6 犬を診てみる
アレティリヤは何かもう面倒くさくなって経緯を全てラウルに話した。
それを聞いた彼は成程とだけ言い、そして尋ねた。
「アレティリヤさんはこれからどうしたいのですか」
「なるべく遠くに行く。その為に金を稼ぐ」
具体的にはと聞かれ、職業斡旋所での事を話す。
ラウルは、それであんなに暗い顔をしていたのかと納得し、昨日のアレティリヤは自殺でもしそうな雰囲気だったと語る。彼女はそこまで陰鬱な面だったのかと少し恥ずかしくなった。
彼女が自殺する気は無いと言うと彼はとても安心した様だった。
そして、やはり相談員と同じく彼も冒険者登録はした方が良いと勧めてきた。
「むぅ……」
アレティリヤは押し黙った。
「何故そこまで嫌なのですか?」
「……感覚的に嫌としか言いようが無い」
理由は昨日冒険者ギルド前で何となく思った事だけではない。
アレティリヤは人間不信だ。人間が多く集まる冒険者ギルドには世間知らずの自分を騙す様な輩が大量に居るのではと思い込んでいる。
「一度だけでも冒険者ギルドに行ってみませんか。私が付き添いますよ」
「変人、いや、変態に介護されるみたいなのは情けなくなるからいい」
ラウルは苦笑した。
「私は落ちぶれた女性が好きではあるのですが、罵倒されることに悦びを感じる訳では無いので、その呼び方は止めて欲しいですね……」
どの口が言ってるんだとアレティリヤは半目で彼を見詰めた。
今日中に達成しなければいけない依頼を受けているからとラウルは冒険者ギルドへ行った。こまめに会いに来ると言い残して。アレティリヤはゲンナリした。何だか疲れたので宿屋に戻る事にする。
宿屋の前まで来ると宿屋の娘が勢いよく飛び出してきた。
「お客さん、さっきの顔の良い人誰?……ですかっ」
敬語を忘れてしまう程に気になるらしい。
「顔の良い変態だよ」
「へ、変態……なの……?あんなに格好良いのに……」
あんな男に惚れて、今後落ちぶれるように導かれでもしたら可哀想だと思い、そう言った。
宿屋の娘はそれでもラウルについて知りたい様で、自分はエマと自己紹介し、アレティリヤとお話したいと言った。
「わたしにあいつの事聞かれてもよく知らないぞ……あ、そうだ、お前この街でクラルス教神殿以外の施療院とか知ってるか?」
知らないと言い張って逃げるという事はイケメンを他の女に取られたくないからだ、と思われるのも嫌なので一旦話を変えてみる。
「んー薬屋さんはあるけど、施療院も治療院も無いです」
「そうか、ありがとな……あ、敬語使わなくていいぞ」
「ん、うん」
施療院があれば働かせて貰えないか直談判しようと思ったが、近場には無い様だ。ここから離れて、別の施療院のある街へ移動した方がいいかもしれないなと考える。
もう用は無いと階段を上がり泊っている部屋に行こうとしたら、エマに呼び止められた。
「あ、お客さん、動物に治癒魔法使った事ある?」
「無いけど」
「あのね、私の友達の飼ってるワンちゃんが元気が無くて……お礼はするので診てもらえませんか」
アレティリヤは少し考える。
そういえば、神殿で人間不信の極み状態だった頃は人間より動物の命の方が尊いかな、などと思った事がある。
「いいぞ。礼はいらん」
「ありがとう……!お姉さん!」




