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<どうあがいても破滅エンドを迎える予定の色ボケ王子>
「もうすぐユーカックス大陸へ抜ける検問に到着いたします、グークハール王子」
「そんなもの、見ればわかる!」
僕、グークハール・バクミルグは馬車の窓から、こちらに話しかけてきた騎兵隊に向かって、苛立たし気にそう返した。
……全く、どうしてクルーリア王国の第一王子の僕が、こんなヘティオストレラ大陸の果てに足を運ばなければならないんだ!
それもこれも、全てはイレイラ・ヴィルムガルドのせいだった。
イレイラとの婚約は所詮、僕の父上でありクルーリア王国の現王であるオキグリアン・バクミルグ国王のたっての頼みということで受け入れたものに過ぎない。
……父上が、今後のクルーリア王国のためにどうしてもというから、僕は我慢してやっていたっていうのに!
正直、イレイラは僕の好みの女性ではない。
僕の好みの女性は、もっとふくよかで女性らしい体つきをしており、そして少女の様なあどけなさを持っており、保護欲を誘うような人だ。
その点、イレイラは全て真逆だった。
体つきも貧相だし、目つきも鋭い。ヴィルムガルド家の令嬢だかなんだか知らないが、自信が溢れていて時に容赦をしないような冷たい雰囲気も放っている。
まるで、僕なんかがいなくても自由に生きていけると言わんばかりの態度だった。
当然、そんな相手に僕が心を許せるわけがない。
イレイラとの婚約が決まってからは、これから先彼女と上手くやっていけるのか、憂鬱な日々が続いていた。
……だから、メバント・サヴァム公爵が息抜きに誘ってくれた時は、本当に助かった。
僕が結婚について悩んでいると気づいたメバント公爵は、自分もマリッジブルーの経験があると、ある場所に誘ってくれたのだ。
そして今後の夫婦生活にも役立つからと連れて行かれたのが、娼館だった。
初めてあの綺羅びやかな空間に足を踏み入れた時の衝撃といったら、なかった。
古今東西様々な出身の女性たちに、年齢も様々。そういった彼女たちが着飾り、僕に笑いかけてくれる。
意味がわからなさすぎて、僕は娼婦たちの目をまともに見れない有様だった。
それだけでもう酔ってしまいそうだったのに、その後の体験は、もはや蕩けるようなもので、実際僕はそこで色んなものが溶けてしまったのかもしれない。
それからというもの、僕は自信を取り戻し、時々メバント公爵の誘いで娼館に向かうようになっていった。
その時にはもう、イレイラの事で僕が頭を悩ませることはほとんどなくなっていた。
目も合わせられなかった状態から、娼館にいる女性をすべからく細かく眺められるようになり、そして恥ずかしがることなくその晩の閨を共にする相手を選べるようになっていた。
イレイラとの結婚は事務的なものだと考え、メバント公爵が言う男性としての幸せは外で満たそうと考えていたその時、僕は運命的な出会いをする。
それは公務で、新たに『聖女候補』をクルーリア王国に迎える日の事だった。
『聖女』を国に多く抱えるということはそれだけで国力を高められるという事なので、その候補である『聖女候補』を迎えるのも大切な公務ではある。
イレイラと共にその公務に立ち会った僕は、しかし正直その『聖女候補』という存在に興味がなかった。
元々はウフラックス共和国の漁師の一人娘だと聞いており、垢抜けていないただの田舎娘なのだろう、と。
そもそもその『聖女候補』をクルーリア王国に迎えるのは、王国が『聖女候補』を欲しがり、彼女の両親からそれなりに少なくない額で身柄を引き取るように取り計らったからだ。
異国に売られた事には同情するが、だからといってそんな人間、珍しくはない。それこそ娼館には、山のようにそういった事情を抱えている女性たちがいる。
早く公務を終えて、その娼館に向かいたいと思っている中、その『聖女候補』が僕の前に姿を現した。
その、フィレバ・ロリルドルアの姿を見た瞬間、僕は生まれて初めて恋という存在を知ったのだ。
いや、もちろん恋や愛というものの存在は知っていた。
しかしそれを、自分自身の感情として知ったのは、生まれて初めてだったのだ。
一目惚れ、というものだろうか?
