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第七話「必要な話」

「んむっ、何時かな?」


ゆっくりと目が覚め始める。閉めたカーテンの隙間から差し込む朝日が部屋を包み込んでいる。

まだ少し眠気が残っているので、より楽な体勢に身をよじらせ、ぼんやりとした感覚が消えるのを待つ。





「すりすり~」

『え?いつの間にこんなに柔らかいものがベッドに?気持ちいいな~』




その柔らかいものに体をこすりつけながら、そっと目を開けて何なのか確かめようとする。




「んむ~」

「!?」




突然目の前にアイリスちゃんがいて、柔らかい頬に顔を寄せると寝言を呟いた。

ああ、そうだったのか。




「ごめんごめんごめんごめんごめん!!!」




眠気が一瞬で吹き飛び、慌ててベッドから飛び降りた。そんなことをしてしまった自分が恥ずかしくてたまらない。




『待てよ、なんでアイリスちゃんが僕の部屋にいるんだ?! 待て、ここは僕の部屋じゃない?! ここはどこだ???』




ああ、そうだ。今はアイリスちゃんの家で、急きょお泊まり会をしているんだった。

すっかり目が覚めた今、昨日の出来事を思い出す。

ここで風呂に入り、すごく美味しいご飯を食べて、ベッドに入った。アイリスのママがおとぎ話を語り始めた途端、即座に眠りに落ちたんだ…

くそっ、まさか本当に即座に寝落ちするなんて…子供の体だから、今は疲れやすいんだ。

でもアイリスちゃんと女子トークも全然できなかったじゃん!お泊りの醍醐味なのに!(私が断言!)




