捕虜
「コイツ誰だ?」
カタジナに頭を引っこ抜かれた騎士の身元を調べようとロベルト達は首級の前に集まっていた。
「見たところ位は高そうですね」
クラウスは騎士が持っていた剣を持ち上げながら銘を確認する。
離れた所に放置された胴体はレリーフがあしらわれた高価そうな鎧を着けていた。
「まあ、その内分かるだろ。ビトゥフへの伝令は出たか?」
ロベルトは騎士団本部とチェスワフ部族長に追加の伝令を出すように命じていた。支城が襲撃された際に第一報として襲撃が有った事だけを伝令に出したが、第二報として敵の兵力と一度襲撃を撃破した事を伝えるためだ。
「間もなくです!」
隣の宿場町まで馬で伝令が移動し、そこで馬を乗り換え次の宿場町へ。延々と馬を乗り換える事で半日も有ればビトゥフには着く。
だが、軍の移動はそうは行かない。
出動準備を終え、オルゼル城に着くのに最低2日は掛かるだろう。それまで籠城しつつ敵の攻撃をいなす必要がある。
銃士隊と騎兵隊で支城の側面に塹壕と土塁を造りヤストロップ族を迎え討つ準備を進めている。
肝心のヤストロップ族側は支城の西方400メートル程の所に布陣しているが、兵の数が増え続けており投石機の組み立てや大砲の設営も行われていた。
「向こうの大砲は前装砲か」
リシャルドの砲兵隊が持つ105ミリ砲に比べれば射程は短く威力も弱いが脅威なのは変わらなった。
敵が撃ってくる前に先制しても良いが……。
「リシャルド、次の攻撃が始まったら砲で叩き潰せ」
「わかった」
ロベルトは敢えて先制しない事にした。
敵の攻撃が始まってから出鼻を挫き攻城兵器と攻め込んでくる歩兵を分断し銃士隊と迫撃砲、それに投石機で叩きのめす気でいた。
「火焔弾の搬入が完了しました」
オルゼル城の弾薬庫から魔法具を応用して作った火焔弾が支城に届いた。
「投石機の近くへ。ただし掩蔽豪から出すな」
「了解」
衝撃を与えると破裂し、中から黄燐を含んだ可燃性の油を撒き散らす新兵器だった。魔法が得意なロベルトが試作し実用に耐えられると防御用にオルゼル城に置かれていた。
いきなり実戦で使う事になるが、数は十分だった。
「お母様!」
マヤがカタジナと再会してるのを視界の端に見つつ、ロベルトは机に広げた地図を眺め防戦の準備が整っているか考えていた。やる事はやった。となるとその後だ。
「敵の第二波は恐らく投石機と破城槌が出てくるはずだ。大砲の援護射撃で投石機を前進させ、射程内に入ったら破城槌を援護するだろう」
騎士を始め士官クラスの面々が集まり、ロベルトは地図を指揮棒で示しながら防戦の流れを説明を始めた。
「此方は砲兵隊で敵の大砲を叩き、投石機が200メートルの距離まで近付いたら火焔弾で敵を攻撃。勢いを削いだ後、迫撃砲と銃士隊の射撃で孤立した敵歩兵を始末する」
銃士隊の62式小銃なら余裕で届く。大砲も含めると一方的に攻撃は出来る。
だが、ロベルトは慎重だった。向こうの騎士と部族兵の数と力量が未知数だからだ。
若いロベルトですら訓練を積み重ねた結果、飛んでくる銃弾ぐらいなら手で掴めるからだ。魔法が有るので身体能力が底上げされており、変に打って出て返り討ちに遭ったらおしまいだ。オルゼル城に詰めてる兵力が少ないので1回の失敗で落城する危険すら有る。
「騎兵隊は何処に?」
古手の騎士が手を上げた。
「今回は下馬して支城内で待機です」
敵の陣形が崩れれば騎兵隊を突っ込ませて被害を与えるのも悪くは無いが、後方に控えた敵兵の数が未知数なので待機させることにした。もっとも、敵兵が取り付いたら迎撃するのだが。派手な出番が無いことに騎兵隊が不服そうなのは致し方ない。
「あくまで第二波は敵の攻撃を頓挫させる事だけを主眼とする。追撃などは一切厳禁と心得てもらいたい」
念の為、ロベルトは指揮官達に釘を刺した。
「しかし、動かんな」
昼を過ぎ、昼食の鶏肉のトマト煮を頬張りつつロベルトは敵陣を眺めていた。
「敵も腹ごしらえですかね。何か食べてますよ」
クラウスは物陰に潜みつつ狙撃銃を構えていた。
62式小銃にスコープを着け狙撃銃に仕立てたのだが、やろうと思えば敵陣の誰かの頭を撃ち抜ける。
だが、ロベルトが“撃つな”と命じているので狙撃銃の薬室に弾を込めていない。此方の攻撃が届く事を悟られたくないからだ。
しばらく眺めていると、敵陣の向こう側から行軍ラッパと軍太鼓の音が風に乗り聞こえて来た。一体、どれ程の敵兵が集まっているのやら。
「しっかし、奴さんらも何でこんなに兵士を集めてるんだ?金ねえだろアイツら」
ホセの疑問にロベルトは考えを巡らせたが。
「さあな。協定の破棄とか一昨日の不祥事での八つ当たりにしては規模がデカいし……。一昨日の件で捕虜の中にヤストロップ族の部族長の息子が居たぐらいか?」
ホセが一発。拳銃を撃ち込んだ後、弾切れになったので馬乗りになって殴りつけてた男が部族長の息子だった。
「ん?動いたな!」
敵陣から軍太鼓が鳴り響き、歩兵達が鬨の声を上げ前進を始めた。
歩兵の数は500人程だろうか。
「此方も用意だ!」
投石機の錘が巻き上げられ、発射準備が整えられた。
「砲兵隊より信号!射撃用意よし!」
見張り台の兵士が支城の後方に布陣するリシャルドからの光信号を読み上げた。
今撃つと敵が攻撃を止めるだろうとロベルトは考え攻撃指示は出さなかった。
「敵先頭300メートル!」
見張り台の兵士が距離を伝えた。
「捕虜を返してやれ」
「了解」
「ん?」
不意にカタジナが命令を出した。
そんな命令を出して無いとロベルトがカタジナの方を見た時だった。
「ぎゃああぁぁぁ……」
「え?」
「は!?」
「マジか……」
投石機の1台が発射された。
叫び声と一緒に。
敵の先頭付近に落ちたそれは赤い何かが飛び散り、敵兵の動きが止まった。
「前進!」
ヤストロップ族の指揮官が命令を飛ばすと歩兵は前進を始め投石機も後に続いた。
部族長の11男が連れさらわれた挙句、先に支城に攻め込んだ部族長の長男も行方不明。損害が大きいが敵対心も燃え上がり士気は高かった。荒鷲の騎士団を懲罰する為に皆、前へと進んだ。
「来るぞー!」
一発だけ。支城の投石機が何かを投げたが様子がおかしい。
「……ぁぁぁああああ!!!」
何か人の叫び声の様な声を上げながら地面に叩きつけられたソレは連れ去られた11男達だった。
墜落の衝撃で物言わぬ肉片になったのを目の当たりにして、ヤストロップ族の兵士は足を止めたが……。
「おのれ……おのれぇ!続けぇー!」
「「「応ーーー!」」」
指揮官の檄で歩兵達は一斉に支城へと向った。