誰からも愛されるであろう愛らしい顔立ちに、そして何より豊満な体つきが素晴らしい。
今まで出会ってきた女性の中で、間違いなく彼女が一番の上物だ。
僕はイレイラが隣にいるのも忘れて、フィレバに必死になって話しかけた。
あれだけ娼館で女を抱いてきたはずなのに、その『聖女候補』を前にして言葉が上手く出てこない。
そんな僕を、しかしフィレバは優しく笑いながら受け入れてくれた。
そこからは、もう夢中だった。
メバント公爵の誘いを断り、僕は何かと理由をつけて足繁くフィレバの元に通うようになった。
もちろん婚約者がいる身の僕が、表立って彼女に会いに行くわけにはいかない。
そうなると必然的に公務扱いになり、それはつまりフィレバに会いに行くのにイレイラが同席するという事を意味していた。
しかし僕は、一向に気にしていなかった。
……所詮父上が決めた、政略結婚の相手だ。僕がそれほど気にしてやる必要はない。
もちろん、父上に請われての婚約だったので、ヴィルムガルド家の令嬢を立てるようにおべっかの一つや二つは言う。
しかし、それだけだ。
イレイラも、自分の立場はわかっているだろう。
所詮僕らの関係は、形式的なものでしかない。
……だったら、男としての幸せは別の所で満たしてもいいはずだ。
メバント公爵の言葉に背中を押されるように、僕はフィレバに声をかけ続けた。
そしてある時、彼女の表情が暗くなっていることに気づいたのだ。
きっと、彼女に恋していたが故に、僕だけがそのフィレバの表情の変化に気づけたのだろう。
その訳を問いただしたが、しかし中々彼女は僕に胸の内を打ち明けてくれなかった。
だが僕の熱意が通じたのか、フィレバは元気がなかった理由を教えてくれたのだ。
その内容に、僕は憤慨した。
……イレイラが、僕のフィレバに影で嫌がらせをしていたなんて!
思えば最近のイレイラは、僕とフィレバの関係にあれこれ口を出していたように思う。
当然そんなもの、僕は回りを飛び回る虫を追い払うように無視していたのだが――
……あの女が、まさか実力行使に出ていたとはっ!
僕は生まれてら一番の怒りと共に、彼女を抱きしめた。
そして、卑劣なあの悪しき成り上がり商人の悪役令嬢から君を守ると約束した。
そこからは、待ちに待った時間を彼女と過ごした。
初めてフィレバと結ばれた時の興奮と快楽は、未だに色あせていない。
身も心も彼女の虜になった頃には、彼女は僕の子を身ごもっていた。
これはもはや、天啓だとすら思えた。
自分の愛する女性との間に、子供が出来たのだ。
僕はすぐに、父上にイレイラとの婚約を破棄したい旨を伝えた。
父上は最初、猛反対した。なんでも、僕が死ぬまでクルーリア王国を安泰な状態にするには、成り上がりではあるが力のあるヴィルムガルド家との関係強化が必須だとかなんとか言っていたが、そんなものはもう知らない。
僕が幸せになるには、フィレバと一緒になるしかないのだ。
そして、彼女との間に子供が出来たと父上に伝えた。
父上は最初目を見張り、うつむいて懺悔をするような言葉を呟いたように見えた。
その理由は、今になってもわからない。
しかし結果として父上は僕とフィレバの結婚を承諾してくれて、そしてイレイラとの婚約破棄にも同意してくれた。
あの時はまさに、幸せの絶頂だった。
生まれてから、あれ程嬉しかったことは一度たりともない。
だから僕はあのパーティーで、イレイラとの婚約破棄とフィレバとの結婚を発表しようとしたのだ。
それなのに――
……あの女、僕に恥をかかせ(ブレインバスターをぶちかまし)やがってっ!




