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事故物件404号室  作者: ゆずさくら


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17/22

アズマとレンとヒナ、そしてヨウコ

 いつかの第五中学校。

 暖かい日差しが学校を照らしていた。

 入学したばかりのレンは、サッカー部の体験練習をしていた。

 ヒナは何となくレンが練習しているのを校庭の端で見ていた。

「ヒナ、こんなところにいたのか」

「ノリ、どうしたの」

「ヒナ、今何してるの? ちょっと用があるんだけど」

 ヒナは笑った。

「用があるなら聞きましょうか?」

「ちょっと教室に来て欲しいんだ」

 言いながらノリは空を見上げた。

「何だろう。怪しい感じがする」

「いいだろ」

 ノリはヒナを連れて教室に戻る。

 誰もいない教室に、ヒナを座らせると、ノリはスマホを見た。

「ちょっと待ってて」

 慌てた様子で、ノリは教室から出ていく。

 ヒナもスマホを取り出して、何となくSNSを見始めた。

 すると、教室に男子生徒が一人、入ってきた。

 ゆっくりとヒナに近づいてくる。

「三ツ木さん……」

「えっと、アズマ君だっけ」

「今、話していい」

 ヒナは教室の外に視線を泳がせながらも、頷いた。

「あのさ、三ツ木さん。三ツ木さんのことを」

「?」

「三ツ木さんのことを生徒会の役員に推したいんだ」

 ヒナは首を傾げる。

「あ、いきなりそんなこと言ってもよくわからないよね。二年になったら俺、生徒会長になりたいんだ。俺が生徒会長になったら、三ツ木さんにも生徒会に入って欲しいんだよ」

「それって……」

 ヒナは続けて言おうとしたことを飲み込んだ。

「あ、えっと。生徒会のこと、考えといて」

 そう言うと、アズマは出ていってしまった。

 アズマが出ていったのを見ていたのか、入れ替わりにヨウコが入ってきた。

「ヒナ、もう伝えた?」

「ま、まだ。私に用事があるって教室(ここ)に呼び出されたから、もうすぐノリが戻ってくると思う。その時、言うね」

「お願い」

 ヨウコはゆっくりと教室を出ていった。

 再びスマホを見ていると、ノリが視界に入った。

 教室に入ってくるノリに、ヒナが言う。

「用って?」

「ああ、それなんだけど、もういいや」

「……どういうことよ」

 ノリは頭を掻きながら、視線を逸らした。

「お前って、アズマになんて返事したの?」

「それはいきなり何? よくわからないけど、あんまり興味ないわ」

「そ、そう。そんな感じなんだ。じゃあ、な」

 教室を出て行こうとするノリは袖を掴まれた。

「今度は私の用があるの」

「……」

 ノリは教室の外から視線を感じた。

 だが、振り向くと、そこに人はいなかった。

 ノリからは見えないが、ヒナからは見えていたかもしれない。

「今、誰かいた?」

「い、いなかったけど」

 ヒナは立ち上がった。

「それより、私の話はね……」

 ノリは教室の外を向いていて、とても話を聞ける状況に見えない。

「ねぇ、ちょっと、聞いてる?」

「ああ、聞いてる」

「私の話は……」

 ノリが話を遮る。

「帰り道で話さね」

「……」

 ヒナは話すタイミングを失った。

 二人は教室を出て、廊下を歩き出す。

 ヒナは視線を感じて後ろを振り向く。

 ヨウコは祈るように手を合わせている。

「もう一度、レンのサッカー見てから行こうぜ」

「そ、そうだね」 

 二人は、校舎を出ていった。



 それから一週間ほど経った放課後。

「もう一度言ってよ」

 ヨウコはそういった。

 廊下の端、まるで追い詰められたように、ヒナは壁を背にして立っている。

「ごめんなさい」

「違う。その言葉が聞きたいんじゃない。あなたがノリのこと、どう思っているかが聞きたいの」

「……」

 ヒナは答えないまま、ヨウコを見つめている。

「あっ、いたいた。ヒナ、一緒に帰ろうぜ」

 少し先から呼びかけるノリからの視野に、ヨウコはいない。

 ヒナは手を挙げてノリに答えると、ヨウコに言う。

「本当にごめんなさい」

 ヒナはノリのもとへ駆けていった。

 残されたヨウコは、両腕をまっすぐ下ろしたまま、拳だけを握り込んだ。

 強く閉じた瞼の端から、涙が溢れてくる。

「許さない。絶対に許さない」

 彼女の両腕は、ずっと震えていた。




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