接敵
大休止を終え2時間余り経った。
騎兵隊が交代で斥候を出しつつ進軍していたがマヤ達が斥候で出たタイミングでとうとう動きが有った。
「敵だ!」
街道が森の淵を緩やかに右に曲がっている先で反乱を起こした農民やそこら辺のごろつきが手製の槍や弓矢を手に待ち構えていた。
「信号弾!」
指揮を執る騎士が叫ぶと、彼の従士が信号銃に弾を込め空に向け発射した。
「信号弾!赤です!」
赤い煙を曳きながら空に昇る信号弾を見たクラウスは叫んだ。
「次、青。次いで白」
青は待ち伏せ、白は待ち伏せている方向。この場合は正面を示していた。
「予想より早いな」
この先の交差点でビトゥフから南下してきた他の荒鷲の騎士団の部隊と合流する予定だったが、反乱軍側がこちらに仕掛けてくるとはロベルトも予想はしていなかった。
「舐められたもんだな……。騎兵隊を先行させろ!左の丘を陣取らせろ!砲兵隊と銃士隊の一個小隊は騎兵に続け!」
騎兵隊に戦場を見渡せる丘を確保させ、次いで砲兵隊を展開して直射砲撃で敵をけん制しつつ、残りの銃士隊はそのまま前進し敵を叩く。
ロベルトの指示を受けた騎兵隊は急ぎ丘を駆け上がった。
「銃を持ってるぞ!気を付けろ!」
林の中から矢が放たれたので剣で叩き落としつつ距離を置こうとしていた斥候は予想外の攻撃に曝された。
旧式の火縄銃が散発的に発射され、銃弾が飛んできた。
手練れの騎士達は音速で飛んでくる銃弾を剣先で逸らして見せた。
「マヤ殿を援護しろ!」
斥候に出てる5騎の騎兵の中で一番経験が少ないマヤを護る様に年長の騎士が指示を出したが。
「ふんっ!」
マヤはいとも容易く、剣先で飛んできた銃弾を往なしてみせた。
「丘の上!味方の騎兵!集合の合図です!」
騎兵隊の部隊旗を掲げた旗手が丘の上に現れたので気付いた騎士の1人が叫んだ。
「移動するぞ!着いて来い!」
5騎の騎兵はマヤを中心に置く形でダイヤ型の陣形を組みながら丘の上へと走り出した。後ろの3騎は振り返りつつ飛んでくる矢弾を弾きつつの移動になった。
「Feure!」
街道を進んでいた銃士隊は3列横隊を組み、一斉射撃を始めた。反乱軍の弓矢の射程外から一方的に銃弾を浴びせられた反乱軍の兵士はその場に倒れ込むか、運が良ければ後ろへ走り出したが。
「撃てぇー!」
リシャルドの砲兵隊が丘の上から榴弾の射撃を始めると生き残った反乱軍達もの大半はその場に斃れた。
仲間の死体を踏みにじりながらも必死に逃げる反乱兵に銃士隊は容赦無く銃撃を浴びせ続け、更には騎兵隊の突撃も始まった。戦いは30分と経たずに決したのだ。
「全く歯応えが無いな」
砲兵隊の後。同じく丘の上に移動し、騎乗したまま双眼鏡で反乱軍が瓦解するのを観ていたロベルトはボヤいた。
「僕達が出るまでも無いよな」
何せ金が掛かる。銃を一発撃つにしても、杉平幕府に銃弾を発注してる以上結構な金額が掛かるし、銃は撃つ度に摩耗する。大砲も然りだ。
そして、兵士だけでも300人居るし従者含めると400人近い人員を野外で動かすのも金が掛かる。荷馬車も荷馬車を動かす馬も消耗品だし、傷んだり怪我したらその分出費が増える。……まあ、苦労するのは金計算をしているホセだが。
「地元の騎士団と合流するまで帰るわけにはっ」
クラウスが喋ってる途中でロベルトはクラウスの眼の前に右手を差し出し何かを掴んだ。
「銃弾……か。流れ弾だな」
ロベルトが握ったのは直径1センチは有る火縄銃の弾だった。
「……よく分かりましたね」
「最近、妙に気配がわかるんだ」
少し経験を積んだ従士でも、音速前後で飛翔する銃弾を知覚出来るがロベルトの場合は完全に死角を飛翔していた銃弾に反応出来た。
「北から接近する騎兵有り!」
騎士の1人が叫んだのでロベルト達は手で示された方向を双眼鏡で覗いた。
「味方だ。同じ荒鷲の騎士団の……青地に赤い鳩……レムス卿だ」
指揮を執る騎士の旗印を確認し、ロベルトは部下達に集合を掛けた。




