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事故物件404号室  作者: ゆずさくら


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ゲートを抜けて

 葛城がヒナを連れて、宮下を捕まえていた場所に戻った。

 ノリはパイプとパイプの隙間を通り、上からヒナが見える位置にいた。

 葛城はノリの方を見上げる。

「でてこい さもないと」

 葛城は左手でヒナの腕を捻じ上げ、首に右手をかけた。

「みやしたから やるつもりだったが こっちからやるぞ」

「そっちにいく、行きたいんだが、出られないんだ」

「そんなこと しったことか」

 ノリはパイプの死角を利用して、スマホでカゲトキにメッセージを送る。

 祈るように画面を見るが、既読もつかない。

「でてくる きも ないようだな」

「待って、まず下りる場所を探してるんだ」

「いつまでも まてない」

 葛城の右手に、髪の毛が握られている。

 それがヒナの口に近づく。

 ノリは考える。

 奴らがホロウ・シンドロームによってあんな状態になっているとしたら、あの髪を口から入れられたらヒナも……

 パイプとパイプの隙間をぐるぐると回り、ようやく元の高さに下りることができた。

 だがパイプの隙間が狭すぎて、葛城たちがいる側には出れない。

 ノリの動きは、葛城か、葛城の手下にずっと見られていた。

 パイプの周りにはホロウ化した連中が囲んでいる。

「つかまえろ」

 連中は、パイプの隙間に無理やり手を突っ込んでくる。

「待てよ、出る方法を探すまで待ってくれ」

「そんなこと しるか」

 ノリはスマホを見るが、まだ既読がつかない。

 カゲトキは既読をつけずに読んでいる方が多いのだが、返信もないので不安になる。

 パイプの隙間から伸びる手が増え、ノリの体を押さえつけてきた。

「にげれない なら おまえから しょちしてやろう」

 処置? どういうことだ、とノリは思う。

 が、すぐに『処置』が何を意味するのかわかった。

 奴らの腕をつたって髪が伸びてきた。

 これが胃に到達したら、髪の中に潜む線虫が体を侵して……

 ノリは手を振って近づいてくる髪の毛をはらうが、近づいてくる髪の量が多すぎて捌ききれない。

 頭を振って必死に口を閉じたままにするのが、髪の毛は鼻も塞いでくる。

 動き続けるせいでノリは、息が苦しくなってきた。

 ダメだ……

 ノリは限界を迎えていた。

 妙な羽音が聞こえてきた。

 パイプの隙間から見える小さなLEDライトをつけたドローン。

 そのプロペラ音だろう。

 ノリはぼんやりとドローンが降りてくるのを見ていた。

 いや、一機じゃない。何機入り込んでるんだ?

