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「こうなったら俺が決めてやるからな、覚悟しておけよ」
「まぁ別にどこでもいいけど……賑わってないようなとこだけはやめてね」
コイツに任せておいたらどこに連れて行かれるか分からない。
見た所食にあまり頓着がないように思える。
案外適当なのか?
こりゃ料理とかもしないタイプの人間だな。嫁としては大失格だ、誰目線だって話だけど。
「こことかどうだ?」
もう腹が空きすぎていたので、近くのいい匂いがしてきたところに吸い寄せられるように向かう。
看板には『魚だ! 煮付けだ! 魚の煮付けだ!』
と書かれていた。
「うーん、魚の煮付けって気分じゃないかも……」
「そうだな」
ここはスルーして次に向かうことにする。
「ここはどうだ?」
そこそこ大きめの店構えのようだった。
看板には『大激安! 民衆食堂、腹パンやろう!』
と書かれていた。
「……もういいんじゃないかなここで」
「そうだな、大激安ってのが奢られるにしてはちょっと微妙だけど、腹減ってるしいっか」
居酒屋っぽいところだったが、お腹いっぱい食べれそうだったので、もうここでいいだろう。
からんからん
ドアを開けると鳴り物の音が鳴り響く。
中は広々とした空間が広がっていて、かなりの客で埋まっていた。
店員さんが忙しそうに働いている。居酒屋独特の熱気を感じる気がする……
「らっしゃい! 二名さんで?」
「あ、はい」
元気のいい男の店員に案内された。
奥の方の席が空いていたようだ。ちょうどよかった。
とりあえず二人で席に着く。
「それで早速本題なんだけど」
俺がメニュー表を見るやいなやいきなり切り出してきた。
嘘だろ、せめてメニューくらい選ばせてくれよ。せっかく美味しそうなメニューいっぱいあるのに……
「さっき見せたあなたの力……あれは確かに本物だと思うわ。はっきり言って凄すぎる。あれをどうやって身につけたのか本当に気になるところだわ」
なんか語り始めたがどうでもいい、とにかくこのトロロ丼てやつが気になるからこれにしよう。後はこのお肉料理もうまそうだなぁ。
店員を呼んで適当に注文してしまうと暇になったので、話を聞かざるを得なくなった。
「聞きたいことは山程あるんだけど、あんまり深く詮索はしないわ。あとでゆっくり知っていけばいいしね」
なんだ? 質問攻めにされる覚悟を決めてたんだが、そういうことでもない?
「もしよかったらでいいんだけど……私としばらく行動を共にして欲しいの」
俺は一瞬呑んでいたお茶を吹き出しそうになった。
ええ……なんか言い方あれじゃない? まぁ気のせいか。でも思ったより下手にくるなぁ。
「けほっ、なんで俺なんかと?」
「いや、まぁ嫌だったら別にいいんだけど、あなたと冒険できれば活動の幅が広がると思って」
活動の幅? どういうことだろう。
「色々見せつけられたけど、特に探知魔法なんてどんな攻撃魔法よりも最強よ。敵がどこにいるかとかが筒抜けなんでしょ? そんなの危機管理の根底をすべて覆しちゃうし、作戦の立て方もまるで変わってくる……正直どのパーティーも喉から手が出るほど欲しい人材だと思うわ」
確かに探知魔法が強すぎるのはついさっき思ったことだ。
こっそり使う分にはいいかとか思ってたけど、公にするのはあんまりなぁ。俺はあくまで細々染み染みと異世界生活を堪能したいんだ。適当に生きるくらいが俺にあってると思うし。
「そんなことないと思うけど……」
「そんなことあるわよ。そして協力してもらうだけだとアレだから、あなたに目標なんかがあればそれもできる限り手伝おうと思う。もちろん無理のない範囲にはなるけど……。もし途中で嫌だと思ったら抜けて貰って構わない。最低限の期間はいてほしいけど……どう、かな?」
ユイセはそう言って俺を見つめてくる。
げー、マジかよ。
一緒に冒険するってこと? ムズいなぁ、それって好き勝手できなくなるんじゃないか? 俺の気ままな異世界生活がとんでもない方向にシフトするんじゃないか?
まぁでもいうても目的とかがあるわけでもないしなぁ。
ソロプレイも悪くないと思うけど、ちゃんとした冒険をするのも悪くないのかも。
この世界に来てからもまだ日が浅いし、常識的なのも学んでいかないといけないしな。一緒に活動すればある程度分かってくるだろ。
今日の冒険もちょっと楽しかった気がするし。
「そうだな、まぁ少しだけならいいか」
まぁ最悪は途中で抜けれるみたいだし、一応美少女に誘われてるわけだし? 深く考えたら駄目だ、こんなの適当でいいんだよ適当で。
「え、本当!?」
「まぁな。でもあくまで協力するってくらいの立場な。サポートに徹するから本当に」
変に期待されてもダルいし……あくまでマイペースにいきたいしな。
「もちろん大丈夫! 戦闘とかは私が請け負うし、付いてくるだけでいいわよ」
ユイセはふぅ、と胸をなでおろしているようだった。
うーん、ほっとされてるのは何よりだけど、一つ気になるのが、俺なんかがそんなに必要なのかな……? そこがよくわかんないんだよなぁ
「でもユイセくらい強ければ俺じゃなくって良くないか? 他に強い人だっているだろうし、それこそ俺に固執しなくたってそんな奴らがほいほい寄ってくるだろ」
どうやらギルド内では結構人気らしいしなこの子。
「べ、別に固執してるわけじゃないけど……正直肉弾戦ならもう間に合ってるから、そういったスタイルの人はいくら強くても必要ないのよね。あとはさっき言った理由で探知魔法がやばすぎるから、って感じかな、うんうん」
なんか微妙に何かを隠してる気もしたが、気のせいか……? まぁ別にいいけど。
「ああ、それともう一つ条件が」
「な、なに?」
「『ピース様どうか仲間になってください、お願いします』って頭を下げてくれないか?」
「できるわけないでしょそんなこと!」
怒ってしまった。
「でも俺はユイセのことユイセって呼んでるけど、そっちは俺のことなんて呼んでたっけ」
「そ、それは……」
適当に喋ってて確かにと気づいたが、俺ってユイセに名前呼ばれたことないかも……なんでなんだ?
「仲間になるのにそんな距離感じゃおかしくないか? いざってときにも呼ばないといけないタイミングがくるだろ」
「そ、それはそうだけど……正直男の人とあんまり話し慣れてないというか、変な感覚というかこういう時に呼び捨てでいいのか呼称をつけるのかもよくわからないしだからそんなことを急に言われたところでなんですかっていうか……」
「何ボソボソ喋ってるんだ?」
「ああもう! ピース! あなたはピースよね! これでいいんでしょ! これからよろしくね! ピース!」
凄いヤケクソ気味で鼻息荒くまくしたててきた。
ええ……今回は俺おかしなこと言ってないよね?
その後運ばれてきた店の飯を俺たちは美味しく平らげ、凄くいい感じに満足できた。
ユイセがなぜかやけ気味にバク食いしていたがな。
こんなんじゃデートのデの字も味わえないんですが。
まぁ飯のレベルは高かったからよしとするけど。女の子との食事は次に期待します。




