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<グークハール>
……くっくっくっ。ついに見つけたぞ、イレイラ・ヴィルムガルド!
兵士からの知らせを受けて、俺は嬉々として娼館を飛び出してきた。
決して、決して娼館が用意していた女の子のレベルが低かったからイレイラを優先したわけではない、という事は声を大にして伝えておきたい。
しかし何にせよ、俺はついに一度取り逃がしたイレイラの居場所を突き止めたのだ。
俺を案内する兵の後ろを歩きながら、ニヤケ笑いが止まらない。
……やはり、あの男を引き入れたのは正解だったな。
イレイラと行動をともにしていたこの男をこちら側に引き入れ、あの女の居場所を突き止めさせる。
死刑をちらつかせ、更に騎士団への復帰という餌までぶら下げた。
クラームを俺のてのひらで転がせるのは想定内だったが、こうも簡単に成果が出るのはいい意味で想定外だった。
だが、肝心の奴はイレイラの居場所に当たりをつけ、細かい調査方法を伝えた後、俺たちの前から姿を消していた。
それだけは、僅かに引っかかる。
……だが、それよりも今はイレイラだ。
今回クルーリア王国からトゥホイレス自由連合につれてきた兵士たちは、全てイレイラのいる店に招集をかけさせている。
俺がイレイラがいる店に到着すると、既にそこには兵士たちが店の周りを取り囲んでいた。
どれだけあの女が店の中の兵を倒したとしても、外には百名近くの兵士たちが集まっている。
この包囲網であれば、いかにあの女であっても抜け出すことは不可能だ。
今夜こそ、あの憎きイレイラを捕らえて見せる。
俺は近くにいた兵に問いかけた。
「今はどういった状況になっている? イレイラは?」
「ただいま、入れるだけの兵が店の中に突入しております」
「ほう、それで?」
「ですが、大音量な奇声が聞こえてきまして、兵士たちは苦戦しているようです」
「奇声? 何をわけのわからないことを言っているんだ?」
「そう言いますが、グークハール王子。実際に店の窓ガラスもそれで割れて」
……言ってることがさっぱりで、現場の様子が全くわからん。
しびれを切らした俺は、兵士たちを押しのけ始めた。
「もういい! どけ! 俺が直接現場に向かう」
「ですがグークハール王子」
「危険すぎます!」
「あの女はバケモノです!」
「常識が通じる相手ではありません!」
「ええ、うるさい! 離せ! そんな事はブレインバスターを二回も受けた俺自身が一番良く知っている!」
兵士たちをかき分けて、俺は店の裏口の方へと周っていく。
……さぁて、今晩は楽しめなかったこの無聊を、イレイラをどう苦しめて慰めてやろうか。
そう考えながら裏口に入ると、イレイラがブレインバスターを兵士たちにお見舞いしているところだった。
……くっ! 人が受けているのを見ても、まだあの時の痛みが。
ブレインバスターは、食らったものにしかその痛みはわからない。
……だが、兵たちの尊い犠牲は無駄にはしないぞ!
そう思う俺の視線の先には、イレイラへ信奉したような視線を向ける女の姿があった。
彼女はイレイラの一挙手一投足を決して見逃すまいと、瞳孔をガンガンに開いてあの女の動きに魅入っている。
……あれは確か、検問でイレイラといっしょにいた侍女だな。
イレイラが傍においているという事は、少なくとも彼女にとっては必要な存在ということに違いない。
……あの侍女、利用できるな。
後ろをついてきた兵士たちへ、顎でついてくるように伝えると、俺は気づかれないようにあの侍女の後ろに回り込む。
そして――
……今だ!
背後から一気に、羽交い締めにする。
女は悲鳴を上げて暴れるが、最初に口を押さえているので悲鳴はそこまで漏れることはない。
多少漏れても、ブレインバスターの騒音で掻き消える。
……よし、これで全ての舞台は整った!
内心の笑みを隠すことなく、俺は口を開く。
「そこまでだ、イレイラ・ヴィルムガルド!」
俺の言葉を聞き、ブレインバスターを終えた後、イレイラが不機嫌そうにこちらに振り向く。
そしてこちらの手の中にあいつの侍女がいるのを見て、イレイラは更に不機嫌そうに眉をひそめた。
その表情を見て、俺は更に口角を吊り上げる。
……ああ、いい、いいぞ、イレイラ。俺がお前から受けてきた屈辱の数々、それを全て精算させてもらう!
「さぁ、いかにお前であっても、この状況がどういう状況なのかは理解出来るだろう?」
「……そうですわね。ようやく発散出来たと思っていたストレスが、この一瞬で一気に限界値を突き抜けましたわ」
「ふははははっ! そうかそうか、それは災難だったな」
いつもなら問答無用でブレインバスターを放ってくるイレイラだが、今のところすぐにこちらに向かってくるということはないらしい。
……やはり俺の仮説通り、この侍女はイレイラにとっての泣き所らしいな。
ならば、この女が俺の手の中にある限り、イレイラは俺に手出しすることはない。
……ふっ、勝った。ついに勝ったぞ、俺は!
「状況が理解出来たのなら、もうわかっただろう? 大人しく降伏するんだな」
俺の言葉に、兵士たちがイレイラを取り囲む。
周りに倒れた兵士たちを運びつつ、別の兵たちが剣を構えてイレイラに迫っていく。
「そうだ。大人しくしていれば、この女にはこれ以上何もしないと誓おう。だが、もし一瞬でもおかしな動きをすれば――」
「いけません、イレイラ様! 私のことはお気になさらず、思う存分にお力を――」
「ええい、黙れ!」
強く締め上げると、侍女が甲高い悲鳴を上げる。
「貴様は俺の言うことを聞いていればいいのだ。余計なことは喋るな!」
「イレ――」
「黙れと言っている!」
そう言うが、俺はわざと侍女に抵抗出来るような隙を与えている。
そうすることでこの女は暴れ、俺が暴力を振るうという場面をイレイラへ見せつけることが出来るのだ。
……ほぅら、見るんだ、イレイラ。お前のせいで、お前の大切な存在が苦しんでいるぞ? さぁ、今まで俺にしてきた無礼な振る舞いを悔いて詫びろ、イレイラ・ヴィルムガルド!
そう考えながらイレイラの方へ振り返ると。
彼女を取り囲んでいた兵士たちが、全て床に転がされていた。




