にね」

 ヒナはそう言うと、少しズレたタイルカーペットを一枚、剥がし始めた。

 二、三十センチ四方の床面に、消しきれない汚れのようなものがある。

「こっちを剥がして」

「待って! このことをカゲトキさんに聞こう」

 ノリは画像にとってカゲトキに送信する。

「タイルカーペットの裏にも付着していたら、それを切り取ってビニール袋に入れて持ち帰るんだ。素手で触ったらダメだぞ」

 ヒナとノリはカーペットを剥がすときに素手で触ってしまったという。

「水で洗い流せ、いや待て…… 流すだけだ、絶対に流すだけ」

 二人は水で手を洗った後に手袋をしてタイルカーペットの裏について汚れの部分を少し切り取る。

 慎重にビニール袋に入れてロックする。

「なんだろう」

 ガスマスクでくぐもった声が、少し怯えているようにも聞こえる。

「どうしたヒナ」

「嫌な予感しかしない。呪いとか、呪物とか」

「ヒナって霊感あったっけ?」

 タイルカーペットを剥がして直接床が見えている部分を見つめている。

 しばらくそうしていたかと思うと、首を横に振って言った。

「霊感はないわ。けど、何か良くないことしか浮かんでこない」

「この床の下に何かあるのか」

「どうだろう。床下かどうかはわからないけど、視線のようなものも感じる」

 ノリは驚いたように振り返り、誰もいないことを確認すると、今度は天井から何から、周囲を見回し始めた。

 だが、何かがいる気配も、動きも感じなかった。

「……」

「だから、予感のようなものよ。別に本当に何かが見えたわけじゃ……」

 ヒナは謝るようにそう言った。

 ノリは「わかってる」というと言葉を続けた。

「もう少し何か手がかりを探そう」




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