銃士隊
「杉平幕府製、62式小銃。200丁。7.62ミリ小銃弾1万発」
ホセがリストを読み上げる横をロベルトとクラウスは積み上げられた木箱を眺めながら歩いていた。
木箱の1つをリシャルドが開けると真新しいボルトアクション式の小銃が2丁入っていた。
「……油臭い」
始めて嗅ぐツンと鼻に残る油の臭いにリシャルドは思わず感想を漏らした。
「すぐ錆びるからな。火薬は鉄を簡単に錆びさせてしまう」
ロベルトは慣れた手付きで小銃を1つ持ち上げると、槓杆を引いて薬室の中を確認した。覗き込み、中が空なのを確認すると槓杆を元の位置まで戻した後、天井に向かって小銃を構えると引き金を引こうと右人差し指に力を込めた。
「安全装置も機能してるな」
引き絞ろうとしても引き金が動かない事を確認すると、ロベルトは遊底の後部に着いた安全装置を解除してゆっくりと引き金を絞った。
「遊びもいいな」
引き金を少し絞っても激発しないのを確認したロベルトは引き金を更に絞り撃針が前進する手応えと音を聴いて満足した様子だった。
「標尺板の遊標は2キロまでか」
2キロ先の目標まで狙える様に標尺板に数字が刻まれて居るが、実際には1キロ未満。なんなら100メートル未満の距離で撃つ状況が多いだろう。
ロベルトはリシャルドに小銃を手渡すと、人狼の国では珍しい金属缶に封印されている弾薬に手を伸ばした。
「高かったんすよ。1丁、金貨1枚。弾も全部で金貨50枚しますし」
「うわぁ……」
ホセが銃と弾薬の値段を言うと、リシャルドは慎重に小銃を箱の中に納めた。
「流石に高いなあ。訓練用の空包だけでも何とか作れないかな?」
実弾は兎も角、対抗演習や射撃訓練で使う空包だけでも作れれば安くなるのは明確だが。
「火薬が問題です。黒色火薬なら何とかなりますが、62式実包の無煙火薬と雷管は安く手に入らないので」
クラウスは色々と手を尽くしたが、あまりいい状況ではなかった。妙にこの数年で科学技術が発展した杉平幕府に比べ人狼はようやく試作品を作っている状況だ。無煙火薬も雷管に詰める薬品も錬金術師や転生者の科学者が作ってはいるが、数が圧倒的に足りないし一発辺りの値段も杉平幕府から買うより高いときたもんだ。
「次が杉平幕府製の柄付手榴弾……なんで柄なんか着けたの?」
杉平幕府が使っている60式手榴弾にドイツ軍式の木製の柄を着けた特注品だった。
「そりゃ、使い慣れてるし」
ロベルトはさも当然の様に言い放った。
「……野球しないからか」
ホセは1人で納得するとリストの次の項目に目を移した。
「10.5センチ榴弾砲3門。同砲弾が40発。同訓練砲弾20発。緑弾20発」
白い布を掛けられていて全体が見えないコレが1番高かった。
ホセは値段を知った時は本当に発注するのか何度もロベルトに確認した。あまりにも高すぎると。
「見てみるか」
ロベルトとリシャルドは布に手をかけると慎重に布を外した。
「わぁ……」
駐退復座機付きの後装砲。
ホセの前世やロベルト達の前世で軍隊が使っている大砲と遜色の無い近代的な大砲。それを始めて見たリシャルドは驚きのあまり耳を立て尻尾の先を揺らした。
「コレを僕が……」
砲兵隊の指揮を執るのはリシャルドに決まっていたが、どう動くのか想像も着かない、只々巨大な工業製品にリシャルドは興奮していた。
「それ一門で金貨500枚以上するから気を付けろよ」
「え”っ!?」
あまりの値段の高さにリシャルドは思わずホセの方を振り返った。
「マジで船一隻買える値段だからな。それも戦列艦とかだぞ」
3門で計1500枚以上の金貨。前装式の旧式砲を70門は備えた3等戦列艦よりも圧倒的に高い。よくそんな物を跡継ぎ息子達に買い与えるとは。騎士団長のイゴール卿の金銭感覚にホセはついて行けなかった。
「で、最後だが。9ミリ拳銃300丁に同弾薬6000発」
兵士に支給する拳銃だったが、ロベルトとクラウスはワルサー拳銃を模した特注品を既に持っていた。本人達曰く「使い慣れてるから」と何時もの調子だが。
「俺まで9ミリ拳銃にされるなんてなあ」
ホセはあまり納得していなかった。
「まだ言ってるのか?どうせ威力はろくすっぽ変わらんだろ」
クラウスは半分呆れていたが、ホセは9ミリより大きい45口径の方が欲しかったのだ。だが、拳銃弾が手に入りにくい現状で1人だけ別口径の拳銃など使える訳もなく、強制的に9ミリ拳銃を持たされていた。
「ストッピングパワーが違うっての〜。俺たちゃ人狼は人間と違うんだからデカい銃じゃなきゃ危ないっての」
「はいはい、当ててからいいなよ」
クラウスにあしらわれてホセは不満を垂れているがロベルト達は気にしてなかった。
「後、150ミリ迫撃砲と砲弾とか。今度の鎮圧には持っていかないが」
他にも雑多な装備は色々有るが、農民の反乱程度なら使うことは無いと倉庫に置いていくつもりだった。




