支城
「マヤさん降りてください」
いつの間にか寝ていたようで、リシャルドの声がして意識が戻った。
「マヤ様、着いたみたいです」
アンナに揺すぶられ、目を開けるとカーテンの隙間から朝日が漏れている。
馬車の扉が開き、アンナに続いて馬車を降りるとなんと実家だった。
「しばらく、ご実家で過ごしてもよいと兄から」
リシャルドにそう言われたがそんなつもりは無かった。
「いえ、私は…」
「マヤ!無事なの!?」
オルゼル城戻りたい旨をリシャルドに伝えようとしたら母が城の中から出て来た。慌てた様子から事の顛末を聞いたようだ。
「お母様、私は無事です。ただアンナが服を……」
思い出して胸が詰まる。アンナに怖い思いをさせてしまった。
「聞いたわ。怪我は無かった?」
母がアンナと私を思いっ切り抱き締めた。……私の母親だけあって、身長が有るし力が強い。伊達に騎士の家柄だけの事は有る。
「ロベルト様から話は聞いたけど。まだ大事な話が有る
と」
ロベルトから?なんだ?
「ささ、中に入って。リシャルド様もどうぞ」
「いえ、私は兄に代わって帰還処理が有りますのでここで」
お辞儀をしてから馬に乗りオルゼル城へ帰って行ったリシャルドを見送り、ダイニングに入るとロベルトが緊張した様子で椅子に座っていた。出された紅茶には手をつけていないみたいだ。
なんか腹立つんだよな。
ミランと仕草が似てるというか。
今も右頬を忙しなく右手で掻いてるがミランが緊張してる時と同じ仕草だ。一々癪に触る。
「それで、お話しと言うのは?」
私とアンナも椅子に座り、母の侍女に紅茶を給仕してもらうや母が口を開いた。
私は我関せず、紅茶に砂糖を入れながら聞き耳だけ立てていた。どうせ大したことじゃ無いだろう。
ロベルトの奴は少し間を置いてから話始める。
「今回のヤストロップ族の狼藉は看過できませんでした。騎士団としても、協定が有るとは言えヤストロップ族の統治の失敗につき合わされるのは」
ほら、大したことじゃ無い。
私だって騎士団に入るから政に関わるのも仕事の内だが、今回の件は騎士団の上の方が決める話だろうし。なんだかんだ親の金で好き勝手やってるお坊ちゃんのロベルトが何かするとは思えないし。
「事を大きくする為に、マヤと私が前日に婚約している事にしました」
ん!?
「ヤストロップ族との協定を破るのにマヤと婚約した事にした!?」
はぁ!?何してんだコイツ!
「ヤストロップ族が“恥をかかされた”とマヤさんとアンナさんを暗殺する可能性が高いので、一昨日付けの公式書類として騎士団経由でヴィルノ部族長へ回してます」
部族長に回す公式文書!?私は一切何も書いてないぞ!
「勝手な真似をっ!」
私が椅子から立ち上がると母が右手で制した。
「確かにヤストロップ族なら逆恨みでマヤとアンナの命を奪っててもおかしくは無いわね。でも、貴方は良かったの?クラウディアとの婚約の話が有ったでしょ」
母に制止されて椅子に座ったがイライラする。てか、コイツ婚約者居たのか。興味無かったから忘れてた。
「クラウディアとは前々から婚約の解消を決めてました。今回の事が無くても婚約解消してましたよ」
ロベルトの奴、いけしゃあしゃあと……。
「今回の婚約もほとぼりが冷め次第、解消手続きをと」
「短期間に2度も婚約解消だなんて、世間体が悪いわ」
母に言われ、少しロベルトの顔が曇った様に見えた。
「構いません。私は誰とも結婚するつもりは有りませんから」
男好きか?クラウスとか。
何時も一緒に居るし、寝室も隣だっけ?……ほんとに女っ気無いよなあ。野郎4人で何時もつるんでるし。
まあ、それなら婚約しても変な事起きないか。起きても昨日の騎士みたいにバラバラにするだけだけど。
「マヤとアンナに狼藉を働いた下手人はどうなりました?」
「2人はマヤさんが殺害して残り3人はリシャルドの従士が怪我をさせた上で捕虜にしオルゼル城に移送してます」
あ、母の顔が強張った。まずい。
「マヤ、次は全員殺しなさい。それとロベルト様、捕虜3人の身柄を頂けますか?」
我が母ながら、かなりの武闘派で名が通っているだけあって、敵に甘いと不機嫌になるんだよなあ。父曰く、“結婚して丸くなった”そうだが、そうとは思えないなあ。
「捕虜の検分が済み次第でよろしいでしょうか?」
「ええ、どうぞよしなに」




