敵襲
疲れた……。まだベッドの中だけど、滅茶苦茶疲れてる。
昨日は丸一日帰還後の業務で忙殺されて日付が変わっても書類と睨めっこだった。ホセは不機嫌だし、リシャルドも手伝ってくれたから何とかなったが。クラウス、早く帰ってきてくれ……。もう朝の6時だけど、今日も休業日にするか。兵も休めて無いだろう。そういう事にしてくれ、身体が若いからって徹夜明けはキツイんだ。前世の年齢を含めると60近いんだぞ僕は。
「はぁ~……」
それとマヤの実家に捕虜3人を移送したが、なんとヤストロップ族の部族長の息子が1人混じっていた。11男坊だったか?マヤに殺された騎士も向こうのよくわかんない騎士団の大物だったとか。
マヤを僕の婚約者って事にしといて良かった。マヤとアンナに手を出せば全面戦争だと向こうも分かるだろ。
マヤ本人は不服そうだったが、僕だって本音は嫌だ。クラウスと婚約解消したし、そのうちマヤとも婚約解消手続きをしないとだ。アリツェの笑顔を見たい……。マヤみたいな無表情の人は何か苦手だ。アリツェと真逆のタイプだもんなあ。
……実際のところアリツェは転生してるのだろうか?
なんだかんだ、親しい人は転生してるがアリツェはこの2年間ゴードンが探し続けても見つからない。このままアリツェと再会できずに……。
イヤだ。もう、体感で13年は会ってないんだぞ。
一目会いたい。
風呂でも入るか……。
疲れた……。実家のベッドの中だけど、母に夜中まで剣術でしごかれた。
若干、筋肉痛だ。若いからすぐ筋肉痛になるだけましか。ほんとに母は1枚上手なんだよな。力は私の方が強いけど的確に斬り込んでくる。
どっかのロベルトと違って弱くない。……いや、ロベルトの奴は弱いと言うより怖がりだな。剣の先端が怖いのか、突きや斬撃が掠めると尻尾を巻く。その割に斬り込んでくる。よく分からない相手だ。
ミランも子供の頃は泣き虫だったけど……。う〜ん……。
なんかロベルトに腹が立って反射的に壁を殴ってしまった。
なんかロベルトは癪に触る。アイツの事を考えてるとミランの姿がチラつく時がある。
アイツとミランは違う筈なのに。
「はぁ~……」
ミランが居てくれたらな……。こんなに不安や寂しさとか無いんだろうな。1人で過ごしてるとミランが戦争に行った後の事を思い出して嫌になる。ミランと一緒に戦争に行った教え子が1人また1人とソ連で亡くなった話も聞いたし、最後はフランスで……。
そうだ、ホセが私と同じ転生者だとかアンナが言ってたけど、一昨日の騒動でその事を話せてないな。
オルゼル城に戻って話してみようかしら。他の転生者とか面白い話の一つぐらい有りそうだし。
疲れた……。ビトゥフを出てほぼまる1日馬を走り続けてようやくオルゼル城に着いた。
お尻が痛い……。
調理場の煙突から煙が上がってる。まだ早いけど寄れば何か食べれるかな。いや、身体が臭うしお風呂入ろう。男の格好をしてるけど、ちゃんと恥じらいは有る。……ミラン先生と婚約解消したし、普段から女の子らしくしても良いかな?昔みたいに。……いや、副官として側に置いて貰っている以上、化粧っ気が有ると良くないか。
「はぁ~……」
何考えてるんだろ私。そんな事は普段考えないのに。お風呂入って気持ちを切り替えよう。
オルゼル城内の居住区。ミラン先生とは隣の部屋に在る風呂場に向かおう。先生への報告は後でいいか。急ぎの報告は無いし。
「すぅ〜……」
寝てる。
お風呂から上がったらミラン先生が共用の娯楽室のソファに仰向けになって寝てる。
相変わらず顔がいいな。
今ならミラン先生と……。
無防備に寝ているミラン先生を見て邪な考えが頭を過った。
流石にそこまで落ちぶれてはいない。でも……。
近付いてミラン先生の顔を覗き込んでも起きる気配が無い。この人は何時もどこか抜けてると言うか。今ならキスぐらい……。いや、ミラン先生はアリツェ先生の事を未だに愛してるんだ。そんな卑怯な真似は出来ないな……。
……疲れてるんだろうな。変な考えばかりしてしまう。私も別のソファで少し休むか。
「突っ込むぞ!ついて来い!」
泥にまみれながら僕達はミラン先生の後に続き塹壕に飛び込んだ。コレは前世の、1943年の記憶か。
「援護を!」
塹壕の奥、曲がり角に小銃を向けている間、ミラン先生は手榴弾のキャップを外し紐を引くと角の先に投げ込んだ。ソ連兵の声が聞こえたと思った瞬間爆発したので小銃を構え直したミラン先生に続き奥へと向かう。
「あ゛〜!」
左腕と顔の左半分が血塗れのソ連兵が居たが、ミラン先生が小銃で撃ち殺した。
この人は変わってしまった。奥さんのアリツェ先生の待つ家に帰る為に躊躇無く人を殺す様になってしまった。それどころか、病気で子供を産めないアリツェ先生の為に積極的に武勲を立てようとしているのか今みたいに危険な場所に飛び込んでいる。
「援護を!」
次の角でミラン先生が再び手榴弾を用意し始めた時だった。角の先から短機関銃を構えたソ連兵が現れ乱射して来た。
真横に居たペーターが頭を撃たれ、血飛沫が僕の顔にかかった。恐怖で狙いが定まっていないが、引き金を思いっ切り引き絞り銃を発射したのは覚えてる。放たれた銃弾は短機関銃を乱射した……少年兵に当たっていた。
「あっ…あ”っ〜!」
幼馴染のペーターが即死した。殺したのは子供でその子供を僕が撃ち殺した。
「クラウス!立て!」
「あっあっ……」
恐怖と罪悪感で腰が抜けて立てない。先生、僕を見ないでください。僕は……私は……私は……。
「クラウス!おい!」
「っ!」
いつの間にか寝てた様だ。目を開けると今のミラン先生が目の前に居た。
「うなされてたぞ」
背中が汗まみれだ。
前世の記憶を悪夢で見るなんて。
「大丈夫か?」
「ええ……大丈夫です…」
……あの後、ソ連の反攻も有って部隊ごとフランスに配置されたんだったな。そこで私だけ生き残った。
「飲みなさい」
先生がワインを1杯、グラスに入れて手渡して来た。
一気に呷ってグラスを机に置きしばらく黙っていると部屋の外が俄に騒がしくなった。
先生も耳を立てて廊下の方を見ると、血相変えたリシャルドが扉を開けて叫んだ。
「兄さん!支城が攻撃されてる!」
「何!?」




