8 魔獣を診てみる
あれから、自分のペットも診て欲しいという人が宿屋にチラホラ現れ、エマがティーリャを紹介した。
その度に責任はとれないと念を押して、無償で動物を治療した。
「動物を診るのは人間より難しいな……」
ティーリャはぼんやり呟いた。
「そうなの?いつもパッて治しちゃうから、人間より小さい分楽かと思った」
ティーリャの部屋によく居るようになったエマが言った。
彼女は頻繁に来るラウル目当てだ。彼はティーリャにあれこれ貢ごうとするが、アレティリヤはすべて断っている。
職も紹介してくるのだが、いきなり彼女にはハードな仕事ばかり持ってくる。彼曰く、まずは挑戦する事が大事だと。意外とスパルタである。
「施療院の奴らが動物診ないのも何となくわかるな……」
ミリーの犬を治療した後、この街のクラルス教神殿施療院では治療して貰えないのかと聞くと、門前払いだとエマは言った。
それを聞いたティーリャは神殿はここでも腐ってるのかと不機嫌になったが、今では理由が分かった。
動物は人間より小さい分、過回復を気を付けなければいけない、光魔法での検診も、かなり集中しなければ異常を見逃す事がある。
つまりは、人間より手間のかかる動物を診る余裕が無いのだろう。
患畜を連れてきた人に聞くと、やはり他の街の施療院も基本は動物を診てくれないと教えてくれた。
「そうだ、ティーリャさん。職見付かった?」
「う゛っ」
考えたくない事を聞かれ呻いた。
何度か職業斡旋所に行ったが良い職はみつからない。そろそろ別の街に行くか本格的に考えるべきだった。
その様子を見てエマは可哀想なものを見る目になった。
「お母さんが宿代払うの厳しくなったら、ツケで良いって」
「うーん……」
ツケは流石に気が引ける。
「そういえば、キャラバン隊が街に来てるよ。広場で色々売ってるって、一緒に行こ。気分転換になるよ」
「いや、いい。友達と行ってこい」
エマはそっかと言い、部屋を出た。
ティーリャはベッドに寝転がり、枕に顔を埋めた。
そのまま不貞寝した。
ドアをノックする音で目を覚ました。エマの母親の声がする。
「ティーリャさん。お客さんだよ」
ティーリャはのそりと起きる。またペットを診て欲しい人だろうか。
寝ぼけ眼でドアを開けると、女将と見知らぬ褐色の肌の男が立っていた。
女将はティーリャが出てきたので立ち去った。
「お前が獣医か」
「違う」
「動物を診ているのだろう」
「治癒魔法が使えるから無責任を条件に無償で診てるだけだ。専門じゃない」
「そうか、まあそれでもいい。ついて来てくれ」
男の有無を言わせぬ態度に不機嫌になるティーリャ。
男はそんな様子など気にせず彼女の腕を掴み、歩こうとする。
「おい、誰もついてくなんて言ってないぞ」
「診て欲しい魔獣がいる。施療院に頼んだが、無理だと言われ、お前を紹介された」
動物を診ている事をクラルス教神殿カムプス支部の者に知られていたのかと、さらに不機嫌になる。
「報酬は払う。頼む」
そう言われティーリャは報酬は要らないと言い、しぶしぶついていく事にした。




