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<イララ>
宿舎の部屋にイナを招き入れ、私は改めて周りを見渡した。
部屋の入口には、先程思いがけない再会を迎えたイナが佇み、その近くにはチュリックが私のいう事を聞かずに『変化』していない状態で、イナに私たちの紹介をしている。
……見てなさいよ、チュリック。絶対にこの後『変化』させてまた肉球ぷにぷにして差し上げますから!
「い、今、今絶対、変な事考えてましたよね! イララさんっ!」
「変? いいえ? チュリック。私が思考を巡らせている時は、常にこの世で一番検討すべき課題ですのよ」
「流石でございます、イララ様。所で、気になっていたのですが」
そう言って、イナは部屋の奥、窓の外で不審な動きをしている人物がいないか見張っているクラームへ、視線を向ける。
「そちらの方は、イララ様と、一体どういったお関係なのでしょう?」
「や、やっぱり! やっぱり、イララさんの方ばかり見て、イナさん、き、聞いてなかった! そ、それ、ぼ、ボクが今説明したよね? イララさんの従者のクラームさんだよ、イナさんっ!」
……従者? はて、そうでしたかしら?
チュリックの言葉に、私は内心首を傾げる。
元々チュリックたちに襲われる前に、クラームとは別れようと考えていた。
しかしどういう因果か、今ではゲルトドゥール州の人間と魔物の関係という、今後のベディヴィア大陸の行く末にすら影響しそうな選挙に私は首を突っ込む羽目になっている。
……私はチュリックがもっふもふだから致し方ありませんでしたけど、クラームは別に抜けようと思えばいつでも抜けていい立場でしたわよね?
チュリックをはじめ、魔物やジョウムたちにクラームの事を説明するのが面倒だったので今まで適当に流してきたのだけれど、今にして思えば、クラームの立場を私は理解していなかった。
……そうですの。クラーム、あなた、私の従者だったのですわね。
「そうよ、イナ。クラームは、私の従者らしいのです」
「そ、その発言が、その関係性でいいのか、かなり怪しいのですが、イララ様っ!」
「疑われてるんだったら、俺とイララ様の出会いから教えてやってもいいぜ? お嬢ちゃん」
「ぶ、ブレインバスター」
チュリックがそう言うと、一瞬でクラームは黙った。話が長くなるのを警戒したのだろう。流石私の従者ですのね。学習能力が高くて、何よりですの。
クラームは気を取り直した様に咳ばらいをすると、今度は彼の方からイナに対して問いかけた。
「そ、それでお嬢ちゃんは、イララ様とは知り合いなのかい?」
「……久々に見たかったのに。生ブレインバスター」
「こ、この反応! し、知り合い、みたいだ、よ、クラームさんっ!」
「……チュリック。お前、どうやったらこんな濃いメンツと連続して知り合えるんだ? 俺が言うのもなんだが、その、ヤバいな」
「ぼ、ボクの人生の中で、い、今が打率、バクってるだけ、だよ! クラームさん!」
「あら? 果たして本当にそうですかしらね?」
そう言うと、チュリックが絶望的な表情でこちらを見上げてくる。顔芸が出来るようになったという事は、少しは散歩して気分転換になったのだろう。
イナとのやり取りから察するに、チュリックは何か掴んだのかもしれない。
……私たち以外の人間で、初めて彼が打ち解けた感じで話せる人間ですものね。
罵詈雑言だけでなく、酷い時には石まで投げられていたのだ。投げた奴には速攻ブレインバスターかましに行ったわけですが、それで受けた傷は、特に心の傷は癒えにくい。
それはきっと、あの領主も同じなのだろうけれど。
「それで? チュリック。イナには、私たちが魔物排斥を止める選挙へ協力している事を共有いたしましたけれど、イナは何のためにこちらに連れていらっしゃったのかしら? まさか、ナンパじゃありませんわよね?」
「ち、違うよ、イララさん! イナさんにも、せ、選挙を、て、手伝ってもらおうと、そう思ったん、だよ!」
イナの方を一瞥すると、彼女は小さく首肯した。
「微力ではありますが、チュリックさんのお手伝いになれば、と思いまして。私もかつてイララ様に変わるきっかけを頂いたように、誰かの力に私もなれたら、嬉しいな、っと。さ、流石にイララ様みたいに、ハチャメチャは無理だと思いますけど……」
「……イララ様は、こんな腐っていた俺にも、もう一度輝けるきっかけを与えてくださった素晴らしいお方だ。お嬢ちゃんの言う通り、この方はやる事はハチャメチャだが、常に困っている方を見過ごせない美しい心の持ち主でもある。だからこそ、この方の力になりたいと、強くそう思えるのさ」
「その通りです、クラームさん! なるほど。イララ様の美貌に釣られてやって来ただけの、ただの有象無象とは違うみたいですね」
……え、何で今の会話で、イナとクラームは互いに分かり合ってる感出してますの?
私はストレスと貯めないよう、キチゲ解放してこのルートを生きていくことにしただけだ。
なんだか崇高な目的のために、みたいに言われても、私としてはそんなもの、微塵も興味がない。
……ですが、なんだかいい感じに話がまとまってますし、ここは訳知り顔で笑っておくのが正解ですわね!
「い、イララさんが、ま、全く伝わってない、って感じの、わ、笑いしてる、よっ!」
うるさいですわよ、チュリック。あまり茶々入れるのでしたら、強制『変化』でクンカクンカの刑に処しますわ。
「でもチュリックは、お嬢ちゃんに何を頼もうっていうんだ? 確かに、この村出身で、かつ若年層の協力が取り付けられたっていうのは良かったと思うぜ。だけどな? ゲルトドゥール州の主要市町村は、もう現領主のジョウムへの支持が濃厚。選挙までの時間も二週間を切っていて、今日を入れて十日しかない。選挙に協力してもらうにしても、何か妙案はあるのかい?」
クラームがいい感じに話を戻してくれたので、私も大きく頷いておく。
……そうですわ。何か手を打たないと、私がアーチデール城でキチゲ解放したからチュリックたちが排斥される事になってしまってるんですもの! マッチポンプでもなんでもいいですから、何か打開策を考えないといけませんわっ!
クラームの質問を受けて、チュリックも悩まし気な表情を浮かべる。
「ご、ごめん、なさい。じ、実は、そ、そこまで、深く考えて、なかったんです。さ、さっきクラームさんが言ってくれた理由の他に、お、お金も、持ってるって話、だったんで。それで……」
「大丈夫ですよ、皆さん。私に、いい考えがありますから」
そう言ってイナは、自信満々に辺りを見渡した後、私の目をまっすぐ見つめて、こう言った。
「イララ様に掛けて頂いた御恩、今回の件で、少しは返させていただきますね!」




