第8話 小鳥
青い空に、色とりどりの小鳥たちが飛んでいる。
『メインとなる役割は、ブレイヴァーの支援。高い知能と発語能力をもつ彼らは、常にギルド2階にて情報交換を行っており──』
他の住居の4倍程の大きさをもつ木材と石でできた建物。その2階に多くある窓枠から小鳥はみな出入りしていた。下に目を向けると、1匹の小鳥とそれを囲む円の意匠が描かれたプレートが1階入り口の右上に掛かっている。
『万が一死亡してしまった場合ですが、腹部から押し出るように散乱します。2つ目の役割である、依頼委託と達成報告の円滑化において、報酬金額の授受は主にその収納を用い──』
その入り口から、肩に小鳥を乗せたリターンが出てきた。
嘴や眼の周辺は濃い焦げ茶色。その下部から腹部にかけて薄い黄色で、羽根と頭頂部は鮮やかな高彩度の黄色。腹部にはとてもモフモフとした体毛が生えている。
『逆にパルと行動していれば、ブレイヴァーの正当性を保つことができます。このため、依頼遂行時はパルとの行動が義務付けられていますので──』
その黄色い小鳥がまるで何かを話しているように、嘴をパクパクとさせていた。
──それに対してリターンも、小鳥に返事をするかのように口を開くのであった。
***
カルガラン歴5211年52日
城塞都市であるモドワズ、その街の周囲には高さ10m、幅2.5mを超える石造りの外壁が円状にそびえ立つ。
『自由依頼、制限依頼、指名依頼の3種類が存在します。自由依頼は白枠の蠟板、制限依頼は薄い赤枠の──』
ギルドはその外壁近くに存在し、4つある大通りのうちデューペライア城から見て右奥に伸びる、アルバ通りに面している。
『制限依頼を受けていただく際には、派遣パルにお伝えください。派遣パルが受付にいき、二重派遣の防止や適正確認、パーティーの仲介などを──』
そこからさらにアルバ通りを進むとあるのが横幅3m程の城門。門には兵士が配置されており、顔の前面を露出する鉄の兜と鎧を身につけた3人が警備や通行税の徴収を行っていた。城門をくぐって左側、ソーネ川が見える方向とは逆方向に、外壁に沿って少し進むと何やら小さな石の小屋が見えてくる。
『左側にあるほど危険度の高い依頼、上側にあるほど緊急度の高い依頼となっています。緊急度が高いほど貢献度が大きく──』
小屋はさらに大きな柵で囲まれており、その唯一の開口扉前。
──兎人の少女に、1人の若年兵士が何かを話していた。
***
「こちらのランク報酬は、報酬税の差し引き後に追加されるもので、報酬税が適用されません」
ギルドの受付に立つ青年が説明を続けている。彼の明るい茶色の瞳は穏やかにリターンを映し出す。受付員は長いカウンターに6人ほど並んでおり、それぞれカラフルな小鳥やヒトと話している。
「また、戦闘技術や採取技術などブレイヴァーとしての能力、そして依頼達成による貢献度などに応じて、ランクは変化します」
リターンの背後では先ほどいたヒトたちは既にいなくなり、しかしそれ以上に多くの数が掲示板の前や入り口の外にざわざわと集まり始めていた。
「ランクアップとそれによる報酬増加は自動的に行われますので、手続きは必要ございません。その際は派遣パルがお伝えいたします」
彼らの中には肩や掌に小鳥を乗せたものも多くいる。頭上ではちらほらと小鳥が飛び、それぞれ誰かを探して合流しようとしているようだ。
「──ご説明はこれで以上となりますが、何かご質問はございますか?」
ひと呼吸おいて受付員の青年がリターンに尋ねる。
「(分からないことはいくつかあったが……恐らくどれも常識的なものだろう、むやみには聞けない)」
少し目線を下げて考える。一度瞬きをして、すぐにまた青年の眼を見返した。
「いえ──」
ありません、リターンがそう答えようとしたその瞬間──
「おまたせ、ルー」
──彼の背後から、高く透き通った、それでいてとても柔らかい声がはっきりと聞こえてきた。
リターンは言葉を止めそのまま硬直する。
「(な……なん、だ……)」
「あ、ファイ!一番だよ!」
また別の、女の子のような声が届く。リターンは表情を硬直させながらゆっくりと後ろを振り返っていく。
「(なんだ……この、感情は……)」
──そこには4人の貧相な子供と、その中の女の子の掌に着地する、薄いピンク色の小鳥がいた。
「エーレはどうだった?」
小鳥が子供たちにそう尋ねる。先ほどの透き通った柔らかい声は、この小鳥から発されたようだ。
「麦スープ食べた!」
横から男の子が元気に答える。彼らは10歳前後のようでみな同じぐらいの背丈をしていた。
「おぉ!それは良かったね」
小鳥は嘴を動かし優しくそう言った。
「(あの小鳥の声に……どこか、大きな安心感と……これは………焦り?)」
リターンは小鳥が声の主であることを確認すると、半身で振り向いていた姿勢をゆっくりと正面に戻す。
「……すみません、質問はありません。ご丁寧にありがとうございました」
一瞬の間を置いた後、硬直していた表情を動かしペコリと頭を下げながら告げる。
「はい、お力になれて何よりです。それでは──」
受付員の凛々しい青年は、そんなリターンに対して微笑を浮かべながら言葉を続けた。
「──ブレイヴァーとして、ご登録なされますか?」
***
「あぁ、今日も元気にやってるよ」
閉ざされた柵扉の奥、石の小屋の中からドォンッ……ドォンッ……という重い衝撃音と、くぐもった唸り声のようなものが聞こえてくる。
幼い兎人の、灰色の長い耳にその音が響く。潤んだ赤い瞳に次々と広がる不安、心配、恐怖、後悔、焦燥、悲哀、絶望の色。
そんな様子を見た兵士は、どこか申し訳なさそうな表情を浮かべた。
「…嬢ちゃんには同情するが……これでも、ヒトを守るためなんだよ」
20代前半のように見える兵士は小さな兎人を見下ろし、頬をかきながらそう言う。
ハートは彼の言葉が聞こえているのかいないのか、小屋の方へと耳をピンッと立たせながら、涙で滲んだ視界を揺らし続ける。
「獣因症は、ヒトにうつっちまうんだ」
──ドォンッ……ドォンッ………ドォンッ……




