18 発覚
ティーリャはキトに乗り、紐を繋いだ猫を抱っこして診療所へと出勤していた。
犬と猫を診療所に連れてきても良いかネレイに聞くと「奥の部屋から出さないのであれば」と快く許可をくれた。
そして連れてきたキトを見てネレイは「犬じゃなくて魔獣じゃん!」と叫んでひっくり返ったが、キトが大人しく主人のいう事を聞く魔獣と分かってからは積極的にモフっている。彼も動物が好きらしい。
「ティーリャ、おはよー」
診療所に着くと、只でさえ眠そうな顔をもっと眠たげにしたネレイが出迎えてくれた。
「おはよう、さっそくだがこれ」
鞄から箱を取り出して渡す。
ネレイが受け取り、箱を開くとポーションが沢山入っていた。
「何これ、大量のポーション?」
「作った」
ティーリャはここ最近、仕事が終わると家でせっせっとポーションを作って貯めていた。
「これで職場で更にだらだらできる」
「あー、そういうこと」
診療所では基本的好きに過ごしていいとの約束だ。勿論、だらだら怠惰に過ごした。しかし、治癒魔法が必要な患者が来る度、だらけるのを中断しなければいけなかった。
ならば、ポーションを予め作っておいて患者に使用すれば良い。
「ポーションだけでは治らない傷病もあるから、そういう患者さんが来たら、ちゃんと治癒魔法使ってね」
「ん、わかってる。その時は呼べ」
そう言って、さっさとキトと猫を連れて診療所の奥の部屋に引っ込んだ。
「ん?ん?んんん~!?どういう事!?」
ネレイの声が診療所に響き、キトにもたれてうたた寝していたティーリャは目を覚ました。
声が聞こえた部屋へ向かう。
「どうした」
「このポーション……全部特級なんだけど……」
「は?ありえないだろ」
ネレイはティーリャから受け取ったポーションを鑑定の魔導機械を使ってランク別に分けようとしていた。結果、全てが特級だったので、これはおかしいと診療所にあるランク分別済アイテムを鑑定すると正常な結果が出た。つまり魔導機械は故障していない。念のためもう一度鑑定したが、やはりティーリャが作ったポーションは全て特級という結果が出た。
「えぇ……」
これにはティーリャも絶句するしか無かった。
作ったポーションが全て特級とは、どういう事なのだろう。
「これなら少量で大抵の病気も怪我も治るね……」
「……」
家でポーションを作って商人ギルドにでも買い取ってもらえば働かなくて済むかもしれないという考えが浮かぶ。もっと遠くに安住の地を見つけてからそうやって生活するのも悪くない。
だが今はまだ元聖女とバレては困るし、あまり目立ちたくない。
「はっ、これを売れば借金が減る……!」
ネレイの顔から眠気が飛んだ。
「売るなら、ポーション返せ」
「えー!何で!ポーション売って稼ぐから、この診療所辞めるって事か!?」」
「違う、あんまり目立ちたくない。わたしが特級ポーション作れると言いふらさないなら辞めない」
「よくわからないけど、辞めないでくれるとありがたいから……言いふらさないよ。でも、このポーション、普通に診療所では使っていいよね?」
「ん」
「わー、まさかうちの診療所で特級を扱う事になるとは……!」
ネレイは特級ポーションを丁寧に箱に戻し、金庫にしまう。
「しかし本当に特級なのか……?」
「それは間違いないよ。魔導機械の鑑定結果が信じられないなら鑑定士に依頼しても良いけど……」
「あー、そうだな。2、3本鑑定士に依頼して欲しい」
そうすれば本当に特級か判明する。全て鑑定して貰って全てが特級の場合、特級を量産できる人物が居ると鑑定士の口から広まってしまう可能性があるので3本程鑑定してもらう。
ティーリャはふらふらと歩いて奥の部屋に戻った。まだ自分が作ったポーションが特級だとは信じれない、というか受け止められない。とにかく寝て、混乱した頭を落ち着ける事にした。
寝て起きても頭は混乱したままだった。夕方に鑑定士が来てポーションを鑑定した結果、3本全て特級だった。もう認めるしかない。
その後帰宅し、届いていたエマとミリーの手紙を読んで更に混乱した。手紙にはエマの近況やティムの事など書かれていて、そこまでは微笑ましく読んでいたが、最後に妙な事が書かれていたのだ。
