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<グークハール>
改めて思い出しても、腹立たしい。
あの一件から僕は、クルーリア王国中の笑いものだ。
あのパーティーでは、無理やりイレイラと政略結婚をさせられそうになった僕が、フィレバとの愛ゆえにその障害に打ち勝ち、一方的にイレイラを断罪する場だったはずなのに。
……それが、どうして僕がこんな目にっ!
僕は馬車の中で、あれからもう何度目になるのかわからない歯ぎしりをする。
苛立ちすぎて、貧乏ゆすりが止まらない。
パーティーを開いたのがアーチデール城という事で、その時の醜聞が国外に漏れるのはなんとか防ぐことが出来た。
しかし、あの時イレイラにクルーリア王国の近衛兵が歯も立たなかった事実と、暴露された内容はあの場に居合わせた人々には知れ渡ることとなった。
……イレイラのせいで、僕がメバント・サヴァム公爵と娼婦に通っていることがバレてしまったではないか!
クルーリア王国の現統治者であるオキグリアン・バクミルグ国王たる父上にも、内緒にしていたのに。
結果として父上からはかなりの怒られ、更に娼婦に通っている資金の出処も追求された。
その出処が公費を使って通っていたというのもバレ、更に一層怒られる羽目になったのだ。
……どうして? あれは僕が本当の愛と恋に目覚めるために必要な費用だったのに。
娼館での経験がなければ、フィレバとの会話はもっとたどたどしいものとなっていたはずだし、夜の営みもあんなに楽しめなかったはずだ。
無駄なものなんて、何もない。
クルーリア王国の第一王子である僕の今後の人生を左右する大事な投資だったのだから、公費を使うのが適切なはずだ。
メバント公爵だって、そう言っていたのだから。
……しかも公費を調べられて、最近またメバント公爵と娼館に行っていた事実まで明るみに出てしまった。
その件に関しては、完全に僕は悪くない。
妊娠をしたフィレバの体の事を考えて、男としての幸せを外に求めにいっただけだ。
妊婦との行為は出来なくはないようだが、愛するフィレバと生まれてくる子供の事を思えば、早々軽率な行動をすることは出来ない。
何せ僕は、いずれクルーリア王国の国王となり、フィレバの夫となり、そして彼女との子供の父親になるのだ。
責任ある立場として、妻が妊娠中は娼館に向かうのが適切だろう。メバント公爵も、自分の子供が出来た時にはそうしていたと言っていた。
……それなのに、どうしてフィレバはわかってくれないんだ?
あのパーティーから、フィレバの態度がそっけない。
僕が彼女が妊娠してから娼館に通っていたのが気に入らないらしいが、それは先程述べた通り必要なことなのだ。
……メバント公爵の言う通りだったな。中々女性は男心を理解してくれないらしい。
僕に新しい世界を教えてくれたメバント公爵だが、最近は連絡が取れなくなっていた。
イレイラに全てをぶち壊された日に、彼も娼館に通っているのがフェナンヌ・サヴァム公爵夫人にバレてしまったからだ。
噂ではかなりキツイ折檻を受けているらしく、公の場ですら姿を見かけていない。
そうなると、困るのは僕の方だ。
今まで娼館に手引してくれていた人がいなくなり、今までのように公費が使えず、男の幸せを満たすことができなくなった。
ならば屋敷で働く使用人に手を出そうとも考えたのだが――
……父上とフィレバの手のものに、ずっと見張られている状況だからな。それも無理だ。
侍女を始め貴族の間でも、僕と関係を持ったら首どころか大罪人扱いされるという噂まで広がり、今では女性の方から僕により着くことすらなくなっていた。
僕は、本当に困り果てていた。こんなの、全く幸せなんかじゃない。僕が望んだ未来は、こんなものではなかったはずなのに。
……イレイラさえ、イレイラ・ヴィルムガルドさえいなければ、こんな事にはならなかったのに!
そう思うが、そこで僕は閃いた。
アーチデール城で色々とやらかしたイレイラは、ヘティオストレラ大陸から出られないよう検問を張られている。
僕にブレインバスターをぶちかました罪で指名手配になっているのなら、イレイラに傷つけられた僕が彼女を捕まえるために国を出て検問を改めるという行動は、何ら不自然に当たらない。
……つまり、公務でクルーリア王国を出られるという事だ!
それは同時に、父上とフィレバの監視の目から離れられる、という事も意味していた。
いや、それだけではない。
……公務で泊まれるという事は、公費が使えるということだ。
そして、国の外で僕がどこで誰と泊まるかまでは、父上もフィレバも把握できないだろう。
だから、他国でどれだけ女と泊まろうが、その国の娼館で泊まろうが、それらは全て公費が使える。
……これを思いついた時、僕は自分の事を天才だと思ったよ。
イレイラを捕らえるため、大陸間の境目であるスクイードル海洋領邦まで行く許可は、すんなり出た。
しかし、普通に向かってはすぐに目的地のスクイードル海洋領邦まで到着してしまう。
クルーリア王国は、ヘティオストレラ大陸の北側に位置している。
最短でスクイードル海洋領邦に向かうには、サグラール連邦国経由で東側から南下するように、時計回りに向かう必要があった。
……誰が、そんな経路を通るものか。
せっかく、誰の目も気にせずに羽を伸ばせるというのに、その期間を短くしたいと思うようなやつはいないだろう。
だから僕は今回の公務でスクイードル海洋領邦に向かう経路は、クルーリア王国から反時計回りの、西側から向かう経路を選んだのだ。
そのため、ゼルグガダール山岳国、リンカヴィチ公国、ブンベヴォダ伯国と、十二分にその国を堪能する事が出来た。
……フォーセイクンさんは情熱的だったし、オスレヴィちゃんは恥ずかしがり屋なところが可愛かったな。ドウィップは最初は愛想は悪かったが、それが崩れていくのがたまらなかった。
スクイードル海洋領邦にも検問の確認という名目で、しばらく逗留しようと思っている。この地で出会うまだ見ぬ女性に思いを馳せつつ、帰りは着た道を辿るように帰ろうと、心に決める。
そう思いながらも、僕は内心悪態を吐いていた。
……全く、どうしてクルーリア王国の第一王子の僕が、こんなヘティオストレラ大陸の果てに足を運ばなければならないんだ!
イレイラを捕らえるという名目で国を出てきている以上、検問の確認ぐらいはしなければならない。
本来であれば、移動時間の半分以上は女性と触れ合えていたはずなのに。
……本当に、度し難い女だな、イレイラ・ヴィルムガルド。僕をここまで煩わせるなんて!
馬車が検問に到着する。
いくつか検問を通る馬車の荷台を改めて、早く今日泊まる場所に目処をつけたい。
馬車を降りる俺に、騎兵隊の一人が近づいてきた。
「グークハール王子。どちらの馬車にいたしましょう?」
「そうだな」
そう言って僕は、ざっと辺りに視線を向ける。
すると、少し黄色味がかった防水布の馬車が目に入った。
僕はその馬車を指さしながら、兵に向かって口を開く。
「あの馬車にしよう。検問の係に話を通して、通行人の荷台を確認出来るようにしてくれ」




