■第20話:魔王軍のさらなる大失態! ……えっ、私を「安っぽい偽物」で誤魔化せると思ったの?
いつもお読みいただき、誠にありがとうございます。
『困った神様シリーズ』第5弾、本日も更新です!
魔法もチートも使わない、圧倒的な「自己肯定感」と「ド正論」による異世界蹂躙劇。
どうぞ、リラックスしてお楽しみくださいませ!
【場所:神界・ネフェルの部屋】
「アハハハハッ! ちょっと、魔界の様子がおかしいわよ!」
女神ネフェルは、モニターの前で特大のパフェを頬張りながら、腹を抱えて笑っていた。
画面に映っているのは、魔王城の緊急会議室。しかし、そこにいる幹部たちの顔は、かつてないほどに青ざめていた。
「エリートスパイに続いて、ナンバー2の宰相メフィストまで帰ってこない(※現在、王都で好子様の馬車を嬉々として洗車中)んだから、そりゃパニックにもなるわよね!」
ネフェルは、ペンライトを指揮棒のように振った。
「さあ、魔王! あなたの組織はもうボロボロよ! 次はどうするの? 遂にあなたが直々に好子様の前に跪きに行くのかしら!?」
【場所:魔界・魔王城・緊急作戦会議室】
『…………嘘だろ』
魔王は、玉座の上で頭を抱え、ガタガタと震えていた。
『メ、メフィストまで……我が軍の頭脳であるメフィストまでが、あの女の「専属御者」に転職しただと……!?』
『しかも、国家予算を投じて作らせた純金の馬車まで、ちゃっかり没収されているではありませんか!』
残された幹部たちが、涙声で報告する。
『魔王様! もう後がありません! あの女は「トップが来ない組織には行かない」と宣言しています! ここはやはり、魔王様ご自身が赴くしか……!』
『い、嫌だァァァァッ!!』
魔族の頂点に立つ漆黒の堕天使(魔王)は、会議室の床に突っ伏して駄々をこね始めた。
『絶対に行かん! あんな歩くド正論マシーンみたいな女の前に立ったら、俺の「魔王としての威厳」が論理的に完全解体されてしまう! 怖い! メンタルが耐えられない!!』
『しかし魔王様! このままでは魔王軍の面子が……!』
魔王は、顔を上げ、血走った目で幹部たちを見回した。
そして、「組織のトップとして絶対にしてはいけない、最悪の思いつき」を口にしてしまった。
『……そうだ! あの女は「トップが来い」と言っているのだな? ならば、トップが行けばいいのだ!』
魔王は、部屋の隅で控えていた下級魔族――姿を自由に変えられる『ドッペルゲンガーのゼノ』を指差した。
『ゼノ! 貴様、俺の姿に化けろ! そして「魔王」としてあの女を迎えに行け!』
『……えっ?』
ドッペルゲンガーのゼノが間抜けな声を出す。
『影武者作戦だ! 姿形さえ俺と瓜二つなら、人間の女に魔力の違いなど見抜けるはずがない! 貴様が俺のふりをして、適当に甘い言葉を並べて連れ帰ってこい!』
「魔王が怖気付いて影武者を送る」という、姑息極まりない大失態。
しかし、パニック状態の魔王軍は、この「安い偽物で彼女を騙す」という、好子が最も嫌悪するタブーに気づくことはできなかった。
【場所:王都・好子のスイートルーム】
その日の午後。
好子は、新たなパートナー(共同経営者)となった大公爵レオンハルトが淹れた極上の紅茶を、優雅に楽しんでいた。
「……レオンハルト。この茶葉、抽出温度が1度高いわ。香りが少し飛んでる」
「申し訳ない、我が太陽。すぐに淹れ直そう。……ふむ、だがその前に『招かれざる客』が来たようだな」
レオンハルトが冷徹な視線を扉に向けた、その時。
バァァァンッ!!