「まあ、起きたからにはさ、一日を始めよう!」




こぼれたミルクを嘆いても仕方ないから、私はさっさと早起きを決めて、アイリスちゃんをもう少し寝かせておくことにした。




~~~~~~~




「お泊りさせてくれてありがとう、本当に楽しかった!」

「うん、本当に楽しかったね、アイリスちゃん。またいつでも遊びに来てね?」

「はい、バイオレットさん。いつでもお泊まりに行きます」

「へえ~今から楽しみだわ」




私とアイリスちゃん、そしてアイリスのママが雑談をしていると、アイリスのママは仕事に出かける時間になった。

私はアイリスのママに別れを告げ、彼女が完全に視界から消えるまで手を振った。




「じゃあアイリスちゃん、私はこれから30分走るから、広場に行ってて。おじいちゃん、もう行ってると思うからチェスでもしてて」

「走るの?」

「うん!それから腕立て伏せ、腹筋、ストレッチ、懸垂もする。結構時間かかるから、私抜きで行ってていいよ」




朝は朝食後、いつもこんなトレーニングをしている。

前世ではあまり運動しなかったが、今はやらない理由がない。

時間があり余っているし、適度な運動は体に良い。

確かに子供の体にはハードかもしれないが、無理をしても特に悪い影響は感じていない。

早いうちから始めたメリットってやつかな?




「…一緒に走ってもいい?」

「えっ、俺と走りたいの?」

「うん、おじいちゃんと遊ぶのはもう十分だから、別のことをしたいんだ」

「よし!じゃあついてこい!心配するな、手加減してやるからな!」


まさか、この子がこの人生で俺の伝説の『ジム仲間』になるのか?

一人で走り回るのは確かに退屈だから、一緒に走ってくれるなら最高だ!




『今は絶対に俺のペースについて来られないから、ゆっくり走ることにしよう』




アイリスちゃんが追いつける程度の適度なジョギングで進む

その速度で走りながら、退屈させないよう気軽に話しかける

まあ、もし彼女が退屈に感じても構わない。運動なんて誰にでも合うものじゃないし、俺が走るのも他にやることがないからだけだ。

例えばネットがあれば、間違いなくネットをしているだろう。




「アイリスちゃん、まだ大丈夫?今、ペース速すぎない?」

「…ううん…はあ、大丈夫…ふう」

「よし!それとアイリスちゃん、背筋を伸ばして前を見ろ!そうすれば長く走れるぞ!」




並走しながら走り続ける。必要に応じてアイリスちゃんのフォームを修正しながら指導する。




「あら、バイオレットちゃん!おはよう!」

「お、ソフィーちゃん!おはよう!今日は早起きだね!」

「ええ、あなたも結構早起きだから、私も今日は早起きしちゃったの」

「え~そうなんだ?」

「うん、今日が楽しみで、あまり寝られなかったの、へへへ」




ソフィーちゃんにばったり会った。こんな時間に起きてるなんて意外で、私を見るとすぐに満面の笑みを浮かべて、クスクスと笑い転げている。可愛い

彼女も他の子供たちと同じで、太陽が空高く昇ってからじゃないと起きないんだ。

でも今は、太陽がまだ全身を見せている途中だ。

太陽と言えば、アイリスのママが話してくれたおとぎ話だったっけ?詳細は覚えてない、話してる途中で居眠りしちゃったから。でも、かなり切なかったのは確か…アイリスのママに貸してもらえないかな?自分の時間を読んでみたい。




「でも、え?私と遊ぶのが楽しみで眠れなかったの?可愛い~。」

「?!えっと、私、私…」




あら、今すごく赤くなってる、超可愛い。

子供の感情を弄ぶのって楽しいんだよね、表情が本当に豊かだから。




「だって私もすごく楽しみにしてたから、同じだよ~」




アッシュに「威厳を守れ」って挑戦されてから、ソフィーちゃんと二人きりで遊ぶの、久しぶりだな。

みんなにこんなに求められると、平等に付き合うのって難しいんだよな~

まるでアイドルみたいな扱いだよ~




そんなことを得意げに考えていると、アイリスちゃんが落ち着いてソフィーちゃんに挨拶した。




「はあ、はあ…おはようございます、ソフィーさん」

「え?ああ、おはようございます、アイリスさん…あなたも起きてたのね」




ソフィーちゃんの機嫌が180度変わり、アイリスちゃんもここにいると気づくと、恥ずかしそうな表情はすっかり消えた。

待って、でもなぜ?二人の間に何かあったの?




「とにかく、今はアイリスちゃんと一緒に走ってるんだけど、一緒にどう?」

「うん、ソフィーさん、走るって意外と楽しいんだよ。気をつけることいっぱいあるんだ。腕の動き方、手のリラックスの仕方、つま先で地面を蹴る感じ…」

「おおっ、覚えてたんだ!そうだよ、長距離走にはそういうポイントが大事なんだ!アイリスちゃん賢い!」

「えへっ」




私が言ったことを覚えていたと褒めると、アイリスちゃんは可愛く笑った。

ああ、可愛いな。アイリスさん、これからも一緒に走ってくれれば、僕のモチベーションは尽きないよ。




「…なんで…」

「?ソフィーちゃん、どうしたの?」




待てよ、ソフィーちゃんの機嫌が急に悪くなった。体がガタガタ震えてる。何か怒ってるみたいだ。

でも、何で?どうして?僕、何か悪いことしたっけ?




「二人きりのはずだったのに、どうして…どうしてまだあの子と遊んでるんだ?!あの子ってそんなに楽しいの?!」

「ソフィーちゃん?!」

「嫌いだ、バイオレットちゃん!」




ソフィーちゃんは爆弾発言をぶつけてきた。頬には涙の跡が浮かび、まるで誰かに心を粉々に砕かれたような表情だ。




「ソフィーちゃん… 待って、行かないで!」




彼女は走り去り、小さな路地へ消えていった。もう私の視界には映らない。




「やばい…私、やらかしたよね?」

「え?バイオレットさん、ソフィーさんどうしたの?なんで泣いてたの?」

「私がバカだからよ。アイリスちゃん、ごめんね。今から追いかけるから、その間おじいちゃんのところに行ってて」

「待って、私も行く!」

「いや、ダメだ。それはまずい。心配しないで、どうせ彼女と一緒に戻るから」




そう言うと、私は全速力で走り出した。戸惑うアイリスちゃんを、あっという間に置き去りにして。

ごめん、アイリスちゃん。これはできるだけ人のいないところで解決すべき問題だから、君は来ないでくれ。




「…また私のせいだわ…」




猛スピードで走っていたため、アイリスちゃんの重い言葉は全く聞こえなかった。




~~~~~~~




「そっちか、ソフィーちゃん」

「……」




ソフィーちゃんは遊び場の地面にしゃがみ込み、足を抱えてうつむいている。顔がよく見えない。

返事をする気分じゃないらしいので、私は彼女の隣に座ることにした。風が髪を撫でる心地よい感触に身を任せて。




「ごめんね、約束を破ってしまって」

「…」



まだ返事がない。私は静かに独り言を続けた。




「今日をすごく楽しみにしていたんだろ? 寝付けなかったくらいに… 私の行動で裏切られた気持ち、わかるよ。本当にごめん」

「…」

「でも、言っておきたいことがある。アイリスちゃんやアッシュたちとも遊びたいんだよ。僕を独占できないんだから」

「!ヴァイオレットちゃん、そんなことしてない!」




あの物議を醸す言葉を口にした後、ソフィーちゃんはようやく涙を浮かべたまま顔を向け、反論しようと身構えた。

よし、ようやく話せる気分になったようだ。




「そうね、ちょっと言い過ぎかもだけど、一理あるでしょ?だって、あの時アイリスちゃんと一緒にいても平気だったじゃない。約束覚えてたから、ジョギングの後に一緒に遊ぼうと思ってたんだもの」

