2.
その日のお茶会はいつにない規模で開かれていた。
未来の王妃が主催するお茶会とのことで、規模は王城の大広間を借り切っている。
勿論、王族や重鎮貴族、官吏たちの承諾のもとで開催されているため、侍従や女官が取り仕切る手順に不都合はなく、順調に招待客は入場し、席についていると報告を受けた。
年末に開かれる大夜会と同等規模でありながら女性のみの入場ということもあり、些か落ち着きには欠けていた。
華やかな衣装をまとった若い女性の貴族ばかりで埋め尽くされた会場は、新緑の若葉を集めたような明るく賑やかな雰囲気で満たされている。若い女性の集団はそこにいるだけで新しい季節を感じさせる風を起こすのだ。
参加可能な範囲にある貴族の若い女性に送った招待状の返事はほぼ参加で、馬車は列をなしていた。
招待主という立場にあるソフィアは、参加者を出迎えるために入り口で待機していた。
名目として、派閥を超えた、としているが、実際は王家に近いとされる貴族から入場を許され、中立派に対立派閥といった高位貴族を爵位順に不自然さがない程度に入り交えており、一瞬たりとも気が抜けない。
が、ソフィアからすれば難しい政治や外交を口にする男性貴族を相手にするわけではないため多少気楽な面があった。
王太子の婚約者、という立場について長い。人生の半分以上、ソフィアはそう見られて生きてきた。
年齢の低さなど気にもせず、将来の王族ならば、と意地の悪い質問や問題提起を投げかける権威ある貴族を相手にしてきたソフィアには、衣装が素敵、髪飾りが似合っている、今年の特産品の出来はどうか、という女性が褒められたいところや気にして欲しい話を振るのは難しいことではない。
同世代の女性が「外国船の構造」とか「移民の増加による治安悪化」という話題を好まないことくらい承知している。
ただ、数が多い招待客を相手にしていると、最後のほうになるにつれ、最初に振った話題と似た受け答えになることは仕方がないだろう。
名と顔を確認し、珍しい布地に驚いたふりをする、細工を褒める、所作が綺麗、外国語が堪能と聞いた、等と話題を振りまいていると、最後のほうに一人、伯爵家の令嬢が交じっていることに気づいた。
貴族は派閥も関係するが、爵位は絶対だ。末尾にある子爵や男爵に伯爵が交じるのは奇異だ。
「どういうこと? 間違いではなくて?」
そっと伯爵家の名を指すと、控えていた馴染みの侍女が耳打ちをした。
「事情があるのです」
「あとで聞くわ」
幼いころから自分に仕えている侍女に告げ、ソフィアは次の客人と向き合う。
ソフィアの前にいた令嬢が下がり、次に控えていた伯爵令嬢が前に出た。
「ソフィア様にご挨拶申し上げます。本日はご招待いただき誠にありがとうございます」
「ようこそいらっしゃいました。お越しいただいて嬉しいわ。堅苦しいものではないので楽しんでくださいね」
「恐れ入ります」
金色の髪は貴族によくあるし、緑の目も珍しくはない。
だが、彼女は周囲と明らかに違う空気をまとっていた。
そして、彼女の顔はどこかで見た気がした。
「あの、どこかでお会いしたことがあったかしら?」
「いいえ。本日が初のはずでございます」
ソフィアも、問われた彼女も、揃って首を傾げた。
ソフィアは記憶力に自信がある。誰とどこで出会ったか、どんな会話をしたか、相手が何を話して何を好んでいるか、何を苦手としているか、を覚えるのは貴族としても王族になるものとしても必須のようなもの。
その記憶力を秘かな自信としていたが、彼女を前にすると少し揺らいでしまう。
会ったことがないはずなのに記憶にあるのだ。
「ごめんなさいね。人違いをしてしまったかもしれないわ」
「お気になさらず。よくある顔ですので、私」
他愛もない遣り取りのあと、彼女は会場に案内されて行った。
その後は数人の令嬢が待っていただけなので、それほど時間は必要なかった。
全ての客人を会場に誘った後、ソフィアは侍女が渡してくれた飲み物で喉を潤す。
かなりの時間、歓迎の挨拶に費やしていたので、染みるように身体の中に行き渡った。
「珍しいですね。ソフィア様が面識のあるかないかを間違われるのは」
気の置けない間柄のせいか、人目がない場所での侍女は鋭い所をついてくる。
「そう、ね。気が緩んでいたのかしら。気を付けるわ」
ソフィアは無難に返答をしつつも、やっぱりどこかで見た気がする、という感覚を捨てきれずにいた。




