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転生者達 荒鷲の騎士団編  作者: 因幡晴朗


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13/22

クラウス

 馬でビトゥフまで駆けているが2年前の事が頭を巡っている。


 2年前……。


 この扉の向こうに私の許婚が居る。そう思うと緊張してきた。親同士が勝手に決めた婚約だけど、相手が私と同い年の騎士となれば期待もしてしまう。前世は男だった私がすっかり恋する乙女になるとは……。


「……」


 自分の尻尾がパタパタと振られてる音が部屋に響く。

 兄曰く顔は良い人らしい。姉曰く魔法の才能が凄い。ただ別の兄曰く剣の模擬試合で私と同い年の女の子に大怪我を負わされたらしい。

 噂ばかりで顔を知らない相手だけど、期待で胸が一杯だ。おまけに相手は騎士団長の跡取り息子。母様が亡くなって悲しんでる父様の為にも今日の顔合わせで好印象を持ってもらいたい。

 ……なんなら婚礼もしてもいいけど。人間だった時は10歳はお子様だったけど早熟な人狼なら……。いや、流石に早いね。14歳位で良いかな。


「クラウディア様、準備が整いました」


 従者の人に告げられ、仲人を務めてくれるレムス卿の案内で私は彼の待つ騎士団本部の大広間へと歩き始めた。



 荒鷲の騎士団で行われるパーティに合わせての顔合わせだが、粗相が無いようにせねばと緊張した。

 他にも私と年が近い男の人が何人も居たが、その人はすぐ分かった。双子の白い毛色の弟君と仲良く談笑する笑顔に一目惚れした。


 衆人環境での顔合わせ。ましてや騎士団長の跡取り息子と騎士団の重鎮の娘ではイヤでも注目されているのがわかる。身体に引っ張られたのか、すっかり緊張してしまった私だが……。


「君はお母様がヤストロップ族の出身なんだね」


 御相手のロベルト様は落ち着いた雰囲気の方だった。


「はい、お父様が遠征先で一目惚れしたと」


「なるほど。どうりで君の髪は美しい黒色のはずだ」


 ヴィルノ族の琥珀色の毛色と違う私の黒髪を褒めてもらえた。嫌がる人も多いがロベルト様はそんな様子は一切無かった。


「ありがとうございます」


 家族や親しい使用人にしか褒めてもらえた事が無かったので嬉しかった。

 ロベルト様のお陰で緊張が解け、その後は2人で談笑して過ごした。

 不思議と共通の趣味や好みが似通っていて運命的な物を感じた。

 人狼の婚約は親同士が決めた場合も本人達の相性次第では簡単に解消される。でも、この人となら大丈夫だと思えた。




 空が薄明るい。もう夜が明ける。ビトゥフの南に在るなだらかな丘をくだると門を通る為の通関手続きを待つ荷馬車と旅人の列が見えたが真横を馬で走り抜け、まだ閉まっている南門へと向かった。


