表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
事故物件404号室  作者: ゆずさくら


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

16/22

脱出先

 階下で待ち伏せがあり、廊下のどちらも塞がっている。

 ノリは、ヒナの肩を押した。

「ヒナ、屋上!」

「無理だよ」

「いいから」

 ヒナが先に駆け上がる。

 ノリはゆっくりと後ろの階段に近づきながらも、廊下を塞いでいる連中を牽制していた。

 奴らの力を持ってすれば、あっという間に捕まえることができただろう。だが、それをしてこない。

「ノリ!」

 呼ばれると、ノリも階段を駆け上がっていく。



 駆け上がっていくノリを、ホロウ・シンドロームに罹ったと思われる生徒は呆然と見つめている。

 彼らの能力なら造作もなく捕まえられるはずだ。

「いかせて いいのですか?」

「うえは いきどまりだ」

 廊下を塞いでいた生徒がそう話し合うと、別の生徒が言った。

「ふたりだけ おくじょうまで おいかけろ それいがいの のこりは こうしゃないの べつのせいとの しょりだ」

「はい わかりました」

 廊下に集まった生徒たちは、校舎へ散らばっていった。

 二人を捕まえるために全力を割く必要はない。

 その時間を使ってより多くの生徒に病気をばら撒こうという作戦なのだ。



 屋上についたヒナは、後ろを振り返る。

「やっぱり鍵がかかってる」

 ノリは少し遅れて扉に着くと言った。

「これは壊せるようになってるんだ」

「えっ!?」

 ノリは躊躇なく、扉のサムターンカバーを押し割った。

 そしてツマミをひねると扉の鍵が開いた。

「ほら行くぞ」

 ヒナはノリに引っ張られるように屋上にでた。

「ねぇ、屋上に出たって逃げる場所なんかないじゃない」

「下りんだよ」

 そう言ってノリは校舎の縁を指差す。

「えっ! 無理無理無理」

「俺が先にいって支えるから」

「ど、どういうこと?」

 ノリは説明している時間が惜しいと思い、屋上の縁を越えた。

「ノリ!」

「早くこい」

 ヒナが覗き込むと、ノリは雨水を排水溝へ落とすための縦樋に捕まっていた。

「ここで支える。なんなら肩に足をかけてもいい」

「えっ、そんな……」

「早くしないと奴らが屋上に上がってくる」

 ヒナは戸惑いながらもノリの肩に足を掛ける。

 肩が大きくブレると、ヒナは叫びそうになった。

「……だ、大丈夫なの?」

 必死に気持ちを抑えて訊ねる。

「大丈夫。さあ、下りるぞ」

 一歩一歩、縦樋を支える金具に足をかけながら下りる。

 二人が、ワンフロア分ほど下りた頃、屋上から声が聞こえてきた。

「そっちの小屋の上を探せ」

 連中は屋上に突き出た小屋を探しているようだった。

 さほど多くはないから、いずれ見つかってしまうだろう。

 ノリは下りるペースを早めた。

 その時、縦樋を固定している金具の根元が崩れた。

「!」

 ノリは辛うじて声を出すのを抑えたが、ヒナは恐怖に叫んでしまった。

「声がしたぞ!」

 屋上から声がする。

 一つの金具が外れ揺れる縦樋を、慌てて下りようとするせいで、余計な負荷がかかる。

「探せ!」

「いた! 下りようとしてる」

 校舎の壁、そのかけらが二人の体に落ちてくる。

「あっ!」

「どうしたヒナ!?」

「上向かないで!」

 確かにヒナはスカートだったが、ジャージを履いている。何が見えるわけでもない。

「なんでこんな時にしょうもないギャグを」

「奴らが雨樋を蹴って外そうとしてる!」

 落ちないように屋上の縁に手をかけ、後ろ足で雨樋を蹴っている。

 さっき落ちてきた校舎の壁のかけらは、このせいだった。

 縦樋が音を立てて校舎から外れていく。

「ヒナ、飛ぶぞ」

 彼女の返事を待つ前に、ノリは校舎を蹴った。

 背後の木の枝に飛びつく。

 ヒナも足をつけていたノリの肩から押し出され、木の枝へと飛ぶ。

 どの枝が強いとか、痛いとか痛くないとか、考える暇はない。とにかく二人は必死に手を伸ばし、何かを掴もうとした。

 音を立て枝を折りながら、二人は地面に落ちた。

「大丈夫?」

「ああ、ヒナこそ走れるか?」

 ヒナは立ち上がりながら頷いたが、そこで周りの様子に気づいた。

「ノリ……」

 体を寄せてくるヒナの様子を見て、ノリも気づく。

 周囲は全て『ホロウ』に囲まれていた。

「もう誰も残ってないの?」

「こんなに早く発症するのか……」

 確かに宮下もあっという間だった。

 ノリは朔夜が住む事故物件で髪が口に入ったことを考えて、恐ろしくなった。

「まだ、まだ何とか」

 校舎の窓が開くと、一人、また一人、と周囲を囲む連中が増える。

「何で一気に止めを刺しにこない」

「ノリっ!」

 ヒナはノリの首に手を回し、顔を見つめ合った。

「もう助からないから、意識があるうちに告白したいの」

「そんなこと言っている場合じゃ……」

 そうは言ったものの、周囲を囲んでいるホロウの生徒、教師は二人に対して踏み込んでこない。

 生徒の一人が、ジッとこちらを見ていた。

「ヨ、ヨウコ……」

 ヒナはその言葉を聞くと、目を閉じて顔をぶつけるようにキスをした。

 この時、ノリは人生で初めてキスをした。

 けれど驚くばかりで、感触などを『感じて』いる余裕はなかった。

 ヒナの頭の向こうに見えるヨウコが、壊れた機械のように唸り声を上げている。

 ホロウ・シンドロームに罹れば、意識はなくなり、線虫のコントロール下にされるのだ、そう思っていた。

 だがヨウコは意思があるかのように、ヒナを恨み怒りをぶつけてくる。

「みつぎひな おまえは ころす」

 ヨウコは走った。

 そして飛んだ。

 ヨウコはあっという間に二人の頭上へ落ちてくる。

「ヒナ、危ない!」

 ノリはヨウコの蹴りが届かない位置へ、ヒナを突き飛ばした。

 空中で姿勢を変えられないヨウコは、蹴り込む姿勢のままノリへ向かっていく。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