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<破滅エンドを迎える事になった姑息な貴族の元坊っちゃん>
……ちょっとちょっとちょっとちょっとちょっとちょっとちょっとちょっとちょっとちょっとちょっとちょっとちょっと! どーなってるんだよ、本当にっ!
私、ズルコック・ギートは内心だけでなく表面的に見ても盛大に焦っていた。
何せかつて追い出したクラーム・オトゥレティムが、自分でも到達し得なかったクルーリア王国の騎士団、その部隊長になるかもしれないのだ。
……どうしてこうなったどうしてこうなったどうしてこうなったどうしてこうなったどうしてこうなったどうしてこうなったどうしてこうなった!
私は貴族の出だが、お世辞にも能力が高いというわけではない。
騎士団に入隊したものの実力は足らず、一市民のクラームの足元にも及ばなかった。
当時はただ、クラームが悪かった。平民のくせに貴族の自分よりも評価されているのが許せずに、あいつの全てをぶち壊しにしてやろうと、そう決めたのだ。
だからあいつの友達も買収し、やつに怪我を負わせて騎士団を追放することに成功した。
……それで全てが上手くいくって、そう思っていたのに!
だが先にも述べた通り、自分の能力は高くはない。
上の成績の人間を追い出した所で自分の能力が上がるわけがなく、結局私は騎士団で落ちこぼれとなっていた。
名誉職としての部隊長ですら、到底任せてもらえるような実力はない。
だからどうにか親のコネで別の部隊に移籍させてもらった。
しかし、元々駄目だった人間が別の所にいったとしても輝けるわけがない。
輝くための努力を自分は徹底的なまでに怠ってきた。
だから、ここが最後なのだ。
クルーリア王国のオキグリアン国王が溺愛している、グークハール王子の守兵。
一国の第一王子の守兵と言えば聞こえはいいが、実際はわがままなグークハール王子のおもり役だ。
実際、この職につきたいと思うやつらは非常に少ない。
やらされるのはクソみたいな雑用ばかりだし、グークハール王子の女好きに振り回されて不祥事を消して回るという、非常に不快さを感じるものだった。
……でも、私にはここ以外、居場所がないんだ。
親のコネも無限ではなく、ぐるぐると部隊を移動したが、結局私は全て途中で投げ出してきた。
だから、ここが最後なのだ。
ここを追い出されたら、実家からも勘当される。
そうなれば私は全ての後ろ盾を失い、路頭に迷うしかない。
だから今まで、私は必死にグークハール王子のご機嫌取りをし続けてきた。
クラームの話を王子にしたのも、そのためだ。
グークハール王子はイレイラ・ヴィルムガルドを捕まえるために、クラームから情報を得ようとしていたようだった。
だから私は王子にやつの情報を教えたのだ。
それなのに――
……クソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソ! どうしてあいつが、また騎士団に復帰するかもしれなんだよ!
しかも、自分のなれなかった部隊長になるという。
おかしい。あり得ない。許せないだろ、本当に。
しかし、グークハール王子の機嫌を損ねることだけはしてはならない。
何度も繰り返すが、ここ以外に私が今後行くべき場所は存在していない。
グークハール王子の意に反する発言や行動をして、ここをクビになるわけにはいかないのだ。
だが――
……だからってだからってだからってだからってだからってだからってだからってだからって! どーして私があいつの監視役なんだよっ!
そう思っている私の前で、クラームを縛る縄がほどかれた。
やつは大きく体を動かした後、こちらの方を睨んでくる。
「久しぶりだな、ズルコック」
その見るだけで人を射殺しそうな程の視線を受けて、私は震え上がる。
喉から出そうになる悲鳴を無理やり飲み込んで、私は口を開いた。
「よ、よう、クラーム。相変わらず元気そうじゃないか」
「おかげさまでな」
「し、心配してたんだぞ? 訓練中だったとはいえ、模擬戦で怪我をしたんだってな」
「……誰のせいで――」
「おっと、そこまでだ」
拳を振り上げようとしたクラームに対して、グークハール王子が割り込んでくる。
王子はクラームを一瞥して人差し指を立てた手を突き出した。
そして指を振りながら、口を開く。
「言っただろ? イレイラを捕まえるまで、私の兵に手を上げるのはやめてくれたまえ」
「悪いが、また後ろから撃たれるのはゴメンなんだ」
「ここは、俺の顔を立ってくれよ」
「生憎と、上等な立て方なんて知らなくってな」
「別に俺は難しいことは求めていないだろ? お前はイレイラの居場所にあたりをつけろ。それがあっていたらお前は無罪放免で、クルーリア王国の騎士団、その部隊長になれるんだ。後は俺の見ていない範囲であれば、自由にしていい。どうだ? 簡単だろう?」
「生憎、俺は貴族様とは違うんもんでね。我慢できないものを、我慢しない方がストレスだって減らしやすい」
その言葉を聞きながら、私は冷静さを取り戻していた。
……そうだ。クラームは今すぐにでも私を殴り飛ばしたほど憎んでいる。
しかし、先にもグークハール王子は先程こう言っていた。
……イレイラ・ヴィルムガルドを捕らえるまで、私に手出しするのをクラームに禁じている!
逆に言えば、それまでの時間は私の身の安全は保証されているということだ。
むしろ、その時間を使ってクラームがこちらに手出しできない状況を作れば、私が懸念しているようなことはなくなる。
……そうだ。クラームはまだ、騎士団の部隊長になったわけじゃない。まだ今なら、私の方がやつよりも立場は圧倒的に上だ!
だったら、私の今やることは、ただやつに怯えることではない。
考えるべきなのは、ただ一つだけだ。
どうやってクラームが、私に逆らえないようにするのか? ということ。
……何かないか? 何かないか? 何かないか? 何かないか? 何かないか? 何かないか? 何かないか? 何かないか? 何かないか? 何かないか? あいつが今後私に逆らえないようにするような、そんな秘策がどこかに転がってはいないか?
しかし、どれだけ頭を捻ったとしても、そんな妙案がすぐに沸いてくるわけもない。
そうこうしている内に、グークハール王子は部屋を出るために扉の方へと向かって歩き出した。
「では、クラームのことは任せたぞ。ズルコック」
「あ、ちょ、ちょっと待ってくださいよ、グークハール王子!」
「悪いが、この後面会の予定に会食の予定も詰まっていてな。瑣末事はお前に任せる」
……どうせいつもの女あさりだろうが!
誰もがグークハール王子の正しい予定をわかってはいたが、それをこの場で指摘するものはどこにもいなかった。
結局私は王子が部屋を出ていくのを、ただ黙って眺めることしか出来ない。
……クソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソ! どうして私ばかりがこんな目にあわなくてはならないんだ? 私が一体何をしたというのだ?
内心で罵詈雑言を吐き散らしていると、クラームがつまらなそうに鼻を鳴らした。
「何でもいいが、先に傷の手当をさせてもらえねぇか? 追おうにもこれじゃ満足に体が動かせねぇ」
そう言って右腕をさするクラームの姿を見て。
私は今後、やつが自分に逆らえなくなるとっておきの秘策を思いついたのだった。