「誰か!?誰か!?誰か!?」


 ビトゥフの南門の部族兵が誰何して来た。


「荒鷲の騎士団の伝令だ!通行許可を願う!」


 伝令が持つ騎士団の紋章が描かれた馬印(バナー)を見せると部族兵は正門脇の小さい門を空けてくれた。


「お疲れ様です」

「ありがとうございます」


 荒鷲の騎士団がヤストロップ族領で戦っている事は部族兵も承知だ。普段なら面倒な手続きが居るが、口頭で名前を言うだけで通過出来る。


「名前は?」

「クラウディア・コナルスカ」


 通過者の名簿を管理する部族兵が一瞬手を止め私を見た。


「では通って下さい」

「ありがとうございます」


 化粧っ気が全くない男装の私を見て面食らった様だ。

 ……私も変わってしまったな。




 荒鷲の騎士団本部に立ち寄り、騎士団長の副官に手紙を渡してから騎士団の文書庫へ向かった。


「この書類の処理をお願いします」


 騎士団本部を経由しての書類。


 私とロベルト(ミラン先生)の婚約解消の願いとマヤとロベルトの婚約願。

 ヴィルノ族の公文書館に送る前に此処で処理して正式書類にしてもらう必要があった。


「急ぎの書類だね。朝一に公文書館に送るよ」

「ありがとうございます」


 後はチェスワフ部族長へ手紙を届けるだけ。騎士団本部を立ち去ろうと廊下に出た時だった。


「クラウディア?」


 背後から名前を呼ばれてた立ち止まった。なんで今ここに……。


「クラウディア、か?」

「お父様」


 振り返ると今の父親の姿。前回会った時よりもやつれていた。


「元気か?」

「はい……」


 歩み寄ってくる父の手が震えていた。


「また、男の格好を……。いつまで続けるのだ?そんなんじゃロベルト坊も呆れてしまうぞ」

「いえ、お父様。ロベルト様とは……」


 父に婚約解消の事を伝えるか悩んだが、後から知って泣かれるよりはと思い伝える事にした。


「婚約を解消しました」

「……なんでだ?仲は良いだろう。似合いの夫婦になれるだろ?」


 父の言葉が心に刺さる。


「無理でした。……あの人は、前世の奥さんを愛していて誰とも結婚するつもりが有りません」

「前世のだと、だが今は」


 父が話してる途中だが言葉を遮った。


「駄目なんです。それにあの人と私は前世で面識が有って。私はあの人の生徒だったんです。前世では私を歳の離れた弟か息子として接してくれてましたし」


 実際、異性として見てもらった事はない。


「私も努力しました。でも、あの人の中では私は可愛い弟止まりなんです」


 父が表情が固まったまま私の肩を掴んだ。


「それに、本当に前世の奥さんを愛していて。私が転生者だと分かる前も奥さんを裏切れないと泣いてしまって」

「そうか」


 思い出したら涙が出て来た。





 顔合わせが終わり3日経った。

 トントン拍子で婚約の話も進み、私はロベルト様とオルゼル城で暮らす事になった。

 気が早いにも程が有るが、人狼の貴族では普通に婚前交渉も有るらしい。前世は無駄に長く生きたので閨(ねや)の知識は有る。


「ロベルト様、入ります」


 彼の寝室の戸を叩くと入るように言われ、中に入るとロベルト様の他にリシャルド様と彼の従士が居た。


「……まだ子供同士じゃねえかよ」


 リシャルド様と従士は立ち上がったが、従士の方は私を見るなり子供扱いして来た。私と同い年っぽいのに。


「嬢ちゃん、無理しなくていいんだぞ」


 なんか上から目線の言葉を残して従士とリシャルド様は部屋から出て行った。失礼だなホント。


 ロベルト様はベッドの縁に座り緊張しているのか尻尾がそわついていた。初々しい反応が面白いので、ロベルト様の右隣に座り、彼の肩に頭を寄りかけた。

 すると、尻尾の動きが早まった。


「緊張されてます?」

「うん」


 わざとらしく質問したら、短い返事が返ってきた。


 しばらくそうしていると、ロベルト様は私の両肩を掴み私はベッドに押し倒された。

 私まで急に恥ずかしくなり目を瞑ってしまったが、頬に何か水滴が垂れてきた。驚いて目を開けるとロベルト様は泣いていた。


「アリツェ……」

「え……!?」


 懐かしい、前世で小学校の教師だった人の名前を漏らし、ロベルト様は顔を両手で覆うとベッドの縁に座ったまま動かなくなった。


「すまない……。実は、僕は前世の記憶があって……。妻の事が忘れなくて……君を愛せないんだ……」


 その時、何かを感じて自然とロベルト様の正体が分かった。


「ミラン先生……?」


 身体を起こし、ロベルト様の横に座り直した後にその名で呼び掛けるとロベルト様は目を見開いてこちらを見た。間違い無い、ロベルト様はミラン先生だ!


「私です。クラウスです!」

「クラウス。お前か!?なんてこった!」


 まさか知ってる人と再会するとは。おまけに恋した相手なんて。


「お前もあの後死んだのか!?」


 そうか、先生はその後の事を知らない。


「私は捕虜になりました。先生が亡くなられた翌日にアメリカ兵が陣地を……生き残ったのは私だけです」

「ドイツが負けるまで何処に?」


 先生はどこまで知っているんだ?


「戦争の結末は知っているんですか?」

「ああ、ホセに。さっき居たリシャルドの従士から聞いている。あいつはアメリカ人だったんだ」


 なんか失礼な奴だと思ったが、アメリカ人だったのか。喋りも変わってると思ったら。


「私はイギリス本土の捕虜収容所に移送されました。終戦後もチェコ出身だと言っても釈放されず数年は……。釈放後はチェコに居られなくなり東ドイツで20年程生きてました」


 何もかも失った。故郷も家族も。


「そうか、クラウスだけでも無事でよかった。ところでアリツェの事は何か?」


「っ!」


 言葉が詰まる。事実を伝えるべきか。


「教えてくれて!アリツェは?」


 涙が止まらない。しかし言わないと。


「……自殺しました」


 ミラン先生の顔が強張った。


「嘘だ……」

「ごめんなさい、先生。私が迂闊に先生の事を手紙で伝えたばかりに、アリツェ先生はステラ先生のお墓の前で毒を……服毒自殺を……」


 ミラン先生の目が焦点を合わさなくなった。

「そんな……アリツェ……嘘だ……あ…あ…」


 先生の手が震え私の腕を掴むと泣き崩れてしまった。


「ああああぁぁ!あ゛あ゛あ゛あ゛!」

「ごめんなさい先生。ごめんなさい……」


 この晩は2人で泣き尽くし、私は婚約者でなくなった。

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