狼藉
大急ぎで用意された指揮所用のテントにテーブルと椅子が並べられ、僕とリシャルドとクラウスも参加してヤストロップ族との話し合いが始まったが……。
「捕虜を引き渡してもらわねば困りますぞ!」
ヤストロップ族側のよく分からない騎士が怒鳴ってるが、帰りたい。読みかけの本を城に置いてきちゃったから帰りたい。
「我々の戦果として捕虜を引き渡す義理は無いのでは有りませんか?」
レムス卿も帰りたいから向こうが嫌がる要求を突き付けて一歩も引かない気だな。僕の右隣に座るクラウスもノートに悪戯描きをしてるし、リシャルドも嫌そうに耳をパタつかせてる。
「我々の法で反乱軍を裁かないでどうする」
知らんがな。
そもそも、そっちの統治が失敗のが原因だろうと。
僕達も金が掛かる上に命を落としかねない反乱鎮圧に協定があるとは言え、着き合わされてて迷惑なんだ。少しは空気を読んで欲しいが、反乱が起きるような政治センスじゃ無理か。
……そうだ。マヤは無事かな?なんか倒れ込んだだかで僕のテントで休ませているが。
「マヤ様、大丈夫ですか!?」
テントの中で椅子に座っているとアンナが現れた。
「ここは?」
気付けば知らないテントに居たので何が何やら。誰が外したのか、私が着けてた胸甲は外してあるが。
「ロベルト様とリシャルド様のテントですよ。マヤ様が倒れたので此処で休んでいいと」
……そうか、私倒れたんだ。急に疲れて、それで。
……いや、なんであの双子のテント?どうりでテーブルの上に地図やら色んな書類が置いてある訳だ。
「初陣で貧血を起こしたせいだろうと。それとホセさんに気付けの飲み物を頼んで有りますから」
「そう、ありがとう」
貧血……。貧血か。
なんか情けないな……。
まだ自分が弱いみたいな気がして。
……ん?
双子の私物だろうか?
ベッドの上に乱雑に本が置かれていた。英語の本にドイツ語の本とチェコ語の本?
ドイツ語は銃士隊の号令がドイツ語だからまだわかる。でも、英語とチェコ語?英語の方は小説だけどチェコ語の本は……。『ズデーテンラントのその後』?私の前世の故郷の本?
「起きてましたか」
男の声がしたので振り返ると知らない男がテントの入口に居た。
「あの、誰ですか!?」
アンナが驚いた様子で質問したが、男はお構いなしにテントに入って来た。それだけでなく他に4人の見知らぬ若い男も一緒だった。
「あの、ちょっと……」
最初に入って来た男が歩み寄ってきた。
黒い毛色。ヤストロップ族!?何故勝手に?
「さっさとひん剥いちまえ」
はぁ!?
振り返るとアンナが囲まれて……。嘘!?
「きゃあああ!!!」
後ろ手に拘束されて、ステラの時みたいに乱暴を!?
「やめろ!」
「おっと!?」
立ち上がり、若い男4人の狼藉を止めようとしたが、歩み寄ってきた男に左腕を掴まれ身体を引き寄せられた。
男の顔が迫る。
……この野郎ぉ!
私は右手で拳を作り、キスされる前にこの男の顎に叩き込んだ。
「おい、なんだてめえら!」
アンナちゃん言われてピッチャーに入れた気付けのホットワインを持ってきてみたら、テントの前にヤストロップ族の従士共がたむろってやがった。
「お引き取り下さい」
「俺らのテントだろうが!何勝手に!」
「きゃあああ!!!」
アンナちゃんの声!?
「そこを退け!」
ピッチャーを投げ捨て拳銃を抜いたタイミングでマヤの叫び声も聞こえた。コイツらまさか!?
拳銃をスライドさせて、弾丸を装填できた。どかねえなら撃つぞ。
「だからお引き取…」
引き金に力を入れ始めた直後だった。目の前の従士の頭に何かが当たり倒れやがった。
「うっ!?」
何だコレ!?人の下顎か!?さっきまで邪魔してた従士の後頭部にぶち当たって……死んだんかコイツ。
「うわぁぁぁ!」
テントの中から更に複数の男の叫び声。アンナちゃん、無事か!?
「アンナ!」
よく見りゃ、さっきの下顎?テントを突き破って中から来たんか。他のヤストロップ族の従士達を蹴散らして中に急いだ。
「アンナ!」
中に入ると、ヤストロップ族の騎士と思われる奴が下顎と右腕が無い状態で仰向けに倒れていて、マヤ嬢に腰の辺りを踏み潰されて絶命してる所だった。
アンナちゃんは……。
「あ……」
アンナの周りに腰を抜かして倒れてる若い男達、1人は人の腕が後頭部に刺さって死んでる。
しかし、この状況。アンナちゃんの服が破れて死んだ男はズボンを半分下ろして……。ふざけんな、アンナちゃんはまだ10歳だぞ。
「この野郎!よくも!」
アンナちゃんを引き離しまだ無傷だった男3人に銃弾を浴びせた。
「何の騒ぎか!」
外が騒がしくなり、レムス卿が叫んだ直後に銃声が複数響いた。
「銃声!?見てきます!」
クラウスとリシャルドを連れ、指揮所を出るとまた銃声が響いた。
「僕達のテントだ!」
マヤを休ませてるテントからだ。急いで駆け寄ると何故かヤストロップ族の従士まで居る。念のため、拳銃を抜いてテントに入ると。
「この野郎!クソ!クソが!」
ホセが誰かに馬乗りになり顔面を殴りつけてる。
「なっ!?」
顔が下半分と右腕が無い死体、それに腕が頭に刺さった死体。さらに瀕死の男2人にホセに殴られてる男。何だコレは。マヤはアンナに抱き着いて泣いて……。
アンナの服が破られて。まさか!?
「止めろ!ホセ!」
クラウスがホセの襟首掴んで引っ張ったが、ホセは殴っていた相手を足蹴りにしながら引きずられた。
「邪魔すんじゃねえ!てめえ!クソが!」
コイツら、マヤとアンナを襲ったのか。それでマヤに返り討ちにあってホセも激怒して。
「っ!」
マヤが泣いてる。この目……。見たことがある。前世で目の前でステラが殺された時のアリツェと同じ……。くそ!
「リシャルド!銃士隊を集めろ!」
振り返り、弟のリシャルドに叫ぶと驚いた様子で耳を立てた。
「コイツらを拘束しろ!ヤストロップ族が身柄の引き渡しを求めても応じるな!ゴネる様なら発砲して構わん!ホセ、撤収準備だコイツらを連れて城に戻るぞ!……クラウス、来い!」