「一人でジョギングすればよかったじゃない!ちゅっ、アイリスさんが一緒にいる必要なんてなかったんだもん!」

「それってちょっと酷いんじゃない?誰もいない一人で走れって言うの?」

「違う!私…」

「そう?じゃあなんでそんなこと言うの?」

「…アイリスさんはいつもあなたのそばにいて、チェスして、本読んで、今度は走ってまで一緒にいるんだもの、不公平だもの!」

「ねえ、君も一緒に来られるんだよ。君が一緒に来てくれたら、僕、すごく嬉しいんだ。君とチェスもできるし、本も読めるし、走ることだってできるんだ」

「でも…それじゃ違うんだ」

「うん、どうして?」

「アイリスちゃん抜きで、二人きりでやりたいんだ」

「じゃあ、どうしてしなかったの?」

「え?」

「アイリスちゃんが来る前から、君にはその時間があったんだぞ。でもやらなかった。チェスは嫌いだし、本は嫌いで、寝るのが好きなんだろ」

「?!」




ソフィーちゃんの涙ぐんだ顔が、私の言葉に驚きの表情を浮かべた。




「いいんだよ、わかる?みんなそれぞれ趣味も好き嫌いもあるんだから。でも、僕の日常的な行動すら好きじゃないくせに『一緒に遊ぼうよ!』なんて言うのはやめてくれ」

「……」

「アイリスちゃんはチェスに興味があって、本が読めるようになりたいって言ってて、文句一つ言わずに15分も走るやる気があるんだ。彼女自身がやりたいことだから、当然やる機会は与えるよ。でも君は?君のこと、よくわかってる。おじいちゃんとチェスしてる時は他の子と遊びたがるし、読み聞かせの授業は全部寝てたし、僕の運動の意義なんて理解してないんだろ」

「ううっ…ううっ…」

「でも、それでいいんだよ」

「えっ…?」

「君が僕の好きなことを好きじゃなくても、僕たちは一緒に遊ぶんだ。かくれんぼでも、鬼ごっこでも、おじいちゃんをからかうのでも。楽しいんだ。それは僕たち二人にとって同じだって、僕は確信してる。」

「… スッ…。」

「僕はお前と遊びたいんだ。かくれんぼも、アッシュくんをからかうのも。お前の好きなことを一緒にやりたい。でも、逆はそうじゃないんだろ?」

「…そう…」




よし、最後の追い込みだ。




「なら、やめてよ」

「え?」

「ただやめてほしいだけ。いいんだよ、僕の好きなものが嫌いだって。でも、イリスちゃんと遊べないようにって理由で、僕と遊びたいって言いながら、楽しんでないのに無理に楽しそうにしてる姿を見るのは、僕には耐えられないんだ」

