25 離婚
休日の朝、といってもほぼ昼に近い時間帯。寝起きのティーリャはソファーに身を沈めながら新聞を広げた。
「これってわたしのせいになるのか……?」
クラルスでいよいよ内戦勃発か、という記事を読んで彼女は不安な顔をする。
「貴方は追放された被害者ですよ。気に病むことはありません」
ラウルの言う通りなのだが、ティーリャはあの奇妙な夢に現れたのは女神かもしれないと感じている。あの夢で女神に逆らった結果がこれである。
中央神殿の者は憎いが、地方神殿で共に暮らした者やクラルス国民に悪感情は抱いていない。不幸になってほしいと思わない。
「内戦にはならないでしょう。アクィラが仲裁するはずです」
ティーリャの表情が晴れないので、そう付け加える。
実際、アクィラが魔物の侵攻防ぐ為に派遣した騎士団はクラルスの治安維持まで手伝ってくれているという。そうやって、じわじわと事実上の属国にするつもりだろう。今回の騒動の元凶である神殿や争ってばかりの政府機関より、アクィラを頼りにするクラルス国民も増えている。
「……そうか」
何とか自分の中で感情を整理したティーリャは新聞を畳み、ラウルへ向き直る。
「どうしました」
「お前に話がある」
「はい」
「離婚してくれ」
「はい?」
アシオーに滞在申請をする際、ラウルが勝手に夫婦だと偽った。春までの滞在のつもりだったので諦めていたが、アシオーに住む事になってしまった。
このまま夫婦にされたくないティーリャは商人ギルド長兼都市参事会員にこっそり相談した。
彼女が今回アクィラ国民になったのは特別措置で、滞在申請の虚偽については別問題なのでどうしようもないとの返答だった。
素直に申告して罰を受けるか、夫婦と認めた上でアシオーの役所で離婚手続きをするかしかない、この話は聞かなかった事にするので、どちらか選ぶと良いとギルド長は言った。
当然、虚偽であったと申告しようとしたが、想定していたよりも罰則が重いので悩んだ。罰を受けるのは主に虚偽申請したラウルだ。それを知りながら訂正しなかったティーリャにも責任はあるので無罪放免ではないが、彼の罰のほうがかなり厳しい。彼はこの家を買い取った事で貯金はほぼ無いと言っていたので、罰金でなく懲役となるだろう。
ティーリャはラウルの事があまり好きでは無い。だが、本当に世話になった。そんな彼を刑務所にぶち込むのは罪悪感がある。
悩んだ末、ティーリャはラウルと夫婦であると認め、離婚する事にした。
「なるほど、そういう事ですか」
話を聞いたラウルは何度か頷いた。
ティーリャは自分の部屋に行き、大きな袋を持って戻って来た。
「わたしはこの家をお前から買い取る。お前は出てけ。これ、代金と、今まで世話になった礼だ」
ティーリャはこの家から引っ越すために不動産屋に通っていたが、良い物件は見つからなかった。だから、この家を買い取り、ラウルを追い出す事にした。
大きな袋の中身は全て金貨だ。ラウルから聞いた家の購入金額に謝礼を上乗せしている。
これがあればラウルは罰金刑で済むが、その場合彼の老後貯金は失われたままになる。ティーリャは今後、この男と関わらないようにするために金銭については禍根を残さないでおきたいので、やはり彼と離婚するという選択をとる。
この家は夫婦共同名義になっているので、名義をティーリャにする。そしてこれを機に離婚する。何度も役所に行くより、一度に手続したほうが楽だ。
「これだけの金貨、どうやって用意したのですか」
商人ギルド所属になったとはいえ、短期間で貯めれる額ではない。
「給料前借、ちょっとずつ返す」
「という事は他国へは行かず、本格的にアシオーに永住するおつもりで」
「ん」
クラルスから遠く離れたかったが、離れたい原因の神殿が現在滅茶苦茶な状態なので、もうどうでもよくなった。アシオーに住む事に決めた。
「そうですか、もう2人旅は出来ないのですね……」
心底残念そうにラウルは肩を落とす。キトと猫もいるから2人旅じゃないという突っ込みは飲み込んだ。
「で、離婚してくれるのか」
「良いですよ」
「む?」
すんなりと受け入れてくれるとは思っていなかったティーリャは驚く。離婚してくれるのは嬉しいのだが、表情に不審が浮かぶ。
それを目にしたラウルは説明する。
「貴方が夫婦と認めてくれた事が何よりも嬉しいのです、それに……」
「に?」
「バツイチティーリャさん!何と素敵な響き!齢17にして離婚歴があるティーリャさん!興奮します!」
「……」
ティーリャは呆れて言葉がでない。
「そして私は貴方の元夫という称号を手に入れる!貴方と夫婦であったという証拠!これからは元夫として貴方の人生を支え、傍に寄り添います!」
「離婚するんだから、もうわたしに近づくな」
「私達は最早他人では無いのですよ?元夫婦なのです!かつての伴侶の幸せを願い、助力するのは当然の事」
「いや、元嫁に付き纏うのは問題だろ」
「家庭内暴力や喧嘩が理由で別れるのでないなら問題ではありません」
「……」
何を言っても無駄なので、もうこの会話は打ち切る。
「じゃあ、昼飯食ったら役所行くぞ」
「ええ」
「後、お前、次の家見つけて早くこの家から出てけよ」
「この家に近い物件を探しますね、貴方の傍に居るために」
「……」
本当に何を言っても無駄なので、返事はしなかった。
手続きを終えて役所から出る。受付の女性役人の「え、離婚?このイケメンと?ちょっとまってこの2人結婚してたって事?ありえん、このイケメン何でこんな女と結婚してたの」という視線から解放されたティーリャは伸びをする。
そして、手にしている書類の控えなどが入った封筒を見詰める。
「…………これでわたしはバツイチ……」
「おめでとうございます、バツイチティーリャさん!」
拍手して祝うラウルを睨むティーリャは今更ふつふつと怒りが沸いてきた。
「何で結婚もしてないのにバツイチにならなきゃいけないんだ……!」
「それは罰せられないように配慮して下さったからでしょう。私の為に……嬉しいですね」
そうなのだが、何とも釈然としない。
「さて、無事に貴方に離婚歴を与えられたので、早速ですが再婚しましょう」
「あ゛?」
「結婚してく」
「無理」
ラウルの発言を遮ってティーリャは断る。
「私はこんなに顔が良いのに、何故ティーリャさんは靡かないのか……」
「変態だし性格が無理」
「つまり顔はそれなりに良いと認めていると」
「……認めてない」
「今、間がありませんでしたか」
「無い」
「つまり私の顔は好きなのですね、嬉しいです。邪魔な犬も居ない事ですし、これから2人で連れ込み宿に行」
「死ね」
そんないつもの会話をしながら2人は帰路についた。
端折ったし、色々ぶん投げましたが、一番書きたかった「結婚してもないのにバツイチになる主人公」が書けたので、これで一旦完結です。
ここまでお読みくださった方に感謝します。拙い小説ですが、少しでも良いと感じていただけましたら、評価ブクマしてくださると喜びます。感想も嬉しいです。
気が向いたら続きを書くかもしれませんが、自分でも「文章ヒッデェなオイ…」と思うので、いつかリメイクする可能性の方が高いかもしれません。