スイートルームの扉が派手に開き、漆黒のオーラ(※幻覚魔法)を纏った魔王(の偽物であるゼノ)が、大仰なポーズで立っていた。
『フハハハハ! 待たせたな、美しき人間の娘よ!』
偽魔王は、内心ガクガクに震えながらも、必死で魔王の尊大な演技をした。
『俺こそが魔界の絶対的支配者、魔王である! 貴様の要求通り、俺自らが迎えに来てやったぞ! さあ、俺の手を取……』
「レオンハルト」
偽魔王のセリフを完全に遮り、好子はティーカップを見つめたまま、氷のような声で言った。
「ホテルのセキュリティはどうなってるの? なんで『三流劇団の大根役者』が、勝手に部屋に入ってきてるのかしら」
『だ、大根役者!?』
偽魔王の顔が引きつる。
「……ただのゴミだ。すぐに片付けよう」
レオンハルトが、腰のサーベルに手をかけた。
『ま、待て! 俺は本物の魔王だぞ! この漆黒の翼が見え……』
「黙りなさい」
好子が、パチンと扇子を鳴らし、ゆっくりと偽魔王を振り返った。
その瞬間、偽魔王は、好子の放つ圧倒的な「格の暴力」に当てられ、息が止まりそうになった。
「私を誤魔化せると思ったの?」
好子は、扇子の先端で、偽魔王の姿を一つ一つ的確に指摘し始めた。
「まず、重心。トップに立つ者の『揺るぎない丹田の重さ』が全くない。ただ背伸びして威張っているだけ」
「次に、視線。私の目を見た瞬間、恐怖で瞳孔が泳いだわね。絶対者の目じゃない」
「極めつけは、その纏っている『気』よ。王の覇気なんて欠片もない、『上司に無理やり押し付けられて、怯えながらやってきた下っ端の悲哀』が全身から滲み出てるわ」
ピキィィィンッ!!(影武者の演技プランが粉砕される音)
『なっ……!?』
ゼノは、自分が完璧に化けていたはずの「魔王の姿」が、好子の前ではただの「薄っぺらい着ぐるみ」でしかなかったことに絶望した。
「私が『トップ(本物)を連れてこい』と言ったのに対して。あなたの上司(本物の魔王)は、自分が出てくる勇気すら持てず、あろうことか『安っぽい偽物』を寄越して私を騙そうとした」
好子は、氷点下300度の視線で、偽魔王を完全に射抜いた。
「……この私が、そんな『100円均一で買ってきたようなメッキ(偽物)』に引っかかるような、節穴の目を持っているとでも思ったのかしら?」
ズガァァァァン!!(魔王軍の最後の策が物理的に崩壊する音)
『ひぃぃぃぃぃッ!!』
ゼノは、もはや魔王の姿を維持することすらできなくなり、ポンッ!と煙を上げて本来の姿(小さなスライムのような下級魔族)に戻ってしまった。
『ご、ごめんなさいィィッ! 俺はただ魔王様に命令されただけで! あなた様を騙せるなんて1ミリも思ってませんでしたァァッ!』
ゼノは、床にへばりついて号泣した。
「……レオンハルト。このスライム、どうする?」
「そうだな。ホテルの窓ガラスの清掃係にでも使えばいい。……しかし、魔王とやらも底が知れたな。君という太陽を前にして、偽物を送るという最大の侮辱を犯すとは」
レオンハルトの言う通りだった。
「美と真実」を何よりも重んじる好子に対して、「偽物で騙す」という行為は、万死に値する最大のタブーだったのだ。
「ええ。本当に、救いようのない三流組織ね」
好子は、呆れたようにため息をついた。
「もう魔王軍には1秒の興味も湧かないわ。さあ、冷めた紅茶を淹れ直してちょうだい。これからは、私とあなたで、この国をもっと面白く(大掃除)する計画を立てるわよ」
「御意のままに」
かくして、魔王軍が放った最後の(そして最も愚かな)刺客は、あっけなく窓拭き係へと降格し。
魔王軍本国は、好子からの「完全な無関心(見切り)」という、最大の絶望を味わうことになったのである。
【場所:神界・ネフェルの部屋】
「アハハハハハハッ!! 最高! 最高すぎるわ!!」
ネフェルは、モニターの前で特大のパフェのグラスを掲げて祝杯を上げていた。
「出たわ! 『100円均一のメッキ(偽物)』!!」
「絶対の審美眼を持つ好子様に、影武者なんて通用するわけないじゃないの!! 魔王のやつ、自分のビビリのせいで、好子様を完全に怒らせた(というより呆れさせた)わね!!」
ネフェルは、壁に新しく書き加えた語録を愛おしそうに撫でた。
『本物を知る私の目を、安っぽい偽物で誤魔化せると思ったの?』
「ああもう、魔王軍はこれで完全終了ね! これからは、大公爵レオンハルトと組んだ好子様が、この国をどうやって自分色に染め上げていくのか……楽しみで仕方ないわ!!」
女神ネフェルは、推しの次なる大舞台(国家改造計画)に胸を躍らせ、今夜も徹夜で応援うちわを作り続けるのだった。
(第5弾・第20話・完)
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