その頃、神殿2
大神官は執務室で書類仕事をしていた。これが終われば、次は遠方にある結界の魔法陣を修復しに行かねばならない。大神官は多忙だ。最近では娘のミネデアを大聖女にする為の根回しなども行う。休む暇も無かった。
机に向かい集中していると、上級神官が気まずそうに部屋に入って来た。
「大神官様、神殿騎士と商人ギルドから特級アイテムが減っている、増やして欲しいと要望が来ています」
「またですか」
神殿で作られたポーションは半分は神殿騎士に与えられ、クラルスの西側から押し寄せる魔物を討伐する任務で使用されている。もう半分は商人ギルドを経由し、一般に流通する。
「先代大聖女様が亡くなり、新しい大聖女様もまだ決まっていないのだから不可能だと何度言ったら……いつも通り次の大聖女が決まるまで待てと言っておきなさい」
大聖女になった者は、女神クラルスに加護を与えられて力が増す。その為、作るのが難しい特級アイテムも量産できる。
大神官は女神の加護を受ける事ができない。加護を受ける儀式をする場所は男子禁制だからだ。つまり大神官は特級アイテムを量産できない。
早く次の大聖女を決めなければいけないのだが、神殿内での政治対立で大聖女不在が2年続いていたので、神殿騎士と商人ギルドに文句を言われるのは日常となっていた。
「いえ、それが……大聖女様が亡くなってからの量よりも減っている、と……」
それを聞いて大神官は眉根を寄せる。
「鑑定士達から、そのような報告は受けていませんが」
「確認したところ、確かに減っているが此の所の長い曇りに影響され聖女神官達の気分が落ちて本来の力が発揮できていないのではないか、晴れれば元に戻るに違いない、と思い報告しなかったと」
大神官は大きな溜息を吐いた。
「異変があれば、憶測など関係なく報告しろ、と伝えなさい」
上級神官はそれを聞き、すぐさま鑑定士の居る倉庫へと向かった。
「しかし、何故減ったのか……」
大神官は呟き、考え込む。そういえば、今年はポーションの材料となる薬草の出来が悪いとの報告を受けていた。神殿で作られるアイテムは殆どが需要の高い消耗品であるポーションだ。特級アイテムが少ないと言うのはポーションの事だろう。ならば、他国から質の良い材料を仕入れれば良い。
これでこの問題は解決した、と大神官は判断した。
「それにしても晴れませんね」
例年ならば秋晴れが続くのだが、窓外を見れば空はどんより曇っている。
確かに鑑定士達の言う通り、聖女神官達の気持ちの問題もあるのかもしれない。
気を引き締めて仕事しろと叱責も必要か、などと考えながら大神官は仕事を再開した。
この時、特級アイテムが減った時期とアレティリヤが追放された時期が重なると早く気づき、まだカムプスにいるアレティリヤを無理矢理連れ戻せば、クラルスは後の苦難を回避できた。
だが、そうはならなかった。




