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事故物件404号室  作者: ゆずさくら


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エサの抵抗

 二人が廊下の先を見ると、玄関扉の付近に女性が立っていた。

 女性は下を向き前屈みになっているせいで、全ての髪が前に垂れ、顔が隠れていた。

「この服装、どこかで」

 ノリは自分の記憶を探していく。

「しってるはずさ」

 女性が声を出すと、二人は震え上がった。

 ホロウ・シンドローム罹患者が話す時の、特有のトーン。

川村(かわむら)瑞稀(みずき)だ!」

 ノリはヒナに隣の部屋に入るように指示すると、自らは作り付けの引き出しに手を突っ込んだ。

 そしてカプセルを掴むとそれを持ってヒナのいる部屋に入った。

「こっちの のうりょくが うえなのは わかってるよね」

 川村は、わざとゆっくり歩いているようだった。

 ノリは部屋の扉を閉めると、家具を重ねて置いて扉が開かないように細工する。

 川村は扉を叩いて、言う。

「どれだけ くふうしたって ちからは こっちがうえ」

 ドンと更に大きい音がしたかと思うと、扉に拳の大きさの穴が開いた。

 穴から、川村が中を覗き込む。

「ていこう するだけ むだだよ」

 その狂気に満ちた目を見て、ノリは言った。

「ヒナ。もしこの時間が本当で、全世界がホロウ・シンドロームの手に落ちたのなら…… 潔く死のう」

「……いや」

 ノリはさっき慌てて引き出しから取った、カプセルをつまんで見せる。

「じゃあ、このカプセルを飲んで、自らホロウ・シンドロームにかかろう」

 持ち上げたカプセルを、迎え入れるように口を開く。

「ダメよ!」

 ヒナは、ノリの頬を平手打ちした。

「……カゲトキさんも、もう助けてくれないよ。てか、もういないか」

「ばか!」

 ヒナはノリに抱きついた。

「世界の終わりだって、最後の最後、目の前にいる彼女ぐらい助けてよ。中学生最強なんでしょ」

 ノリは震えた。

 部屋の外で川村が扉を叩くたび、開かないように置いた家具が崩れていく。

 本当に最後、と言う恐怖に震えているのか。

 急にノリはヒナの体を突き放した。

「そうだよな。やっぱり、中学生は最強だぜ。やる。やってやる」

 ノリは笑っていた。

 笑うしかなかった、ということかもしれない。

「C.O.R.P.S.の銃が、どういう理屈でホロウ達を倒すのかわからないけど、ここにある道具で倒せるか試してみよう」

 ノリは部屋にあった加湿器の電源コードを掴むと、ハサミで線をむいた。

 ハサミはヒナに渡し、ノリは持っているコードをプラグをコンセントに入れた。

「この程度でいけるかわからないけど」

 大きな音がすると、扉の上部が大きく砕けた。

 飛び散る破片と共に、川村が飛び込んでくる。

 後ずさる二人を前に、川村は言う。

「しぬかくごは できたのか」

「うるせぇ、お前一人ぐらい倒してやる」

 手に持ったコードを握って、川村に飛びかかった。

 コードが短く、強く張った状態になった。

 ノリは自分が感電してしまい、コードを手放す。

 川村は、体勢を崩したノリを軽く蹴り返した。

 ノリは、コードの上に倒れ込んでしまう。

「おまえたちは ぜいじゃくな いきものだ」

 川村はノリにのしかかり、拳を振り上げた。

 だが、何かで気が逸れたのかそのまま止まった。

 彼女は、ヒナの方を振り返った。

「!」

 ヒナは胸の辺りにタブレットを掲げ、そこに三浦(みうら)直樹(なおき)の映像を映していた。

 三浦直樹は、生前の川村のパートナーだ。

「それが どうした」

「ここで自殺したパートナーに、あなたが他人を殺すところなんか見られていいの?」

