■第17話:若き画家の辞退。……えっ、私を描く自信がつくまで待たせる気?
いつもお読みいただき、誠にありがとうございます。
『困った神様シリーズ』第5弾、本日も更新です!
魔法もチートも使わない、圧倒的な「自己肯定感」と「ド正論」による異世界蹂躙劇。
どうぞ、リラックスしてお楽しみくださいませ!
【場所:神界・ネフェルの部屋】
「さあ! 今日も好子様の尊いお姿を拝む時間よ!」
女神ネフェルは、すっかり定位置となったモニターの真ん前で、両手を合わせて拝んでいた。
画面の中の好子は、騒がしい王城や高級ラウンジを離れ、王都の郊外にある静かな丘の上の公園を優雅に散策している。
「あら? あの木陰で絵を描いている青年は……無名の画家見習いね」
ネフェルが目を凝らす。
「前の『自称・天才画家』みたいに、また好子様に鼻の下を伸ばして『君を僕のキャンバスに!』なんて言い出したら、今度こそ物理的に筆をへし折られるわよ……!」
ネフェルはハラハラしながら見守った。
【場所:王都・郊外の丘の公園】
爽やかな風が吹き抜ける丘の上。
好子は、木陰にイーゼルを立てて風景画を描いている若い画家――テオの背後で、静かに足を止めた。
テオは、好子が背後にいることにも気づかず、ただひたすらに目の前の「陽だまりと木々の揺らめき」をキャンバスに写し取ろうと、真剣な眼差しで筆を動かしていた。
(……ふぅん)
好子は、扇子を口元に当て、しばらくその様子を無言で眺めていた。
(以前会った『歩くシャンデリア(フランソワ)』とは違って、対象を正確に捉えようとする誠実な目をしてるわね。派手さはないけれど、光の表現は悪くないわ)
好子は、自分の美貌に媚びることなく、ただ純粋に「美」と向き合っているテオの真摯な姿に、ほんの少しだけ気分を良くした。
そこで、好子はおもむろに口を開いた。
「……私をモデルに、絵を描かせてあげてもいいわよ」
「えっ……?」
突然背後からかけられた、透き通るような声。
テオが振り返ると、そこには逆光を背に受けて神々しく輝く、絶世の美女が立っていた。
王都のどんな名画すらも色褪せるほどの、圧倒的な三次元の「美」の化身。
「あ、あ、あなた様は……」
テオは、筆を取り落としそうになりながら、息を呑んだ。
(さあ、喜んで平伏しなさい。この私が自らモデルになってあげるなんて、奇跡なんだから)
好子は、余裕の笑みを浮かべて待った。
しかし。
テオは、しばらく好子の姿に釘付けになった後……深く、深く頭を下げた。
「……身に余る光栄なご提案ですが。辞退させていただきます」
「……あら」
好子の表情から、わずかに笑みが消えた。
「私が直々に許可を出したのよ? なぜ描かないの? 私の顔が、あなたのインスピレーションを刺激しないとでも言うつもり?」
「と、とんでもない!!」
テオは慌てて首を振った。
「あなた様は……僕が今まで見たどんな風景よりも、どんな芸術よりも美しい。まさに至高のミューズです」
テオは、自分の絵の具にまみれた手と、描きかけの未熟なキャンバスをギュッと握りしめた。
「だからこそ、今の僕には描けないんです」
テオは、真っ直ぐに好子を見上げた。
「僕の今の未熟な筆では、あなた様のその完璧な美しさ、その冷たくも誇り高いオーラの、百分の一すらキャンバスに写し取ることはできません」
「あなた様を描くには、僕の腕はあまりにも分不相応です。……あなたの美を、僕の妥協で汚すわけにはいきません」
その言葉には、一切の言い訳も、見栄もなかった。
ただ「至高の美に対する、芸術家としての純粋な敬意と敗北宣言」だった。
「…………」
好子は、テオの真剣な瞳をじっと見つめ返した。
(……なるほど。自分の現在地を正しく理解しているのね。自分の限界を知らない馬鹿な男たちよりは、よっぽど見込みがあるわ)
好子は、パチン、と扇子を閉じた。
そして、ふっと……氷が溶けるような、極上の微笑みを浮かべた。
「……そう。賢明な判断ね」
好子は、テオに背を向け、再び歩き出しながら肩越しに言った。
「なら、私の完璧な美しさを切り取れるだけの『筆(自信)』がついたら、私を訪ねてきなさい」
「えっ……」
「ただし。……それまで私が、この退屈な街にいてあげる保証はないけどね」
好子は、優雅に日傘を広げると、そのまま一度も振り返ることなく、光の中へと歩き去っていった。
「…………っ!!」
テオは、好子の遠ざかる背中を、魂を奪われたように見つめ続けていた。
彼の胸の奥で、今まで燻っていた「もっと上手くなりたい」という小さな火種が、一気に爆発的な炎となって燃え上がった。
(あの人に……あの人にふさわしい画家になる……!! 彼女がこの街を去る前に、必ず……!!)
テオは、落ちた筆を力強く握り直し、再びキャンバスへと向かった。
彼の描く絵は、今日を境に劇的な進化を遂げることになるだろう。
【場所:神界・ネフェルの部屋】
「…………アァァァァァァァァッ!!(最高音域)」
ネフェルは、モニターの前で特大のクッションに顔を埋め、ジタバタとのたうち回っていた。
「なによ今の!! なんなのよ今のォォォッ!!」
「『保証はないけどね』!!? 最高の飴と鞭じゃない!!」
ネフェルは、壁の「好子様語録」の束を抱きしめ、天を仰いだ。
「傲慢な自称天才は『劣化コピー』って踏み潰したのに、自分の限界を知ってる誠実な見習いには『高みで待っててあげる』なんて……!!」
「もう、ただの冷酷な女王様じゃない! 彼女は、他人の人生のモチベーションを爆上げする『真のミューズ(芸術の女神)』よ!!」
「私という女神がいながら、好子様の方がよっぽど女神ムーブしてるじゃないのォォッ!!(感涙)」
ネフェルは、もはや自分の存在意義すらも好子に明け渡し、ただひたすらに「推しの尊いエピソード」を摂取して生きるだけの幸せな生命体へと進化(退化?)していたのだった。
(第5弾・第17話・完)
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