「なんだ これは」

 葛城の知らないドローンのようだ。

 まるで連中を把握するかのように一人一人の頭の方へ展開していく。

 そしてカチカチと電磁石で小さい接点が動く音がする。

 同時に葛城たちに異変が起こった。

「やつらが きた のか」

 葛城の口が止まり、痙攣し始めた。

 手足の力が抜けたようで、髪の毛の動きも止まった。

 ノリは髪を振り払うと、叫ぶ。

「逃げろ! ヒナ、今しかない」

 ノリを抑えていた連中の手も力なく震えている。

「宮下、宮下、お前も逃げるぞ」

「う うん そうだな さっきから ふしぎ だったんだが なんで ふじわらと みつきが ここに いるんだ」

「話は後だ」

 ノリはパイプを固定している金具を足がかりにして、パイプとパイプの隙間を上っていく。

 上にいくとパイプがそれぞれの目的の機械へと分岐して、ノリはようやくパイプの内側から出ることができた。

 階段の踊り場に飛び降りると、上の階段からヒナが言った。

「落ち着いてる場合じゃないから! 早く上って」

「宮下は!?」

「えっ、来てない?」

 ノリは手すりを超え、階段下を覗き込む。

「何やってんだ、あいつ。ちょっと行ってくる」

 階段を下りていく。

 宮下は、手すりに寄りかかって、顔を伏せていた。

 呼吸が荒い。

 ノリが声をかけようと近づくと、ドローンの音が近づいてくる。

『何をしてる、逃げろ!』

 ドローンから声がした。

「カゲトキさん!」

『早く逃げるんだ。もうドローンのバッテリーでは奴らを抑えられん』

「宮下を助けないと」

 ドローンが赤いLEDを点灯させ、宮下とノリの間でホバリングする。

『構うな。もう彼は手遅れだ』

 すると宮下がゆっくりと顔を上げる。

 いつの間にか髪が伸び、口元まで届いている。

『早く逃げろ』

 瞬間、ドローンが消えた。

 宮下の足がゆっくりと下りる。

 破壊されて落ちてくるドローンが、ノリの足元に落ちた。

 見えないほど素早く、ドローンを蹴り上げたということだ。

 資料を読んだ時、ホロウ・シンドロームに冒されると凶暴性が出るという記載はなかった。

 逆に大人しいという記載もない。

 線虫が支配しているとしたら、葛城と同様、人間に敵対しようと考えてもおかしくない。

 残りの十数機のドローンが、階段の空間をすり抜けながら上昇してくる。

『今の、見ただろう。逃げろ!』

 ドローンは宮下を迂回するように素早く弧を描いて飛んでいく。

 ノリは階段に足をかけた。

 一段飛ばしで駆け上がった…… つもりだった。

「おまえは のろま」

 視野の隅に何か動いた、と思った瞬間に宮下はノリの前にある踊り場に立っていた。

 ドローンは左右に分散しながら、宮下の横をすり抜け、上昇していく。

 ノリは宮下に前を塞がれ、やがて下からやってくる葛城たちと挟み討ちにされてしまう。

 目の前の宮下を何とかしないと。

 ノリは考える。

 そこに立っていられたらどうやっても捕まってしまう。

 階段を進む(・・・・・)には、分が悪くても戦うしかない。

「!?」

 宮下が手招きする。

「こいよ まえから きにくわなかったんだ」

 ノリはチラッと階段の外、パイプとパイプの隙間を確かめる。

「にげんなよ こっちからいってもいいんだぞ」

 捕まえるだけなら、さっきノリを追い抜く必要はなかった。

 わざとノリの横をすり抜けて先回りした、ということだ。

 恐怖を与えるために?

 どこからかドローンの羽音が聞こえ、カチカチと接点が動く音がした。

『ノリ、今だ!』

 いつの間にか宮下の後ろにドローンがいた。

 宮下は痙攣し、体が動かない。

 ノリは急いで宮下の傍をすり抜け、階段を駆け上がる。

 ノリを追うようにドローンが追ってくる。

 ドローンからカゲトキの声がした。

『上でヒナにバッテリーを交換してもらったんだ。遠隔じゃ物理的な作業が出来ないからな』

 ノリは階段を駆け上がるのが精一杯で、答えることができなかった。

 機械室の扉を閉めると、そこにヒナがいた。

「よかった!」

 ヒナはノリに抱きついた。

『まだだ、どこかゲートを抜けるまで走れ!』

 ノリは走りながら言う。

「もう追ってこないんじゃ?」

『確かに、連中は監視カメラに映りたくないだろうからな。だが可能性はゼロじゃない』

「なぜゲートを越えれば安心なんですか?」

 カゲトキは答えない。

 地下駐車場に出ると、残り十数機のドローンがホバーリングしていた。

 カゲトキの声がしたドローンが先頭に立ってドローンは一斉に動き出す。

 ヒナとノリも、ドローンを追って地下駐車場を走った。

 宮下をこの地下機械室に誘導した時、ゲートのカード操作をさせず、強行突破させていた。

 街のあちこちにあるゲートは、一体何をしているのか。

 ただの動画配信者だと思っていたカゲトキは何者なのか。

 逃げながら、さまざまな疑問が湧いてくる。

 二人は後ろを振り返り、追ってこないのがわかると、走る速度を少し緩めた。

 ドローンは急速に高度を上げると、ビルの角を曲がって消えていった。

「あそこのゲートを抜けよう」

 二人は区画の境にある人用ゲートにカードをかざし、通り抜けた。

「ヒナ!?」

 再びヒナが抱きついてきた。

 怖かったのだろう。彼女の体は震えている。

 ノリはヒナの体温と息づかいを聞いて、安心するとともに彼女に対して持っていた感情を思い出した。




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