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煩悩の数だけループを繰り返したけど破滅エンド抜けれないから、キチゲ解放させます  作者: メグリくくる


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 <グークハール>

 

 目の前の無精髭の男、クラームが警戒するように俺を見上げてくる。

 こちらの意図を確かめようとしているような、それでいて死罪の恐怖に怯える瞳を見て、俺は内心相好を崩した。

 ……お前のような、圧倒的に立場が劣っている奴なんて、簡単に俺の掌で踊らせることが出来る。

 それこそ、女を口説くよりも簡単だ。

 そもそも普通の人間は、普段から自分が死ぬ可能性についてなんて考えて生活をしていない。

 それが突然殺されるかもしれない、という状況に放り込まれたら、正常な判断なんて出来るわけがなかった。

 ……今この男は、まさしくその状態になっているわけだな。

 それも、自分が信じ、ついていったイレイラのせいで、だ。

 理不尽な状況に追い込まれた時、人はかなりのストレスを感じる。

 そして、こう考えるのだ。

 どうして自分がこんな目に合わなくてはならないんだ?

 どうして自分だけがこんな状況に追い込まれなくてはならないんだ?

 どうして?

 どうして? と、自分の不遇について原因を探る。

 理由を見つけたがる。

 こんな状況になっているのは、自分のせいではない、と思い込みたくなる。

 そして、悪者を探そうとする。

 誰かのせいにしたがるのだ。

 だから俺はクラームへ、その『誰か』を教えてやることにする。

「もう一度言ってやろう。お前が仕えていたあの女は、イレイラ・ヴィルムガルドは重罪人だ」

 口を開きながら、俺はゆっくりと、ゆっくりと、クラームの周りを歩いていく。

「俺に手を上げたあの日から、イレイラはヘティオストレラ大陸で指名手配され、検問も用意された。ヘティオストレラ大陸とユーカックス大陸を行き来する人々の不便さはわかっていたが、クルーリア王国はそれを実行に移した。そのことから、いかにクルーリア王国がイレイラを捕まえることに本気になっているのか、わかってもらえるだろう?」

「……」

 クラームは何も言わずに、黙って俺の話を聞いている。

 沈黙は否定ではないと判断して、俺はなおも言葉を重ねていった。

「だが、どういうわけだかイレイラを見つけることは出来なかった。つい、この前までは、な」

 イレイラを見つけるという名目を掲げてヘティオストレラ大陸の女をあさりまくっていたのを脇に置き、俺はひょうひょうとした態度でクラームへ語りかける。

「イレイラが今の今までその痕跡すら辿らせなかったのは、あの女の近くに有能な人間がいたからだろう。たとえばそう、お前のような、な」

 俺の言葉に、クラームは顔を伏せる。

 やつも、もうわかっているのだろう。

 次に俺が、何を言うのかを。

「だが、そんな有能な従者を、こともあろうにあの女は信用していなかった。何故ならイレイラは、お前に自分の正体を明かしていなかったのだから、な」

「……それは、あの聡明なお方に深い深い事情があったからだ!」

「ほう? であれば、ぜひともその深い深い事情とやらを教えてもらいたいものだな」

「俺ごときが、あのお方のお考えにたどり着けるわけがない」

「ならばそれは、イレイラのことをお前は理解していなかった、ということだ」

「そんなことはない!」

 ……ほら、簡単に食いついてきた。

 思い通りの展開に、俺は内心ほくそ笑みながら、更に口を開く。

「で、あるならば、だ。それだけの忠誠をイレイラに誓っていたお前なら、あの女が次にどこに向かおうとするのか、おおよその想定ぐらいは出来るのではないか? 何せ、イレイラが乗っていた馬車を運転していたのだからな」