「そいつは もうしんでいるから なにもみえない」

 しかし、拳は振り下ろされない。

「彼が、どんな気持ちで死んだかわかるの?」

 川村が笑った。

 ホロウ・シンドローム感染者が、表情を見せたことに驚く。

「おもいだした やつだって くすりを のませ なんにものひとを ころした ここで わたしが ひとりころしたくらい なんだ」

 ノリは思った、やっぱり三浦はあの謎の薬を使ってホロウ・シンドロームの感染者を増やしていたんだ。

「川村さん、なぜ笑っているの?」

 ヒナがそう言うと、川村は自らの顔を手で触れながら確かめた。

「わらってない」

「じゃあ、その表情は本物の『川村』さんのものね」

 ヒナは言葉を続ける。

「川村さん、三浦さんはホロウに侵されたあなたの中に、川村さんを見ていたのよ。だから、この凶暴な川村さんを見ていられなくなった。苛烈な要求をしてくるあなたに耐えられなくなって…… 自ら命を絶ったのよ。どういう気持ちだったのか」

 川村はノリの上から瞬間的に移動し、ヒナの首を掴んだ。

 川村はさっき笑ったままの表情だった。

「やめろ!」

 ノリはそう言うと、コンセントに繋がったACコードを川村の頭に押し付けた。

 一瞬、川村の体が止まった。

 しかし、振り返った川村が振り払うと、ノリは部屋の壁まで飛ばされた。

 ヒナは痛みに耐えること、呼吸をすること、で必死だった。

「くだらん そんなでんあつで どうにかなるもの か」

 川村はそのままヒナの上に覆い被さった。

「!」

 ノリが立ち上がってヒナを助けにいく。

 川村はただヒナの上に覆い被さっているだけだった。

 体は痙攣し、手足の関節が伸びていた。

「まさか、低電圧でも効いたのかな」

 ヒナは苦しい表情で、部屋の外を指した。

 ノリが振り返ると、破壊された扉からC.O.R.P.S.の銃が見えた。

「間に合ってよかった」

 銃が引っ込むと、扉の上部を潜ってC.O.R.P.S.の隊員、カゲトキが入ってきた。

「世界は終わってはいないんですね」

「?」

 ノリは急に自分が『勝手に』考えていたことが恥ずかしくなった。

「……なんでもないです」

 カゲトキは耳を抑えるような仕草をすると、言った。

「すまん。本隊から連絡が入った」

 再びカゲトキは、入ってきた扉上部を抜けて出ていってしまう。

「ノ、ノリ……」

 ヒナが心配していることに気づいたノリは、慌ててカゲトキを追った。

「ま、待って」

 扉口には、誰か別の人が立って扉を開けている。

 カゲトキは何かを告げると、待っていたその者と出ていってしまう。

「扉閉めないで!」

 遅かった。

 声を出すより先に、扉は閉まっていた。

 扉は再び開く様子はない。

 ノリは扉につくと、叩く。

「カゲトキさん、お願いだ、出してくれ。ねぇ、誰か、そこにいる人!」

 叫び、扉を叩き続けたが、扉は開かなかった。

「どうして…… いったい何日ここにいれば」

 扉の前で座り込んでしまった。

「間に合わなかったのね」

 ヒナもあの部屋を出て玄関までやってきた。

 ノリは立ち上がり、ヒナの方へ戻りかけた。

 と、その時、扉が開いた。

 目を輝かせて見たが、そこにはサングラスをかけ、スーツを着た大男がいた。

 男はC.O.R.P.S.の銃を持っている。

「えっ!?」

 素早く大男が入ってきたが、背後にスウェットを着たライオンのような男がいた。

神宮寺(じんぐうじ)?」

 大男はノリを蹴り飛ばす一方、片手でヒナの腕を捻り上げた。

「お前らが呼び捨てに出来るお方じゃない」

 蹴られたノリは廊下の壁にぶつかって転びながらも、大男を睨み続けた。




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