『ミリーの家にティーリャさんの本名を知っている人達が来ました。その人達はミリーの家に勝手に入り、ティーリャさんがくれたポーションを見て「特級」「大神官様に報告」と言っていたそうです。ティーリャさんの行方も探しているようでした。ミリーは無事でしたが無理矢理、家に押し入るような人達だったので怖がっています。ティーリャさんも気を付けてください』
「は?何?大神官?」
今日は混乱しっぱなしだ。
玄関に突っ立ったまま、呆然としていると背後の扉が開いてラウルが帰って来た。
「おやティーリャさん、どうしました」
無言でエマの手紙を渡す。
「エマさんからですか、…………これは……」
読み進めて最後の辺りでラウルも驚く。
「実は今日、診療所にわたしが作ったポーション持って行って、鑑定したら全部特級だと判明した」
「……はい?」
「どうやら、わたしは特級ポーションを量産できるらしい」
「ちょっと待ってください。ありえない……」
「……わたしもそう思う……」
2人は居間に移動し、向かい合って座る。
「話を整理すると、神殿もティーリャさんが特級ポーションを生産する事が出来る人物だったと知り、探しているという事でしょうね」
「……だよなあ……」
机にはラウルが淹れてくれたお茶が湯気を立てている。体が冷え切っているので、温かいお茶はありがたいのだが、気分が落ち込んで飲める気がしないティーリャだった。
「わたし神殿に連れ戻されるのか……?」
彼女は魔力量が少ない為、1日に作れるポーションの数は多くない。だが、作ったその全てが特級なら、少量でも安定して特級を作れる人材という事になる。神殿が戻そうとするのもありえる。
「しかし、次の大聖女が決まれば、特級アイテムは量産できるはずです」
その通りだった。本来なら、ティーリャを連れ戻さなくとも良いはずだ。
「……特級作れる奴が神殿に多ければ多い程良いって事かな」
「神聖な存在なのに欲深い人物が結構居ますからね、神殿」
ポーションを商人ギルドに多めに回して、儲けようとしているのかもしれない。
「……神殿に戻りたくない……」
ティーリャは俯いて呟いた。
今まで散々、役立たずと罵られ、虐げてられてきた。特級ポーションが安定生産出来ると判明しても、大聖女には劣ると言って、また虐げるに違いないのだ。
「私も貴方が神殿に戻るのは困ります。神殿に戻され、更にやさぐれるティーリャさんを眺めるのも捨てがたいですが……やはり今は夫婦で共に日々を過ごすほうが良いですね」
「あ゛?」
人が悩んでいるというのに、こいつは……と顔を上げると、ラウルはティーリャを安心させるように微笑んだ。
「大丈夫、貴方は私が守ります。神殿の者が貴方を無理矢理に連れ戻そうとするなら排除しますから」
「多分、その場合神殿騎士が来る。元同僚だろ」
流石に元同僚と戦わせるのはどうかと思った。
「妻の為ならば、誰を殺しても、何人殺しても心は痛みません」
「賊でもない人間殺したら流石に捕まるぞ。追い払ってくれるだけでいい。あと妻じゃない」
「妻を連れ去ろうとする犯罪者を殺しても罪には問われないでしょう」
「そうれはそうかもしれんが。あと妻じゃないっつってんだろが、ハァー……」
もう訂正するのが面倒くさくなって溜息を吐く。
「しばらく冒険者稼業は休んで、ずっとティーリャさんの傍に居ますね」
「は?」
「いつ神殿の者が来るかはわからないのですから」
「いや、でも、生活費とキトの餌……」
「老後に備えての貯えがありますので、それを切り崩します。この冬だけでしたら犬の食費も余裕です」
この男、変態の癖に長生きするつもりがあるらしい。
「老後貯金まで使わせるのは気が引ける。神殿の奴らが来てもキトがいるから取敢えずは逃げれる。ずっとは居なくていい」
神殿の者が来たら警吏の詰所に一旦逃げ込んで、その後ラウルを呼べばいい。
「いえいえ、妻の安全が第一ですから」
「妻じゃない」
この後も話合ったが、ラウルは意外と頑固で傍に居ると言って聞かなかった。結局ティーリャが折れて、もう好きにしろと言った。
完結まで書けてますが、続きは後日投稿します。
誤字脱字の最終チェックが思ったより大変で…(急いで執筆したら誤字脱字率がすごい事に)