「……」

「二人きりで遊ぶのは全然構わない。君が好きなことをするのもいい。でもいつもじゃない。アッシュくんやじいちゃん、アイリスたちとも遊びたいんだ」

「…」

「それが無理なら、ごめんね。でも僕の考えは変わらない」




そう、これが私の本音だ。

ソフィーちゃんが私と一緒にいたい、遊びたいと思うのは構わない。

でもそれが他のみんなと遊べなくなる理由になるなら、そこは譲れない。特に彼女が無理に私の好きなことを好きになろうとしているなら尚更だ。

あの…彼…との失敗した関係を経て、初めて気づいたんだ。極端な独占欲がいかに有害かを。

あの時、私の頬を叩いて「そんなこと許すなんてバカだ」と気づかせてくれたのは冬ちゃんだった。

そして今日、危険な考えに囚われているソフィーちゃんに、その目覚めの呼びかけをするのは私だ。




「わああ!ごめん、バイオレットちゃん!」

「わっ!」




ソフィーちゃんが突然私にぶつかってきて、力いっぱい抱きつきながら、ぐしゃぐしゃに泣きじゃくりながら喚き続けた。




「ごめん! ぐすんぐすん、意地悪してごめん! わあああ!」

「うん、うん、許すよ」




それで私たちはそのままの状態でいた。ソフィーちゃんは泣き続け、私は彼女の頭や背中を優しく撫でながら、感情を整理する時間を与えていた。




~~~~~~~




「もう大丈夫?泣きたくない?」

「違う!泣いてなんかない!最初から泣いてなんかない!」

「顔中涙でびしょびしょなのに、そんなこと言っても誰も騙されないよ」

「?!違う!私の顔に何も変なことなんてない!」




そう言うとソフィーちゃんは素早く服で顔中の涙を拭い、その様子がとても可愛らしかった。

まあ、ソフィーちゃんは私の冗談にも耐えられるほど元に戻ったようだし、これで全てうまくいったわけだ。

確かに言い方が少し乱暴だったかも…でもこういうこと、甘く見ちゃいけないんだよね。

大人に対しても、子供に対しても。

幸いソフィーちゃんは理解力があるから、ちゃんと説明すれば自分が間違ってたって気づくんだ。

自分が間違ってることすら理解できない自己中心的な子じゃなくて、本当に良かった…




「バイオレットちゃん、ごめん。君の趣味が嫌いだってのは事実だし、アイリスちゃんが好きだからってあんなに怒るのは間違ってた。約束は取り消すよ、今日一緒にいなくてもいいから」




ソフィーちゃんは顔を拭き終えると、泣き腫らした目を真剣に私に向けた。




「まあ、理解してくれて嬉しいけど、君の親切は遠慮させてもらうよ」

「???」

「だって私も悪いんだもの。確かに前より一緒にいる時間は減っちゃった。村でバカみたいなゲームして遊んでたから、もう十分遊んだと思い込んで、アッシュくんやアイリスちゃんたちともっと遊んじゃって…」

「いや、バイオレットちゃん!俺が間違ってた、十分遊んでるんだからお願い…」

「でも私はそう思わないの。もっとあなたと一緒にいたい。だから、私のわがままを聞いてくれない?」

「バイオレットちゃん…」

「でもね!もし誰かが私たちのふざけた遊びに加わりたがったら、たまには許してあげて。毎回そうする必要はないけど、他の子たちに今あなたが感じたような気持ちを抱かせたくないでしょ?」

「…ふん、そうね、あなたの言う通りだわ。ありがとう、バイオレットちゃん」

「お礼なんていらないよ。ソフィーちゃん、自分が間違ってるかどうかもちゃんと理解できる、強い子なんだから。それより、自分が素晴らしい人間だってことに感謝してね」

「へへへへへ…ありがとう、私!」

「そうよ、ありがとう、ソフィーちゃん!」

「ふんっ!ははははは!めっちゃ変な感じ!」

「何言ってるの、普通のことだよ?へへへっ!」




私とソフィーちゃんは顔を見合わせ、さっきよりもっと大きな笑い声をあげた。




「ははははは!」

「えへへへへっ!」

「なんで二人ともそんな笑い方してるの!?怖い!」




あっ、アッシュくんか。

待てよ、もうそんなに時間が経ってたのか? いやあ、こういう意味深な会話してると、本当に時間が経つのが早いよ。




「おや、アッシュくんD・ルフィ!猿の王様!おはようございます!」

「プフッ!ハハハハハ!「猿の王様!」ハハハハハハ!」

「えっ?!それどういう意味?!それに「ルフィ」って何だよ?!…結構イケてるかもな…アッシュ・D・ルフィ、騎士王、サンブルーム王国の右腕の剣士…」

「待て、そんな名乗るなよ、コピストライクされるぞ」

「?コピストライク?まあいいや、せっかく来たんだろ、バイオレットちゃん、デュエルしようぜ!前回より強くなったんだぜ!」

「昨日145回目のグランド・シュプリーム・デュエルやったんだぜ…ごめんアッシュくん、今ソフィーちゃんと腹筋崩壊中だから、いつものようにあそこのコーナーでシャドーボクシングしててよ、ふん」

「はははははっ!」

「何…お前ら二人の間のことなんて知りたくもねえ、行くわ」

「これでゲーム終了!アッシュくんは、世界で一番優しい天使たちの笑い声に怯えて逃げ出したわ!ソフィーちゃん、何かコメントある?」

「アッシュ、失礼よ?森の奥で毒を煮る魔女二人組を見たみたいに、私たち二人の乙女から逃げ出すなんて、なんて意地悪なの」

「やめてよ!今のお二人様こそ、まさにあの魔女たちそのものじゃない!」

「あははは!」

「ふんっ、へへへへ!」

「なんで二人ともまだ笑ってるのよ?!」




アッシュは困惑したまま立ち尽くし、私たち二人は笑い続け、うねる感情を解き放ち、全世界に見せつけるようにしていた。

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