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転生者達 荒鷲の騎士団編  作者: 因幡晴朗


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悪魔

「……残念ですが。……アリツェさんには子宮が存在しません」


 目の前のお医者様が悲しそうにそう告げた。


 また、この夢だ……。

 前世の私は15歳を過ぎても初潮を迎えなかった。地元の医院でも原因が分からず両親と汽車に乗りプラハの病院で宣告を受けた時の夢だ。


 目の前が真っ暗になるとはこの事なんだ。父が気丈に、声を震わせつつも何かお医者様と何か話ているのはわかる。母が椅子に座る私の両肩に手を乗せたまま泣き崩れるのもわかる。


 当の私は思考がまとまらず、混乱していた。

 ミランになんて言うか。

 私の初恋相手で幼馴染。

 親友のステラは?彼女なら何か……。


 視界が涙でボヤけるのがわかる。両親と無言のまま汽車に乗り気付けば家の前に居たが。


「アリツェ?どうしたの?」


 声の主はステラだった。


 彼女の顔を見た瞬間、私はその場で泣き崩れた。心配し駆け寄った彼女の声が段々小さくなり、視界が暗くなった。


 ……それから数日間。プラハとの往復を含めた1週間、私は学校を休み、家に居る間はずっとベッドの上に居た。

 そして、決めた。修道院に入ろうと。初恋も実ら無いのも明白で、生きる意味を失った私は故郷を後にする事にした。



「アリツェ!」

 声がして振り返ると、ミランが居た。両親と駅に向かい、汽車に乗り込む直前。私が家を出たのをステラから聞いたミランが駅まで走ってきた場面だった。


「行くな。行かないでくれ!」


 ミランが私を止め、私にプロポーズしてくれた思い出。子供を生めない私を受け入れてくれた大事な思い出。

 ……なのに彼の顔が思い出せない。

 思い出の中の私は彼の目を見てプロポーズを受けているのに彼の顔がわからない。思い出せない。


 彼と一緒にプラハの大学へ通い卒業後結婚した事。彼がイギリスに留学した時の事。大事な思い出で彼の事を愛しているのに、顔だけがわからない思い出せない。


 卒業後に小学校の教師をしている時の思い出も蘇ったが、生徒達の顔もわからない。何故思い出せないのか。



「ステラ……」


 また、場面が変わった……。


 街から少し離れた林の傍らの花畑。ステラが好きな場所だった。……目の前の小さな石はステラの墓標だった。名も刻まれず、知らない人には墓標には見えない小さな石。

 ステラは殺された。ユダヤ人だという理由で。

 私達の街がドイツの一部になり、奴らが来た。


 彼女が酷い目に合ってる間、私達夫婦は何も出来なかった。

 日が落ちて、ミラン達、ステラの友人達が彼女をこっそり埋葬した。



「来週、出発する」


 また、場面が変わる。


 今度は帰宅したミランが軍に入隊した事を告げた時の思い出だった。

 子供が居ない私達の事を奴らは許そうとしない。ミランは私を庇うために……教え子たちが徴兵されるのを知ると軍に志願した。……ここでも彼の顔が見えない。見ているのに、思い出せない。



「ミラン……」


 最期の思い出だ。


 夫は…ミランがフランスで戦死した。彼の教え子たち、私のかつての教え子たちと共に。『先生は撃てたのに、撃たなかった。アメリカ兵に刺され、亡くなりました』捕虜になった教え子からの手紙にはそう書いてあった。


 私は毒が入った薬瓶の蓋を開けると一気に飲み込もうとした。


「…っ!グッ!がっ!」

 強い刺激でむせ返り、吐き出してしまったが、薬だけで無く血も吐き出した。


(ミラン…ステラ…私もそっちに…)


 遠のく意識の中、ミランとステラの事を思い私は絶命した。




「……様!マヤ様!」


 侍女のアンナに起こされ、悪夢から目覚めた。


「ミラン……」


 居るはずの無い夫の名前を呟いてしまった。


「……大丈夫ですか、またうなされてましたよ」


 アンナはハンカチで優しく涙を拭き取ってくれた。外は薄っすらと明るくなっている。夜明けが近い。


「それと、お茶です」

「ありがとう……」


 前世の事を悪夢で見るのは今までも有ったが、家を出てから明らかに頻度が増えた。今ではほぼ毎晩悪夢を見るのでアンナが心配し同じ部屋で寝てくれていた。


 私がお茶を一気に飲み干し、ティーカップをサイドテーブルに置くとアンナが私の隣に座った。


「マヤ様」


 そのまま私に抱きつき、子供をあやす様にマヤは私の背中を叩いた。


「私が着いております。だから心配しないでください」

「うん」


 私もアンナに抱きつき、優しく背中を叩いた。私が元気を取り戻すと彼女の垂れ下がっていた尻尾が嬉しそうに振るえるのが見えた。



 今日、私達は戦地に派遣される事になっている。

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