「……」

「目は口ほどに、そして目よりも態度の方が物を言うな。まるっきり見当がつかないわけではない、というのが丸わかりだぞ」

 クラームは舌打ちをするが、俺は逆に口角を吊り上げた。

 俺は今、わざとやつの反感を買うようなことを言い、こちらが欲しい情報を引き出したのだ。

 まずイレイラへの忠誠心を保つクラームに、お前はあの女に信用されていなかったのだ、と自尊心を傷つけた。

 するとやつは、自分はイレイラに信用されていた、信用するに足る人物だ、と証明したくなる。

 だからあの女の行き先に心当たりがないか確認すると、イレイラへの忠誠と信用されていることを証明したくなり、それが態度に出てしまったのだ。

 ……ほら? やっぱり女を口説き落とすよりも、落ち目の人間を操るのは容易い。

「俺たちはイレイラの足取りを掴むことが出来なかった。だが、あの女の行きそうな場所に見当がつくお前が協力してくれるのであれば、話は違ってくる」

「俺が、協力すると思っているのか?」

「もちろん、ただで、とは言わん。イレイラの捕縛に協力してくれるのであれば、あの女と同じ罪状となるお前に対して、俺が直々に父上に掛け合い、恩赦を与えると約束しよう」

「恩赦、だと?」

「端的に言えば、死刑は勘弁してやると、そう言っているのさ」

 その言葉に、明らかにクラームの感情が揺れたのが、やつの瞳から察することが出来た。

 ……もう一押しだな。

「お前がかつてクルーリア王国の騎士団にいたというのであれば、知っているだろう? 俺の父上、クルーリア王国のオキグリアン国王は俺に甘い。それにイレイラ捕縛の功績を添えれば減刑は容易だろう。ああ、お前が望むのであれば、騎士団への復帰についても俺から口添えしてやってもいい。しかもそれなりの待遇で、な。イレイラを長期間逃がしたのであれば、能力は高いのだろう? であれば、部隊長とかはどうだろうか?」

「ぐ、グークハール王子! そ、それはいくら何でも! 問題を起こして除隊した男をもう一度戻すなど――」

「黙れ、ズルコック。イレイラを捕まえることが今は最優先だ。それ以外の他のことなど、全て瑣末事よ」

 クラームを暗い策略で追い出したズルコックは冷や汗をかいているが、先程述べた通り、全てはイレイラを捕まえることが優先される。

 ……いろんな部署をたらい回しにされ、最終的に俺の所にたどり着いたズルコックが、かつて追い出したクラームに地位を追い抜かれるというのは、確かに焦るだろうな。

 一体どんな仕返しをされるのか、わかったものではない。

 クラームの方へ視線を向けると、やつはそこで初めてズルコックの存在に気づいたようだ。

 自らを追い詰め、そして過去の栄光を踏み潰した憎き相手を目にして、その瞳が憎悪で燃える。

 そんなクラームの肩を、俺は叩いた。

「どうだろう? その様に縛られたままでは、満足に話したい相手とも話せず、掴みたい相手すら掴めまい」

「お、王子!」

「黙れと言っているだろう? ズルコック。クラーム。今一度問おう。イレイラを捕まえるのに協力してはくれないか? さすればその縄は解き、ある程度の自由はくれてやろう。ただし、あの女を捕まえるまでに私の兵に手を上げるのはやめてもらえるかな? 身内で争ってイレイラを追う兵士の数が減るのは勘弁してもらいたいのでな」

「……その後なら、問題ない、と?」

「常識の範囲内で頼むよ。私闘や私刑を立場上俺も許すわけにはいかないからな」

 それから僅かな逡巡の末、クラームは頷いた。

「……わかった。俺は、俺の成すべきことを成そう」

「君なら、そう言ってくれると思っていたよ」

 全てが自分の思惑通りに運び、俺は満足げに頷く。

 一方ズルコックは顔を青くするが、それを横目に俺はただただ事実を告げるために口を開いた。

「聞いての通り、クラームは俺たちに協力してくれることとなった。とはいえ、現状はまだ死罪を問われている罪人だ。行動するには監視役としてズルコックを置く。これはクルーリア王国の第一王子であるこの俺、グークハール・バクミルグの決定だ。誰も文句は言わせない。いいな?」

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