3 職を探そう
クラルスを出て、数日後。アレティリヤは隣国カムプスのとある都市に到着した。
馬車を動かしてくれた御者と護衛してくれた神殿騎士に礼を言って別れ、まずは宿を探した。安い宿屋がすぐに見つかり、そこでしばらく宿泊する事にする。
宿屋の部屋で一息ついて、これからどうするかと考える。
やりたいことは決まっている、なるべく遠くへ行く事だ。遠くへ行ってどうするかは、まだ決めていない。
それはさておき、遠くへ行くのには金が必要だ。
所持金はそれほど多くない。神殿で働けば平民よりは良い暮らしが出来る分、聖女と神官が個人で自由に使える金は少ない。金貨20枚はいざという時の為に、国外でも出金できる銀行に預けてきた。
今ある金で行ける所まで行くというのは、流石に無計画すぎてやっていける自信がない。この国である程度稼いでから旅に出ようと考えた。
手っ取り早く稼ぐのは、冒険者となる事だろう。
聖魔法もとい光魔法の使い手ならば、どこかのパーティに入れてもらえるかもしれない。
しかし、アレティリヤは神殿での暮らしで人間に嫌気が差していた。パーティに入ると人付き合いと無縁ではいられないので躊躇ってしまう。
第一、命がけで働きたくは無い。
とりあえず、無難に職業斡旋所に行く事にした。
街の中央通りにある職業斡旋所の大きな建物に入る。アレティリヤはてっきり職を求める人々でギュウギュウだろうと思っていたが、そうでもなかった。失業者が少ないのなら、この国はそれなりに平和なのだろう。
受付にて番号札を渡され、順番までお待ちくださいと言われたので、大人しく広間に置かれているソファの隅にちょこんと座る。
待っている内に不安になってきた。
ずっと神殿暮らしである意味箱入りの世間知らずな自分に職などあるのだろうか。
接客業は愛想がないと無理だし、力仕事できる体力も無い、清掃業なら何とか可能かもしれないが。あらためて考えると自分には光魔法以外の取り柄が驚く程無い。その魔法も魔力が平均より少ないという有様だ。
順番が来る頃には、いつもに増してアレティリヤはどんより暗くなっていた。
「あのー……わたし光魔法を少し使える程度のしょぼい奴なんすけど……何か職ありますか……」
その発言を聞いて相談員は驚いた。
「光魔法を使えるのでしたら、ここではなく冒険者ギルドへ行かれた方がよろしいですよ。四元魔法の使い手より光魔法の使い手は少ないですから、少ししか魔法を使えなくとも重宝されるはずです」
四元魔法と言うのは、この世界を創造したという神が数千年前に人族へと与えた水、火、風、地の魔法の事だ。光魔法は、200年前に異次元から闇の魔法を扱う者が出現した時、女神クラルスから与えられた比較的最近の魔法である。
「いえ、冒険者になるのはちょっと……命がけは嫌なので」
相談員はそうですかと言い、手元の資料を見た。アレティリヤが受付で書いた経歴書だ。クラルスの元聖女ではなく、この国の田舎の施療院で働いていたが、院長が死んで施療院が無くなったので、この街にやってきたと書いておいた。
「施療院に勤めていたのでしたら、治癒魔法が使えるのですね。そうだ、ちょうど治癒魔法の使い手を募集していた所がありましたね。冒険者ギルドとこちらと両方に募集を掛けているようなので、もう締め切っている可能性もありますが……」
渡りに船であった。
「どこですか?」
「クラルス教神殿のカムプス支部です」
「あ、やめときます」
即答であった。
あの後、他の職を紹介して貰ったが、殆どが接客業でアレティリヤには難しかった。何とか出来そうと思った清掃業の募集も無かった。
結局、相談員にもう一度冒険者ギルドへ行く事を勧められた。命がけでない仕事もあるからと。
「あー……どうしよ……」
アレティリヤは俯いてとぼとぼ歩く。宿屋に帰るのだ。その途中、冒険者ギルドがあったので足を止め、眺める。
冒険者ギルドにいる人々は皆、活力が溢れている様にみえ、羨ましく思うと同時に、自分とは違う人種だ、自分に冒険者は無理だと何となく思った。
その時、冒険者ギルドから出てきた人物と目が合った。他の冒険者と違い、如何にも貴族の子息というような上品な顔つきだったので依頼に来た者かと思ったが、その身なりは冒険者そのものだった。という事は、親に反発でもして飛び出し、冒険者として暮らしているのかもしれない。そんな奴でも、生きていけるのに自分ときたらと、鬱屈した気分になった。
さっさと宿屋で寝て気分を変えようと、踵を返す。
目が合った先ほどの冒険者がアレティリヤの後ろ姿を見て、考え込む。
「あれは……まさか……いや、でも……」
「おい、どうした。置いていくぞ」
連れに話しかけられ、我に返り、少し間を置き、用があるからとその場を去った。




